第三章 〈大災害〉

〈大災害〉殲滅作戦

第27話 百ある選択肢

 僕たちは襲いかかってくる〈大災害〉のメンバーを、ぐうの音出る前に次々と吹き飛ばしていく。

 早乙女とアリーゼの力を借り、右目は緑、翠、茶の三色に染まり、左目は深紅色に染まっている。


「『火炎暴風』」


 火炎の渦で周辺の〈大災害〉のメンバーを一網打尽で振り払い、僕たちは島の中心に高くそびえ立っている巨大な塔を目指して走り出した。

 とはいっても、どこからともなく〈大災害〉のメンバーが沸いてくる。


「全く、死にに来るだけだと言うのに、ああ。まさかお前ら、のか。なら遠慮なく、木っ端微塵にして殺してやるよ。『火炎焦土』」


 森の中が火炎に染まり、〈大災害〉のメンバーは死に物狂いで死んでいく。彼らを無様に思いながらも、神野たちは急いで塔を目指す。

 だが海辺の方から波を進む音が聞こえ、背後を見ると、既に第一環境軍の戦艦が何隻も到着している。


「まさか……!」


「神野。どうしたの?」


「アリーゼ。多分だが、第一環境軍。いや、それだけじゃない。多分この島に来る全ての環境軍は、全勢力をもってして〈大災害〉を潰しに来る」


 アリーゼと早乙女は驚きを隠しきれない。

 二人は背後を見て、僕が言っていることが本当なのだど確信した。


「神野、早乙女。三手に分かれるぞ。このまま三人で固まっても動いたとしても、数が多くてなかなか先へは進めない。だが三手に分かれて動けば、敵の数が多くてもある程度は対応できる。どうだ?」


 確かにアリーゼ意見は最もだ。

 このままあの塔を目指したところで、人の壁が邪魔をされすれば塔につくまで時間がかかる。そうなると環境軍の者たちもすぐにこの島へつく。

 だがここが戦場になる前にウッドマン博士を救出しなければ、もしかしたらウッドマン博士もまとめて、環境軍が攻撃を開始してしまう可能性がある。


 こうなったら、とことんまでやるしかないらしい。


「アリーゼ、早乙女。三手に分かれる。僕はまっすぐ塔を目指す。だからアリーゼと早乙女は塔周辺の森で、〈大災害〉のメンバーを撹乱させろ」


「ああ」


「了解」


 一番危険な仕事は僕でいい。

 きっとあの塔の中には、〈大災害〉の王ーーカタストロがいるのだろう。だから僕はあの男と決着をつけなければならない。

 今はもう形を成してはいない民間環境軍であるが、きっと将軍が生きている。だからこそ、民間環境軍の兵士として、最善を尽くして〈大災害〉を殲滅する。


 アリーゼと早乙女はそれぞれ左右へと移動し、僕はまっすぐ塔を目指す。


 だが三手に分かれたと言っても、所詮はただの撹乱。

 敵の数は圧倒的であるからに、僕の方にも少なからず敵は来る。


「『火炎暴風』」


 火炎を風にのせて放ち、〈大災害〉のメンバーを一掃する。

 そしてあっという間に塔につき、扉を破壊して塔の中に侵入した。


「待ってたよ。神野王」


 僕にそう言った一人の女。

 光る剣を何本も宙に浮かし、いつでも僕を殺せるようにと構えている。


「シャインか。ソードはどうした?」


「休憩させている。姉としては、しっかりと護ってやりたいからな」


「面白い。ならばかかってこい」


 シャインは光の速度で動く剣を僕へと差し込む。

 僕はギリギリで体勢を捻って剣を避けるも、やはり光の速さでは油断など一秒たりともできるはずがない。


「まあいい。『火炎焦土』」


 地に手を当て、一瞬にしてコンクリートの地面はマグマのように煮えたぎる。


「あまいな。私は光そのもの。つまりは、光が存在する全てが私の大地」


 宙を歩き、そしてやっと慣れたのか、空中を走る。

 手を振り上げ、また何十本もの光の剣を創製する。


「まじかよ。なかなか厳しい戦いになりそうだな」


「勝てるような言い方をしているが、お前は私には勝てない。当たり前だろ。私の方が能力が上なんだから。ケッケッケッ。さあさあ、勢いが失くなってきたじゃないか」


「『火炎暴風』」


 暴風にのせて火炎を放つも、シャインは自分の目の前に光で壁を創り、それで火炎を纏った暴風をいとも容易く防いだ。

 炎煙が上がるなか、シャインは死角から僕の脇腹へ『光の剣』を浴びせる、がしかし、僕は自身の体を風で吹き飛ばし、飛んで宙からシャインを狙う。


「『火炎きゅう』」


 僕は矢を手に持ち、その火炎の矢をシャインへと放った。


「いい加減無駄なことに気づけ」


 火炎は光にかき消されるようにして消え、僕へと光が暴風のようにしてデコに衝突する。


「がっ!」


 意識が飛びかけ、僕は焦土と化した地面へと落下しかける。何とか風で体を浮かせ、僕は手にあせ握る戦場で思考をまとまらせる。


 このままでは勝ち目はない。だが、ここで仕掛ければこてんぱんにされる。だが、ここで仕掛けなければ環境軍の者がここを滅ぼしかねない。


「神野王。決まったかな?」


 そうだ。もうそれしかない。

 最悪の場合も想定されるが、そうしなければ僕はこいつから逃げられない。


 僕は全身にマグマのように燃えたぎる火炎を纏わせ、体を丸くさせ、空中で何度も回転する。


「何をしている?」


 無駄なこととばかりに僕を見つめ、シャインは自分の目の前に光の壁を創製する。


 そうだよな。普通ならそうするのが正しい。

 だがしかし、この場合は僕自体を光で閉じ込めた方が良かったんだよ。


 僕は下に向けて突風を発射し、勢い良く天井へと体を衝突させる。普通ならば天井に当たって跳ね返る、がしかし、今の僕はマグマのように高温状態。つまり、天井を溶かして上を目指す。


「先を急ぐぜ。シャイン」


 僕は回転する体で天井を溶かしながら進み、あっという間に最上階。

 ここに来るまで、ウッドマン博士を見つけることはできなかった。


「くそ……」


 破壊された壁から海辺を見ると、既に環境軍が島へ上陸している。しかも全方位から。


「君が、神野王だね。久しぶりだね。見ないうちに随分大きくなっちゃって」


 この心臓を震わせるような声質。

 そして圧倒的力を有しているから故のその満面な笑み。

 そして勝ち誇った態度。


「何年ぶりだっけ。カタストロ」


 僕はカタストロの顔を見た瞬間、全部思い出した。

 あの中途半端に終わった夢の続きも、あの後自分達がどうなったのかも、その全部を、僕はこの瞬間に思い出した。


「カタストロ。お前は……僕じゃ理解できない存在だ」


「そうかい。その口ぶりだと、私の全てを思い出したようだね」


「ああ。気持ち悪い感触だったが、ようやく全部を思い出すことができた」


「ではその上で問おう。私と、戦うかい?」


「…………ああ」

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