7

第12幕



(京太郎が廊下を進んでいく。)


練「ちょっと待てよ!どこに行くんだ?」


(京太郎振り返る。)


京「三組さ。それしかないだろ。」


侑「三組は鍵が掛かってるんじゃないの?また蹴破るって言うの?」


京「いやそれがね、多分三組には鍵が掛かっていないんだよ。」


侑「掛かってるって言ったのは京太郎じゃない!」


京「まあ、そうなんだけどね。取り敢えず行けば分かるよ。」


(京太郎速足で進む。二人は追いかける。


(三人はドアの前へ。)


京「じゃあ開けるよ。」


(京太郎が勢いよくドアを開ける。)


侑「あ!開いた!」


練「お、おい。どうして全員がいて、倒れてるんだよ。」


(二人が呆然としている中、京太郎は倒れた三人のもとへ進む。)


京「なあ、起きてるんだろ。涼。答え合わせといこうじゃないか。」


侑「え、何言って・・・」


涼「そっか。ばれてたのか。」


(涼、立ち上がる。)


侑「どうして!涼君があんなこと出来るはずがないじゃない!」


京「いや、涼以外には出来なかったんだ。」


練「でも、部屋から突然消えたりするなんてありえないじゃないか・・・」


京「うん、そうだね。でも、不可解に見える謎には必ずトリックがあるのさ。それじゃあ、答え合わせといこうか。」



第13幕



(京太郎、静かに部屋の周りをまわる。)


京「まず、僕らを悩ませた大きな謎は三つ。まず練が誰かを見て、その服が教室に残されていたこと。次に、二組にいたはずの涼介がいなくなってしまったこと。最後に朱梨がいなくなったこと。まあ最後のは、謎というほどでもないけどね。」


侑「練がいなくなったのだって・・・」


京「それは涼がやったことじゃないよ。まあ順を追って話すから。んーと、まず、初めの事件について僕らが発見した事実を挙げていこうか。侑希挙げてみてくれる?」


侑「ええと、練がトイレを出た後、変な音を聞いて、それで見に行ったら・・・」


京「違う違う。僕が聞いたのは、後から入ってきた僕らが発見できたことだ。僕らが事実と確認できたことは?」


侑「それだって、何も変わらないじゃない!」


京「それが僕らの悪い癖だよ。あたかも自分の体験のように語るのはよさないと。じゃあ、僕が代わりに言ってしまうよ?取り敢えず、あの時分かったのは、五組の床に赤い液体がついていて、制服が落ちていた。それだけだよ。」


侑「そうね、そうだったわ。」


涼「それで?」


京「あの時、他のみんなは一緒にいた。涼が鍵を開けてから外部の人は入って来てないし、もしその前からいたとしても隠れる場所が無かった。一組を調べてもらったのはそのためだよ。因みにぬかるんだ地面に足跡が無かったから、誰も出て行っていないことも分かる。」


練「あぁ・・・」


侑「だから?」


京「だから、練は誰も見ていなかったんだよ。」


侑「そんな!その可能性は否定したんじゃなかったの?」


京「いや、否定したのは、練が自分で血のりと服を持って行って自作自演をした可能性だよ。確かにこれは無い。でも、確かに三階にそれらがあるのを僕らも見た。だからあり得るのは、初めからそれらが三階にあったということだけだよ。」


侑「そんな・・・!」


京「すると、何かしらの意思を持ってこれができたのが三人。僕らより前に来ていた、涼と朱梨と涼介、の誰かが犯人ってことになる。」


侑「待って待って!練はどうしてそんな嘘をついたの?」


(練は俯いている。)


京「取り敢えず、理由は後回しにしよう。事件解決が先だよ。」


京「誰がやったかはこの時点では絞り込めない。するとそこで次の事件が起きる。侑希、次の事件で侑希が確認できたのはどんなこと?」


(侑希、腕を組んで考える。)


侑「涼介が部屋から消えた・・・じゃなくて。京太郎が、二組で涼介が倒れているっていうから来てみたら、赤い液体が床についていた。」


京「そうだ。上出来だよ。でも今度は、僕がこの目で確実に涼介が倒れているのを見た。命を懸けてもいい。」


(練、顔を少し上げる。)


練「それなら、誰かが涼介を運んだか、涼介が自分で動いた?」


京「あの短時間では運べないね。涼介が自分で動いたってのもあり得ない。」


練「それはどうして?」


侑「京太郎がドアに髪を挟んでおいたのよ。それが挟まれたままだった。うつ伏せで倒れていた涼介には、そんな仕掛けがあるとは分からなかったはず。もし自分で出たなら髪がなくなっているはず。こういうこと?」


京「完璧だ!その通りだよ。涼介は倒れた場所から出て行ってないし、誰かが運んだこともない。でも確かに、二組にはいなかった。」


練「それじゃあ、やっぱり・・・」


(練後ずさり。)


京「まだ幽霊が見えてるのかい?ここから分かるのは、涼介が倒れていたのは二組じゃないってことだ。」


侑「そんなっ!」


京「僕らが駆け付けたのは確かに二組だった。一組の隣にあったからね。これはみんなが確認してるから確かだろう。」


(侑希、頷く。)


京「するとやはり、涼介が倒れていたのは二組じゃ無かった、これ以外にはあり得ないね。確かに、僕が、涼介が倒れているのを確認した後、見たドアのプレートには二組と書いてあった。二組だと思わされていたんだ。」


練「誰かがプレートを入れ替えていた?」


京「そうだ。三組のドアに二組のプレートを入れておいたんだろうね。三組は鍵が掛かっていると思ってたから、疑うこともなかった。」


侑「三組に鍵はかかっていなかった?」


京「そうだ。取り敢えず犯人の行動を振り返ってみようか。三階を探索した際、何らかのトリックで三組が鍵のかかった部屋に見せた。この時点では犯人は涼と涼介の二人のどちらか。その後、僕に涼介が二組で倒れていると見せかけた。僕がみんなを呼びに行った段階で、プレートを元に戻して、僕の髪の毛を二組のドアに挟んだ。僕の咄嗟の行動のおかげで犯人が絞れたわけさ。僕の行動を監視できたのは涼しかいなかったんだよ。」


(しばらくの沈黙。)


侑「それじゃあ、練と朱梨が消えたのは?」


京「練はずっと侑希と朱梨のそばにいたし、涼も三組の中にいた。それでも練が消えたのなら、それは練が自分の意志で消えたとしか考えられない。違うか?」


(練、頷く。)


京「理由は後だ。朱梨のはもっと簡単だよ。三階にいたのは涼と朱梨だけだったし、突然飛び出して、薬で眠らせたりするだけで充分さ。座敷わらしが頭になかったなら、誰でもこの時点で気づいただろうね。中々気づけなかったのは、やっぱり、この雰囲気に呑まれてしまったからだろうね。」


侑「そんな・・・」


京「これで合ってるかな?」


(京太郎、涼と向き合う。涼は目を逸らしながらも頷く。)


涼「うん、さすがだよ京太郎は。思ったより早かったから時間が足りなかった。」


(そういって窓に駆け寄り、身を乗り出すが、京太郎が慌てて止める。)


京「死ぬなよ。お前には説明する義務がある。動機の詮索なんてしたくはないが、何か伝えたいことがあったんだろ?後、練もだ。練の行動で僕らも随分と攪乱させられたんだ。」


(涼、練、項垂れる。)


涼「じゃあ、僕から・・・」



第14幕



涼「みんなに復讐しようと思ったんだ。母さんを苦しめたもので。」


京「それは・・・」


涼「思い込みだ、推測だ、レッテルだ、人間の弱さだ!母さんは自殺したんじゃない、殺されたんだ!」


(沈黙。)


涼「一年前、父さんが捕まったのは覚えてるよね?捕まるのは当然だったし、何でそんなことしたかなんてどうでもよかった。ただ、母さんとの生活を守っていくのに必死だった。でも、みんなは違った。怪奇的な犯罪には、大それた動機や、背景事情があるとばかりに、僕らの詮索ばかりした。でも、そんなの分かるはずがないんだ。父さんは家で多くを語らなかったし、僕たちも知らなかった。でも、それで良かったんだ。父さんとの楽しい思い出は嘘じゃ無かったし、父さんは自分の罪と向き合って、僕らはそういう現実の中で生きていく、それで充分だった。」


京「それでも周りは・・・」


涼「納得しなかった。記事になるようなスクープが無い、理由が無いなんておかしい。そう言って、あることないこと噂するようになった。家庭状況が複雑だったから、悩みを打ち解けられる場所が無かったから、とかね。犯罪者の家族、それならまだ受け入れられたんだ。でもいつの間にか僕らは犯罪者同然だと言われるようになった。」


侑「そんな・・・涼のお母さんは・・・」


涼「好奇心なんてもんじゃない、弱さだ。分からないままが嫌だから、なんだか怖いから、都合の良いように解釈する。そこに現実なんてない、僕らのことなんて頭にない。何だかそれは、とても虚しかった。怒りもあったけど、当事者になるまでそんなことをしてきた自分がいて、すごく情けなかった。それでも、僕らは生きようとした。ああ、実際は僕だけだったみたいだけど。」


(涼、寂しそうに笑う。周りはその様子をじっと見ている。)


練「涼のお母さんは俺らのせいで・・・」


涼「僕が生活するのに困らないような分のお金を残して自殺した。辛かったし、僕も死んでしまいたかったけど、みんなが死なせてくれなかったね。罪を母さんに押し付けて、分かったふりをして、僕を慰めた。みんなは良かれと思ってしたんだろうけど、母さんの苦労や辛さは誰にも伝わらずに、犯罪者のレッテルを貼られたまま死んでしまったんだ。それが悔しかった。何とかして伝えてやりたいと思った。」


京「それで今回・・・?」


涼「うん。練が幽霊が出るって話を持ってきたから、ここしかないと思った。トリックは大体京太郎が言ったとおりだよ。」


京「どうして殺さなかったんだ?僕が言うのもなんだけど、殺してもおかしくなかったんじゃないか?」


涼「一度は考えたんだけど、それは無いなと思った。それじゃあ、母さんは喜ばないし、それに僕が勝手に思い込んだまま殺したりしたもんなら、報われないでしょ。それにみんなは優しいって分かってたから。壁の落書きを消してくれてるのだって分かってたし。まあ、だからこそ、みんなにあんなこと言われた母さんは悲しかったんだと思う。」


練「どうして、どうして言ってくれなかったんだよ!言ってくれてたら、涼の母さんのことだって・・・!」


(練座り込み、顔を伏せる。)


京「よせよ。そんなこと気安く言えるもんじゃない。それに言いにくい環境を作った僕らのせいだ。本当に悪かった。こんなので許されるとは思わないけど、本当にごめん。」


(京太郎、頭を下げる。)


侑「ごめんなさい。ごめんなさいっ!」


(侑希、頭を下げる。)


涼「いや、僕も悪かったんだ。練の言う通り、説明すれば良かった。説明しないで分かってもらえるなんて傲慢だね。今までごめん。でもみんなに伝えられて良かった。」


(練が顔を上げる。)


練「これで終わりみたいに言うなよ。これからじゃないか。涼の母さんをこれ以上悲しませちゃいけない。」


(涼、少し笑顔になる。)


涼「そうだね。」


侑「でも、私たちに何ができるのかしら?」


京「一つ一つやってくしかないさ。現実を見つめて、安易に簡単な、時には魅力的な解答に逃げて、考えることをやめてはいけない。そうだろ?」


涼「そうだね。座敷わらしなんていないんだよ。きっと。」


練「取り敢えず、二人を起こさないと。」


(練が二人に駆け寄る。その行く手を侑希が遮る。)


侑「ちょっと待ちなさいよ!まだ、あんたの動機を聞いてないわ!」


(練、動揺する。)


練「えっと、それは・・・」


京「それは僕も気になるな。」


(京太郎は笑っている。)


練「京太郎は、どうせ分かってるんだろう?」


(京太郎は練近づき、練の耳元で囁く。)


京「侑希に構って欲しかっただけ・・・?」


練「うわぁぁ!それ以上言わないでくれ。こんな雰囲気で言えるはずないの、分かってるだろ。」


京「でも、自分の思いは伝えないと駄目じゃないか。今の話、聞いてなかったのか?」


(侑希が、二人に近づいてくる。)


練「それは分かってるけど・・・明日!明日必ず告白するからっ!」


(涼と侑希は怪訝そうにする。京太郎は笑っている。)


侑「告白?告白って何よ。今じゃダメなの?」


練「今!?今は勘弁してくれ。まだ心の準備が・・」


京「まあ、明日には話してくれるんだから、明日まで待とうよ。取り敢えずはそう、幽霊のせいってことで・・・」




                   了

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