神野王真実編

第32話 第四

 僕と早乙女が目を覚ましたのは、知らないようで見覚えがありそうなどこか。

 森の中のようだが、どういうわけか、木が倒壊していたり、焼けていたりと色々おかしな場所が多々ある。


「早乙女。ここ見覚えないか?」


「うん。見覚えはあるんだけど……どこだったかまでは……」


 どうやら早乙女も見覚えがあるようだが、ここがどこだったかまでは覚えていないらしい。

 もやもやする感情に支配されながらも、僕はここがどこなのかを必死に考える。とそこへ、一人の女性が僕たちの前に現れた。その女性を見た途端、僕はここがどこかを思い出した。


「まさか……第四環境軍将軍、木術根羅々将軍!?」


「久しぶりだな。民間環境軍の若きエースたちよ」


 堂々としたたたずまいで、根羅々将軍は僕たちの前に現れた。

 死んでいなかったことに喜びを覚えつつ、彼女が平然とこの島をさまよっているのを少し疑問に思う。


「根羅々将軍。どうしてまだこの島にいるんですか?魔人がいるんだったらすぐに去った方がいいんじゃ?」


「確かにそうかもしれない。だがな、私はこの島に思い出がある。そう簡単に離れられるわけじゃないんだ。それに、まだこの島には魔人がいる。だからそいつらを倒せば、この島は元通り」


「そうかもですね……」


 どことなく寂しい口調で言う根羅々将軍に、僕はそんな曖昧な答えを返す。

 根羅々将軍は僕たちを見ると、表情を曇らせる。


「なあお前ら。どうしてこの島にいるんだ?」


「実は……〈大災害〉のアジトを環境軍の連合が突き止めたらしいんですけど、そこで僕たちはカタストロに捕まって、それからのことは覚えていません」


 そう言いながら、僕はカタストロに気絶させられるまでの経緯を思い出す。

 アリーゼを第十環境軍に預け、早乙女の帰りが遅いのを心配して森の中に危険を承知で入って、でそこから……

 そこで僕は、思いがけないことを思い出す。


 そういえば早乙女は、首を跳ねられていたはず。だというのに、今は早乙女の首には斬れたような跡はなく、まるで夢だったのかというように何事もない。

 もしやこれは幻覚、と思いもしたが、そんなはずはない。まあ確証はないが。


「なあ早乙女、首とか痛くないか?」


「全然だけど……どうかした?」


「いや。なんでもない」


 早乙女は不思議な顔をして僕を見ている。

 僕はそんなことにも目もくれず、ただ物静かにして考え込む。


「なあお前ら。どうせ暇だろうし、魔人との戦闘を手伝ってくれないか?まあそんなに強い相手ではないのだが、一人じゃやっぱ苦戦しちゃってさ、それに私は木を操る。対してその魔人は火炎を操る。だから君たちの力を借りたい。構わないか?」


「はい。私は全然大丈夫です」


 早乙女の百点満点の解答を聞き、根羅々将軍は僕に熱い視線を向ける。

 断って見るのも面白かったが、それよりも卜は魔人がどんなものかを知ってしまっている。だから魔人に会うべく、僕は根羅々将軍ととも第四環境軍の基地へと向かった。


 基地はところどころに穴が空いており、火炎が周囲に漂っている。そんな昔とは一風変わってしまった儚い基地を前にして、僕は根羅々将軍の顔を見れずに建物の中へ入る。

 たまたま視界に入った時の根羅々将軍の表情は、毎回どこか悲しい目をしていた。


「根羅々将軍。どこに魔人がいるんですか?」


「あれだよ」


 根羅々将軍が指差した場所を視ると、そこには二十段ほどの階段があり、その一番上の段に火炎を纏った人のような見た目をした魔人が座っていた。

 人であるが、全身黒こげで顔が火炎そのものになっており、首から上は攻撃しても一切効かなそうだ。


 確か図鑑で見た火の魔人も同じような見た目をしていたな。

 その図鑑によると、弱点は特になく、頭部の火炎を水で消しても特に意味はないらしい。だが火の魔人は打撃などによる物理攻撃に弱いらしく、体の内部は火炎によって脆くなっているらしい。


「根羅々将軍、倒してもいいのか?」


「お前、コピー能力しか使えないはずだが……」


「いえいえ。夢を見たおかげで、力の使い方が解ったんですよ」


 僕の右側頭部からは悪魔のような角が生え、僕の拳に火炎が纏われる。その拳を握りながら、僕は一歩ずつ火の魔人へと歩み寄る。すると火の魔人もこちらの気づき、立ち上がって拳をボクシング選手のように構える。


「すぐに終わらせてやる」


 ーー魔人とは、人であるから。

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