第38話 そして彼らは先へ進む、

 砂術縛漠。

 男はそう名乗った。


「よく来てくれた。縛漠」


「で、俺に何を頼みたい?」


 唐突なその質問に、斬花将軍は答えた。


「第一から第十一環境軍の中に、裏切り者がいる」


 拳を爪が食い込むまで握りしめ、斬花将軍はそう言った。僕はそのことに初耳だったため、驚きのあまり声をあげれず、体が硬直していた。

 だが縛漠将軍は察していたらしく、平然と話を続けた。


「なるほど。で、俺は信頼できるか?」


「当たり前だ。私たち三人は、子供の頃からの大親友だ。それに誓い合っただろ。いつか必ず、世界を取り戻そうと」


「そうだったな」


 斬花将軍、根羅々将軍、縛漠将軍は互いを懐かしそうに見つめながら、優しく微笑んだ。


「では、ここに世界平和同盟を結ぼうではないか」


 根羅々将軍のマイペースにのせられ、斬花将軍と縛漠将軍は差し出された手の甲に手を重ね合わせ、皆で叫んで彼ら彼女らは気合いを入れた。

 そして程なくして、僕たちは第四環境軍の会議室で、様々なことを話し合うことになった。


「では、裏切り者に第一環境軍は除外されるな。となると、一番怪しいのは第九環境軍ではないか?」


 鋭い質問に、斬花将軍は驚きの表情を見せる。

 縛漠将軍はそこからさらに推理し、核心的な情報へ導き、縛漠将軍は会議室の壁にあるホワイトボードにある一言を記した。


「反物質:ゲノムマター」


 その言葉が発せられた途端、早乙女はその言葉を発した縛漠将軍の顔を凝視した。なぜかは解らない。だが早乙女の動揺ぶりからは、その単語を知っているということが察することができた。


「なあ早乙女。何か知っているのか?」


 隣に座っている早乙女に、耳元でそう囁いた。だが数分固まった後、ハッとして早乙女は僕の顔を見る。

 何か早乙女は知っているようだが、なぜ彼女はこんなにも動揺するのだろうか?


「神野。あれには魔人を人に変える謎の成分が含まれている」


 それを耳に入れたのか、縛漠将軍は語る。


「そうだ。この反物質:ゲノムマターという物質にはなぜだか解らないが、魔人を人に変えてしまう成分が含まれているらしいんだ。〈大災害〉はこの物質を使い、存在するを人に変えようとしてる」


「全ての魔人を!?」


「そんなこと、できるはずがない」


 驚きのあまり、僕は思わず立ち上がってしまった。

 だがそれは他の者も同じで、動揺を隠せていなかった。そんな中、縛漠将軍は冷静に語る。


「だがカタストロはやろうとしているらしい。だが一体どんな手を使うつもりなのかは解らない。それでもカタストロがしようとしていることを、我々全ての環境軍を統率する環境局上層部は知っている。だが上層部はそれをさせないつもりらしい」


 たしかそれは斬花将軍が言っていたな。

 上層部は"悪魔"である僕を観察し、どんな危険があるかを確認していた。そして結局、悪魔は害であると認識させてしまった。その結果、上層部は悪魔を生み出すのを反対している。と言ったところだろう。

 ったく、全く世界とは、本当に愚かだ。


「確かに魔人は害であるが、それは全ての魔人がそうということではない。とは言っても、民の中からも反対する者は出るだろうがな。だから実際、この計画が本当に正しいものなのか、それはまだ解らない。が、今は様子を見よう。〈大災害〉がなぜこんなにもスパイを送り込んでいるのか、それを探った上でだがな」


〈大災害〉の目的。

 それが何なのか、それはまあ魔人を人に変えること。だがなぜそんなにも魔人を人に変えることにこだわる?それにスパイを送り込む理由も解らない。

 魔人研究学会にスパイを送り込むのは解る。それは魔人について知りたい、そういうのがあるからだ。だが環境軍にまで、しかも相当強い存在をなぜ環境軍にスパイとして忍ばせる必要があった?


「神野。あんたは勘づいてはいるでしょ。カタストロが、いや、〈大災害〉が何をしようとしてるのかを」


 早乙女も何かを察しているようで、僕に問う。


「ああ。だがもしそうだとしても、なぜカタストロは再び……」


「私たちまだカタストロという男を知らない。だから今は解らないこと。でも今日を期に、彼らの真の目的を知る、それさえできれば、良い。それに、アリーゼと合流すれば、〈大災害〉の情報をまだ聞き出せるかもしれないし」


「そういえば、アリーゼはどこへ行った?」


 そこへ、斬花将軍が割り込んだ。


「アリーゼは今、第十環境軍で保護されている。これから私たちは第十環境島へ行き、第十環境軍へ探りを入れる。そこで何が解るのか、怖いけど、私たちは進もう」


 掻き立てられ、僕たちは第十二環境軍の船で第十環境島へ向かう。


 一体、世界はこれからどうなるのだろうか?

 そんなの、今の僕らには解らない。

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