第29話 訳あり中古車

私が車の免許証を取得できる年に、怪しい中古車が出回っていた。

見た目普通の中古車屋さんだが、お金のない少し悪目のお客さんには普通では売らない車を販売してくれた。

もちろん店主も元ヤンチャ系の走り屋さん。


当時20歳になる先輩が、1ヶ月~2ヶ月で車を変えていた。

その車の値段が5000円~30000円と格安だった。

車の状態もまちまちで、汚ない古いといった印象の物ばかり。

座席の床が錆びていて、所々に小さな穴が開いていた。

走る路面が足元に映り、何時床が抜けてもおかしくなかったくらいボロボロの車だった。

車検が無くなり次第廃車を約束に買っていたのだ。

そんな車検も1ヶ月~3ヶ月しか無い訳ありの車を乗り継いで遊んでた。


そんなある日、けっこう綺麗めの車が入ったと連絡が中古車屋さんから電話が。

行ってみると、4年半おちの紺色の車が用意されていた。

店主が

「どうよ、綺麗だろう。」

ボディの汚れはあるが、今までみてきた車とは明らかに違う。

普通に店舗に飾ってあってもおかしくない。

「ここだけが凹みあるが、他は完璧。

洗えば綺麗なもんよ。」

車体左前のバンパーら辺を指さしながら話した。


確かに、何かにぶつかった後がバンパーに残っている。

私は、気になるほどではないと思えた。

「半年の車検付きで5万円でどう。」

確かに見てきた車達より格段上、バンパーさえ直せば車検とってもいいほどの車だ。

先輩が私の方を見て

「岡田、お前買えば。

車欲しいと言ってたじゃん。」

「お・俺ですか。」

少し迷ったが車を買うことにした。


車はすこぶる調子良かった。

半年後に廃車なんて勿体ない。


車を購入し少したつと、私にある噂がたった。

夜な夜な助手席に女を乗っけてデートしてると。

見に覚えの無い噂だった。

友人達は、話を面白おかしく変えてしまう。

そんなものだろうと思っていた。


ある日の夜友人が

「岡田、今日彼女は?」

「えっ!なんの事いってるんだよ。」

「彼女とドライブの為、車買ったて噂だよ。」

「そんなのいないよ。」

「またぁ、この前の夜見たぜ。」

私は何を言われてるのか検討が、つかなかった。

「黒い髪の長い子が乗ってたよな。

隠すなよ。」

「?????」

「佐藤も宮田も見てるんだから。

この車に乗っけて走ってるところを。」

どうも私をからかってる訳ではなさそうだった。

友人と別れ一人ドライブへ


今日は、助手席の女性の事が頭から離れない。

そんな事を考えてたせいだろうか、ハンドル操作が遅れたのかガードレールが左側目前に迫った。


キッキー!


急ブレーキを踏んだ。

おもいっきり踏んだ。

ギリギリぶつからないで止まった。

「はっー!」

鼓動が激しい。

ハンドルに頭を埋めて落ち着くのを待った。

顔を上げた瞬間、ルームミラーに女が映った。

後部座席に座っていて、私を見ていた。

上目遣いの目が印象的だった。


あわてて振り返るが、誰もいない。

ミラーを見たが同じだ。

何かの見間違いだと思う。


とにかく車を確認する為に車外に出た。

左のフロントからタイヤにかけてベッタリとした黒っぽい液状の汚れがあった。

オイル漏れでもおこし、ハンドルをとられたのかと判断した。

とにかく帰ろう。

修理に出すのはその後。


車庫に戻り、もう一度車体を確認する事に。

車体左前の汚れが無くなっている。

車全体キレイなままだった。

この時から異変に気づき始める。

「おかしいな。」

あの油汚れはなんだったんだろうか。


次の日の夜

確認をかねて車に乗った。

昨夜と同じ道を走っていた。

「確かこの辺でミラー見たら後部座席に女がいたんだよな。」

と思いつつミラーに目をやった。


いた!

女がこちらを見ている。

長い黒髪の女が薄笑いを浮かべている。

車を止めて確認するが、なんら痕跡はない。


気に入ってた車が、今は怖い。


とりあえず戻らないと、車を走らせた。


今度は助手席から気配がする。

直視するのが怖くてできない。

身体中から冷や汗が吹き出す。

でも確認をしなければと思いルームミラーを見ることにした。

ミラーの左端に黒い髪が見えた。

横を向いている、私を見ているのだ。

かなり私に近い位置にいる。

感じる息づかいが聞こえてくる。

この車は、いわくつきなんだ。

もう運転できない。

路肩に止めて置いていくことにした。


ブレーキを踏む。

タイヤが直ぐにロックされ滑り始めた。

ハンドル操作も効かない。

タイヤが路肩にある溝に落ちて止まる事ができた。


車から転げ落ちるように飛び出した。

車内には、女の姿は見えなかった。

車の左前方には、再び汚れがこびりついている。

今日は思いきって手に取って確認してみることにした。

ぬめっとした感触が油と違う。

赤黒い液体は『血』だった。

言葉にならない。


怖くて走った。

暗い道を走って帰った。

どう帰ったかも覚えてないが、布団を被って朝方まで震えていた。


翌日、中古車屋の店主に連絡した。


先輩とともに中古車屋さんに呼び出された。

「すまん。

あれ、事故車なんだ。

人身事故で女性が一人亡くなっちゃてるんだよね。

廃車をする事で警察から引き上げてきたけど、もったいなくてな。

まさか呪われてるなんて思ってなかったよ。

本当にごめん。」

「ぼくももう乗れませんよ。

あんな怖い思いもう無理です。」

先輩が笑いながら

「岡田が幽霊とドライブしてるって、噂になっているしな。」

「勘弁してくださいよ。

死ぬ思いだったんですから。」


その後店主からはお金を返してもらった。

これで内緒にってことらしい。

車は即座に廃車された。





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