第13話 港場での仕事 前編

 今日の依頼は、うちの組織の元情報屋だった。名前は”リック”。この前、地元で幅を利かせ始めていた新興勢力の情報を彼から購入したのだが、人数から構成員の身元まで、誤っているところが多くあった。その結果、襲撃をした際にいるはずのない人間に奇襲を受け、組織の人間から死者が3名ほど出た。裏付けもされていない杜撰な情報を売ったのだろう。


 その結果、奴は組織から追われる身となった。話によると今夜、護衛を雇って港から国外逃亡を図るらしい。そこで、ブライアンと俺は奴が通ると思われる港の通りで待ち伏せをしている。その通りは幅が広く、両側には輸入品などを保管する倉庫がたくさん並んでいる。


 俺は倉庫同士の間の小路で奴を待ち伏せ、もう少し先にブライアンが、借り物のジープに乗って倉庫の中に待機している。奴らが車で通ろうとしたところを、ブライアンが妨害して、その隙に前後から襲撃する手はずになっている。


 約2時間ほど待っていたがなかなかリックは現れなかった。もうすぐ日付が変わる。そんなことを思っていると、ふと口元が寂しくなった。


 ブライアンが少し先にいるとしても、この距離ならばれないだろうと、コートのポケットからタバコとライターを出す。そして、ケースから一本取り出すと、口にくわえてライターで火をつける。そして、ふーっと煙を吐き出した時だった。小路を冷たい風が吹き抜け、煙が通りの方に流されていった。


 と、ほぼ同時だった、通りの向こうの曲がり角からヘッドライトの明かりが見え、車が通りにやってきた。そして、すごいスピードでこちらに向かってくる。


 俺は、急いでタバコを地面に捨てると、靴底で火を消す。そして、銃を取り出した。煙が連中に見えたか、一瞬不安になる。


 このまま通り過ぎてくれることを祈りつつ、奴らの車を見ていると、20メートルほど離れたところで、車が停車した。そして、一人の男が右の助手席から降りた。その男は、こちらをしばらくじっと見つめると、頭を車内に突っ込み、何か話し始めた。


 しばらく、車の様子を見ていると、男は再び頭を出した。それと同時に後部座席の左右の扉から男が一人ずつ出てくる。


 それを見て、俺は驚きを隠せなかった。事前の調査では、リックは多くても二人しか護衛を雇っていないはずだったからだ。今回はそういうことだからと、俺とブライアンだけでこの案件を受けることになった。


 しばらく男たちは通りを見渡しながら、その場を動こうとしなかった。男たちを観察していると、鼻がすでに麻痺して気づかなかったが、まだ微かにタバコのにおいがしていた。足元を見ると、さっき消したと思っていたタバコからまだ少し煙が出ていた。すると、今度は通りの方から冬の風が吹き抜ける。その風に流されて煙が後ろの方に向かって流れていくのを目で追った。この小路は月あかりが差し込まず後ろは真っ暗だった。


 そして、視線を車の連中に戻す。だが、違和感を感じてすぐに後ろに視線を戻した。その時だった。暗い小路の奥から銃の発射光が2回ほど見えた。先ほどまで背中を預けていた倉庫の壁と左肩に銃弾が命中する。


完全な奇襲であった。「しまった!」と思いながら、肩の痛みにひるむことなく、こちらも銃の引き金を引いた。銃弾の方向から推測して、3発ほど発射すると、「うっ!」と男のうめき声がして、ドサッと地面に倒れる音がした。


「こっちだ!」


 と声がして、振り返ると先ほど車のところで待機していた男たち3人が、こちらに向かって走ってきていた。肩の痛みを必死でこらえて、近くのボックス型のごみ箱の裏に飛び込む。するとそれと間髪入れずに複数の銃弾が飛んできた。こちらもゴミ箱の裏から応戦する。


 銃弾は貫通しているようだが、左肩がひどく痛む。マガジンの交換もスムーズにできないだろう。このままではマズいと考えた時だった。


 アクセルを踏むときのタイヤの擦過音が通りの奥から聞こえた。男たちはこちらではなくタイヤの音がした方に銃口を向ける。そして、男たちはそちら目掛けて銃弾を放ち始めた。一人の男が、


「避けろーーーー!」


 と叫ぶと、男たちは左右に飛びのいた。タイヤの音の正体はやはりブライアンのジープだった。逃げ遅れた一人がジープのボンネットにぶつかり、引きずられていった。


 そして、一人は車を避けるために俺のいる小路に飛び込んだ。その隙を逃さずに俺はその男の頭部を撃ち抜いた。

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