第11話 助けられたのは私だった

 幸人と話さなくなってから一ヶ月がたった。やはり幸人は別教室にいるらしい。幸人は何をしているのか気になるが見に行けない。目を見れない。今まで通りに話せない。それを選んだのは私なのに。幸人と話しているときは毎日が楽しかった。前からも楽しかったのに、なんていうのかな〜わからないけど心が落ち着いて自分が出せていた気がする。放課後が待ち遠しく感じ始めたのも幸人と話してからだし、もっと強くなろうと思ったのも幸人のおかげだった。でも私には先輩がいるんだ。最近ずっと一緒に帰ってる。寮までだが先輩はいつも私に話を振ってくれて話しやすかった。幸人とは全然ちがう。幸人なんて全く話振らないし、無視するし、返事適当だし、先輩の方がかっこいいし、一緒にいて楽しいし、、楽しい、、、この笑顔は作っていないはずなんだ。でも前みたいに笑えない。心の底から。何してんだ。私が自分で選んだんだろ、

 次の日先輩に放課後屋上に呼び出された。

 一段ずつ屋上の階段を登っていく。静かな空間に自分の足音だけが響いてる。いつもは鍵のかかってるドアは空いておりドアノブに手をかけた。これでいいんだよね。これが正解なんだ。自分で言い聞かせる。悔いはない。

 ドアを開けると先輩がいた。当たり前か。

 「すみません。待ちましたか?」

 「俺もきたばっかりだよ」

 「そうですか」

 たぶん嘘だろう。イケメンなんだよなー性格も

 「それで何のようですか?先輩」

 わかってるのに聞いてしまう。

 「お前が入学してきた時から好きだった。付き合ってくれないか」

 やっぱりそうだったか。嬉しい。好きな人から向けられる好意というとはとても気持ちいい物だ。私も先輩のことが好きなんだ。そう思い込め。そうだ。私も一目惚れしていました。そう言えばいいんだ。簡単なことだ。毎日先輩を目で追っていた。少しの動作がカッコ良く見えた。髪型や服装、清潔感を大事にしてから先輩から声をかけてくれた。私は自分から告白しないでしてもらいたい欲求がありずっと待っていた。告白されるかもと。それで今告白されている。これでよかったんだ。これで幸人も納得してくれるだろう。よかったんだ。これで。

 「ごめんなさい」

 え?

 なんで?

 まっておかしい。

 早く今の言葉撤回しろ私

 前がぼやけ始まる。

 口を押さえて地面に膝をつく。

 泣いているんだ。

 なんで

 早く私も好きだと言え。

 なんで

 なぁん、で、、

 鼻水と涙が止まらない。おかしいよ。

 「わかった」

 先輩は私を通り過ぎてドアの方に行った。

 涙が止まらない。なんで?

 これが当然なんだ。

 幸人を裏切った私の罪なんだ。

 「ごめぇ、んな、さい」

 誰に言っているのだろう。

 屋上一人で泣いてる。自分に嘘をついて友達を捨てて一人になった。私はゴミだ。なんで自分に嘘をついていた。そしてなぜ嘘を貫き通さなかった。嘘を溜め込みすぎたんだ。幸人との日常を捨てられなかったんだ。私の中で。詰まって詰まって出てきてしまった。幸人への好意が。わかっていたのに。先輩にわるいことしてしまった。でも終わったんだ。幸人ごめんなさい。また仲良くなりたかった。

 死んでしまおう。

 ちょうど屋上だ。

 そう決めた瞬間

 ふと温もりを感じた。暖かい。私の頭を撫でてくれている。

 「辛いことがあったらこうすればいいんだろ」

 顔を上げる。聞いたことのある少し低い声。

       幸人がいた。

なんで。なんで、おかしいよ

 「ゔわぁぁぁぁぁぁぁぁぁー」

 涙がさらに出てくる。止まらない。幸人の手を握る。暖かい。暖かい。暖かいよ。

 「ご、ごめぇん、なさい」

 必死に謝る。私は彼を捨てたんだ。助けると言っていたのに。助けられているのは私なんだ。助けてくれてありがとう。

 「早く帰ろう。次は俺の部屋に来いよ」

 涙を拭い顔をあげる。私は深く頷いた。

 「鼻水めっちゃ出てるぞ。きったねー」

 「ゔるざい」

 私は立ち上がり先に歩いていた幸人に追いつき手を握った。幸人は黙って握り返してくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る