春と修羅場②

ヤンと篠宮は中になんなく侵入して屋上に無事辿り着けたが、屋上には2人の人影と血の海がそこにあった。

愛染が銃を突きつけ、ゴルゴが壁に背をもたれ座っていた。2人は何か話し合っているというより愛染がゴルゴに対して一方的な怒鳴っているのが聞こえてきた。

「おまえさあ、なんなのマジで。最初ミスって、しかも敵の主力部隊のリーダーも撃ち損じるって、どんだけ俺に足を引っ張るの?」

「申し訳ございません。次からは気をつけます。」

「気をつけますって毎回言ってるけど、全然改善されてないじゃん。仕事でもゲームでも君だけだよ同期の中で結果残せてないの。」

「申し訳ございません。」

「申し訳ございませんってそればっかりじゃん。あーもーお前さえミスらなければ今ごろ俺の副会長の座が盤石だったのに……クソが」

そう言うと愛染はサイレンサー付きのマグナムを手に取り、ゴルゴを撃ち続けた。

「一回ゾンビ、、、になった方がもっと役に立つかもな」

愛染はそう言って引き金を引こうとした瞬間だった。

「おい、銃を下ろせ。」

ヤンはアサルトライフルを持って愛染を牽制した。

「なぜ、下級市民がこんなところにいる。」

「いいから銃を下ろせ。」

愛染はそっと銃を置き、手を挙げ、そして静かに言った

「どこまで話を聞いた?」

そう言った愛染の目は殺気を飛ばしていた。

「最初から聞かせてもらった。当然今のやり取りは録音させてもらっている。」

愛染の握った拳がわなわなと震えていた。

「そうか、ならしょうがない。消えてもらうしか方法はなさそうだな。」

「ふん、ここで俺たちを殺したところでまた復活する。その時に生徒会長に告発させてもらう。」

その言葉を聞いて愛染は不敵な笑みで

「お前たちの思い通りにはならんぞ。」

そう言うと愛染は2人に目がけて突進を仕掛けた。迫り来る愛染にヤンは撃てなかった。今ここで撃てば下の階の風紀委員に自分たちの存在がバレてしまう。そんな一瞬の隙に愛染はヤンのアサルトライフルを蹴飛ばしそのまま腹に一発強力なボディブローをかました。その勢いのまま追撃しようとする愛染に篠宮が警棒状のスタンガンを取り出し愛染に振り下ろしたがすぐに避けた。正直、虎の威を借る狐程度に本人自身弱いと思っていたがかなり強い。

「君たちの力はその程度かい?」

愛染は続けて挑発した。

「君たちのことはよく知っている。装置デバイスがないとダメなか弱いお嬢ちゃんにトラップがないと何もできない小僧。君たち2人相手なんて造作もない。」

かなり舐められているが実際その通りだ。この現状、あまり音を立てず奴を倒してゴルゴを救うのはほぼほぼ無理だな。さてどうするか。。。

3人の間に静寂が生まれた。どちらも攻撃の隙を伺っていた刹那、篠宮が飛び出し先程のスタンガンを愛染に叩き込もうとするが、すぐに避け篠宮の手首掴んで無理矢理スタンガンを奪取した。そのまま篠宮に一撃をあたえようとした瞬間、音もなく愛染の足に弾丸が撃ち込まれた。この間、ヤンは篠宮が攻撃してる間にすぐ近くにあった愛染のサイレンサー付きマグナムを拾い撃ったのである。篠宮はその場を離れヤンのところに逃げた。

「もう観念しろ。このスキャンダルはすぐに広まる。」

そう言うと愛染はくっくっくと笑い、そして言った。

「君たち惜しかった。多分君たちの望む展開にはならないよ。」

そう言って愛染の足元にあったアサルトライフルを手に取った。おい、殺される覚悟で撃つのか。そう思い、2人は同時に引き金を引いた。しかし自分が思っていた展開と違う結末だった。奴はヤンの銃弾を避け自分の肩に銃を撃ったのである。この状況にヤンは理解が追いつかなかったが、篠宮はハッとした顔で

「やられた。すぐにこの場から逃げるぞ。」

そう言った瞬間、背後のドアから10名ほど風紀委員が現れた。

「動くな、全員銃を下ろせ」

あーなるほど、そういうことか今の銃声で下の階にいた風紀委員を駆けつけさせ、さらにこの状況だと自分たちが強盗のような見えるように仕向けたのか。そう感心していた矢先、愛染は風紀委員に命令していた。

「風紀委員、こいつら敵の演劇部スパイもしくは例の殺人鬼ジョーカーかもしれん。捕えろ。」

「愛染様お体が……」

「俺のことはいい、ゴルゴを連れて行け。おそらく奴らの狙いは俺とゴルゴのようだからな。」

「絶体絶命だね……」

篠宮は半分諦めた声で言った。だがヤンの目は死んでいなかった。

「いや、まだ作戦がある。篠宮の【科学】と僕の【戦術眼】の技術スキルを組み合わさればこの状況を打開できる。」

そう言って篠宮に耳打ちした。

「そのまま手を挙げろ。」

風紀委員の言われた通りに手を上げた。手を完全に上げ切った状態ですぐに振り下ろした。この時、手に持っていた煙玉を床に叩きつけ、屋上一帯が煙に包まれたが愛染は言った。

「ふん、無駄な足掻きだ。出入り口は風紀委員で抑え、屋上から飛び降りると無事では済まない。完全に逃場はないぞ。」

愛染は完全にたかをくくっていた。

「別にこの煙玉は逃げるためでも隠れるためのトラップじゃないよ。この煙にはある可燃性の粒子を施してあるんだ。今からやることはゲーム、漫画、ラノベとか色んなジャンルで使いふるされた技術だ。もう言わなくても分かるよな。」

そう言ってヤンと篠宮は屋上から飛び降りてスタンガンを投げた。愛染はすぐに気づき退避の合図を出そうとした瞬間屋上は大きな爆発とともに鴻巣山にはじめて春一番の風が吹いた。




ヤンたちは篠宮が作った原子間力の手袋、篠宮曰くヤモリの手袋を使って展望台を降りそのまま脱兎の如く一目散に逃げた。そして今に至る。

「あー、もう先手打たれてるな。」

そう言ったヤンは生徒会の案内をぼんやり見ていた。

『下記2名発見次第拘束もしくは射殺可。

・ヤン・篠宮』

「天下統一の前に学校のお尋ね者になってしまったわね♪」

「かたや愛染は主力部隊を救った英雄かー」

指名手配の案内より、めちゃくちゃ派手に愛染の活躍ぶりの記事が投稿されていた。

「多分、今回の作戦の目的はこれだったんだろうな。ヒーローは遅れてやって来て救うというこれ以上ない副会長選挙宣伝活動ができただろう。今ごろ生徒会室で優雅に勝利の美酒を味わってるんだろうね。」

ヤン達は長岡校舎からかなり離れた長尾校の学区の近くにある御子神社に身を潜めていた。

「ここから逆転するのは難しいねー。」

そう言うと篠宮が元気そうに言った。

「難しいということは詰んだ訳ではないということかしら♪」

「うーん、一番良い解決策としては愛染と和解交渉して上手く落ち着くのが理想だけど、多分こちらをよく思ってないだろう。今回のスキャンダルを脅しの道具として使う輩を目の上のたんこぶでしか思ってないでしょ。録音のデータを破棄しても風紀委員の目撃した状況から是が非でも俺たちになすりつけるのが得策だろうしね。」

続けてヤンは言った。、

「相手が望んでる状況としては一連の事件を被せ、録音データの破棄だな。」

「仮に処罰を受ける場合はどうなるの?」

退学ついほうだろうね。」

「そっか退学したら、別々の学校に入学するから、それだけは回避しないとね!」

篠宮の声は明るかったが表情は曇っていた。まあ慰めるってほどじゃないけど元気付けさせるためにヤンは言った。

「まあ、ひとつだけ方法はあるけど、それはー」

と言いかけた時だった。自分のところに通知が届いた。ゴルゴからだった。


『すみません、先ほどはありがとうございました。私のせいで、お二方にご迷惑をおかけしたお詫びとお礼に現実世界で食事を一緒にしませんか。』


うーん、明らかに罠のにおいがするが、逆に録音を交渉材料にしてこちらに懐柔して自分達の証人になってもらう手もある。一か八かだが乗る方がこの現状を打破できる一番の最善手か……

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