第16話 武器屋と装飾店
カラコロン、扉を開けると同時に呼び鈴の音が壁一面に様々な種類の武器の並べられた店内に響く。ガタゴトと音をたてながら店の奥にいたであろう男性店主がカウンターに顔を出す。
「いらっしゃい。そろそろ店じまいなんでね、早めに決めてくれ」
アルを見るいかにも職人といった風貌の店主の目は品定めをしているのか真紅の鎧を頭の天辺から足先までくまなく視線を巡らせ、腰にさした剣で止まった。
「剣士か。どんな剣を買いに来た?」
店主の問いにアルは首を横に振る。
『買い取って欲しいものがある』
断りをいれアルは店主が凝視していた腰の剣をカウンターに置く。店主は眉を潜めながらも鞘から剣を取り出すと白銀の美しい刀身が滑らかに現れ、その刀身を前に店主の口から感嘆の息が漏れた。
「おい、兄さん。こんな業物どこで手に入れた」
店主の問いにアルは答えられなかった。先々代国王から頂戴した宝剣などと裂ける口がなくても言えない。これが知れたらこの店主なら物凄い剣幕で怒り狂うのは一目瞭然。
『それは言えない。ただ、守りたい子がいる。その子のためには金が必要なんだ』
真摯な口調で頭を下げるアルの姿に店主の方が折れた。
「分かった、買い取ろう。白金貨(1枚10万円相当)500枚でどうだ」
店主の示した金額にアルが青い目を瞬かせる。
『そんなに高価だったのか……』
「止めるなら今だぞ」
店主が再度確認するもアルは首を横に振り『それで頼む』と頷いた。
剣を受け取った店主は大事そうに剣を布でくるむと奥へ消え、戻ってきたときには傍目から見ても重さのある革袋と赤い鞘の剣を片手に現れた。
「白金貨500枚だ。確認してくれ」
手渡された革袋をアルが確認し終えると店主はおもむろに赤い鞘の剣をカウンターに置き半ば強引にアルに握らせる。
「剣士に剣は必要だろ?申し訳ないと思うなら贔屓にしてくれ。さて、今日は店じまいだ」
戸惑うアルに白い歯を見せ笑いかけ店じまいの用意を始める店主にアルは
『贔屓にさせてもらうよ』
と笑いながら店を後にした。
アルが武器屋にいるのと同時刻、ユートは外からでも中の様子が覗えるガラス張りの店内から宝石の輝きが見て取れる宝飾店の前にいた。ガラスの扉をユートは恐る恐る開くと美しい宝飾品に身を包み、手には白い手袋をはめた妙齢の女性が笑顔で出迎える。
「このようなお時間にお一人でどのようなご要件でしょうか?」
口元は笑っているがユートを見る女性の目は笑っておらず、ユートを値踏みしている。着ているドレスは所々汚れはあるものの質の良いもの。髪も短いながらも手入れの行き届いた銀糸のよう。以上を判断材料に女性はユートを何処かの令嬢が家出でもして路銀に困り宝飾品を売りにきたのだろうと判断した。
「本日は売却ですか?」
女性の問いにユートは「はい。これを買い取ってください」と頭に被っていた小ぶりな宝石のついてない金属だけの小ぶりなティアを手渡すと女性は感嘆の声をあげた。
「なんて精巧な細工でしょう。素晴らしいですわ。通常この大きさのティアラでしたら白金貨300枚が相場なのですがこちらは白金貨500枚で買い取らせていただきます」
「よろしいですか?」と念を押す女性にユートは気圧されながらも「お願いします」と頷いた。
ユートをふかふかのソファーに座るよう促し、「暫くおまちください」と女性は告げると奥の木製扉の奥へと姿を消した。
女性の言葉通りユートが暫く座って待っていると重さがありそうな革袋と手のひら大の青い宝石箱を手に女性が戻ってくる。
「お待たせしました。白金貨500枚とこちらは素晴らしい逸品をお売りいただいたお客様への当店からの贈り物になります」
テーブルに置かれた革袋と青い宝石箱。
「開けても良いですか?」
宝石箱を手にユートが尋ねると女性は「勿論」と笑顔で頷く。箱を開くと中には一対の深みのある青色の石をはめた銀のイヤリングが収められていた。
「お嬢様のこれからの旅路の無事を祈っております」
「ありがとうございます」
笑顔で革袋とイヤリングを受け取るとユートは女性に手を振り店を後にした。
(これで、アルに迷惑かけなくてすむわ)
恩人の迷惑にならないことが嬉しくてアルとの待ち合わせ場所の冒険者組合へと駆けるユートの足取りは軽かった。
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