第19話 宿屋の怪

私の部所は宣伝の為、地方で新商品のキャンペーンをおこなったていた。

この日は、段取りもよくなかったせいもあり遅くまで仕事がかかってしまった。


明日は、朝早くから新宿でのキャンペーンだ。


部長が急遽、新宿に宿をとってくれた。

「予算がないから、多少は我慢してくれ。

男6人が寝る事ができればいいよな」

「雑魚寝でも寝ればいいですよ」

皆が同じ気持ちだった。


新宿に12時すぎに到着した。

そこは、中心地から少しはずれた所にあった。

東京の新宿に民宿があるなんて、建物をみて驚きを隠せなかった。

戦後の昭和を思わせるたたずまいが、夜のやみを伴って不気味だった。


扉は引き戸で、開けるとカウンターらしくなっている。

宿の男性が、

「二部屋用意してます。

こちらにどうぞ」

と案内をしてくれた。

階段横の部屋に部長達三人

我々は、お婆さんに二階の部屋を案内された。

六畳間に布団が三つ敷いてあった。


寝る用意をしてると、同僚の田中さんが上がってきた。

「誰か部屋変わってくれないか。

寝れないんだよ、あの部屋」

「どうしました。」

「本当の事言うよ。

いるんだよ幽霊が。

青い顔して、頬がやつれた軍服姿の人が、

ずっと押し入れの前に座って、見てるんだよ俺の事をずっと。

寝てたら襲われそうな気がしてさ」

一同が顔を見合わせた。

「霊感が無い人なら大丈夫。

現に部長達、何も言ってこないでしょ」


「頼む、明日早いし、寝れないと困るし」

渋々、私が田中さんと代わる事になった。

「山野さん、悪いな」

と、田中さんは申し訳ない顔で頭を下げた。


部屋に行ってみると、すでに部長達二人は寝ていた。

もちろん押し入れの前には、何も見えない。

しかし、押し入れからなるべく遠ざけるよう布団を離して寝る事にした。


朝、目覚ましの音で目が覚めた。

思ったよりすんなり睡眠できたようだ。


「山野さん別に変わった事なかったよね。

なら良かった」

心配して田中さんが聞いてきた。


玄関先で宿の男性が見送ってくれる。

何気なく私が

「あれ、昨夜のお婆さんはまだ寝てるのですか」

と聞いてみると、

驚いた表情で

「えっ、昨日から私一人ですよ。何か勘違いなさってませんか」

真顔で答えられた。


田中さんが後で教えてくれた事は、

あそこの宿には数体の霊がいたこと。

お婆さんは、幽霊だったと。

見えてたのだ、私にも。

同部屋だった三人とも見えたのだった。








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