私、人生を変えちゃったカモ!

おじちゃんに、頑固なお爺さんが熱中症で倒れていたこと。


無事に救急車が来て、意識を取り戻したことなどを伝えた。


「そっかぁ...無事で良かったなぁ、お爺さん。今度様子を見に行ってきたらいいや」とおじちゃんなりに心配してくれていたのが伝わってきた。


「それにしても香純は福祉の仕事にむいているかもしれないぞ。お爺さんと話をしたことや、家に行って助けちゃうなんて...福祉職員の鏡だよ」と、思いもよらないことも言ってくれた。


(福祉かぁ...私が出来る仕事があれば、悪くないよね)


大学を卒業したけど、仕事に関しては何をやろうかなんて、ハッキリと考えてはいなかった。


何となく仕事して、それとなく生活出来れば良かった。


アルバイトは本屋を長くやっていた。

不況で本屋が潰れてしまったあとに数ヶ月花屋さんで仕事をしたこともあった。


ただ、私は不器用だったので花屋に向いていないと店長から判断され花屋のアルバイトを辞めたのだった。


その後に大学を卒業した。


私はおじちゃんに

「私に出来ることがあれば、福祉の仕事をやってみたいな。でもあるの?」と質問した。


「あるさ!安心しな!福祉の現場は人が足りない!今度施設で聞いてみるさ!」と目をキラキラさせながら言ってくれた。



******************



ずっと心配になっていた、頑固なお爺さんの家に行ってみた。


救急車で運ばれてから一週間。


無事に帰ってきているのだろうか?


恐る恐る、お爺さんの家を覗いてみる。


「ニャア」

と、2匹の猫がご飯を食べていた。


(ご飯が置いてあるということは...お爺さんが帰って来ているのかも?)と、チャイムを押してみた。


ピンポーン!


「どなたかな?」

お爺さんは帰っていた。


「あっ、お爺さん!私です!救急車が来た時にいた...」


「おぉ、君か!ちょっと待っとれ」

と、お爺さんはインターフォンを切った。


早歩きで玄関にやってくる足音が響く。


「ガチャ」

玄関のドアが開いた。

そして、お爺さんが穏やかな表情で出てきた。


「いやぁ、君にお礼を言いたくてね」と優しく声をかけてくれた。


「お茶でも出すから、良かったら中にどうかな?」とお爺さんは続けた。


(せっかくだし...)


「分かりました。ではお邪魔します」と私は中に上がらせてもらった。


室内は綺麗に片付いていた。


全てお爺さんが掃除や片付けを行っているのだろうか?


「さぁ、どうぞ」


勧められたお茶、美味しかった。


「あの時は本当にありがとう。君は命の恩人だ。知っての通り、私は無愛想で他人と話をすることは、あまり得意ではないので...」とお爺さんは言葉を詰まらせた。


「あのまま、誰にも気づかれずに倒れていたら私はここにいないだろう。本当にありがとう」とお爺さんは話を締めた。


「いえいえ、そんな。たまたま通りかかった時に、2匹の猫が鳴いていて。その様子がとても気になったもので...」


流石に赤い影が見えたからとは言えなかった。


気になって家に来たのもいえるはずがなかった。


「そうかぁ...猫達に救われたか。あの猫たちはワシが唯一心を許している猫達でね」とお爺さんは微笑んだ。


怖いお爺さんと思っていたケド...。

違うんだなぁとお爺さんを見ていて思った。


お爺さんは仏壇作りを若い頃から行っていたらしい。


仏壇作りの師匠に弟子入りをし、それはそれは厳しい修行を受けてきたそうだ。


仏壇作りに生涯を捧げてきた、いわゆる「職人」さんだ。


だから、女性と関わることもなく、人生を過ごしてきてしまったらしい。


「結婚」の「け」の字すらなかったそうだ。


もともと無愛想で、話し下手な性格が災いして「頑固者」のキャラクターが完成してしまったらしい。


職人気質だったのもプラスして、人と関わることもなく、話しかけられても「フン」という返事しかしない。


話しかけるなオーラを常に出している状態で生活をしてきてしまったようだ。


しかし...


「ワシは人生を間違えた。家族もいない、友達もいない...。仕事以外では何をしたらいいか分からない。若い頃はそれで良かった...。だが歳を重ねると寂しさが増してくる」と悲しそうに話した。


私は

「これから出来なかったことをすればいいじゃないですか?」と伝えた。


「ワシに出来るはずがない!出来ているならすでにやっているし、こんな人生になんかなりゃしない!」とお爺さんは取り乱した。


「そんなことはありません。私とこうやって話が出来ているじゃないですか。それに猫とだって、心を通わせている。私はお爺さんは優しい人だと思いました。あとは勇気を出して、これから知り合いや友人を作り楽しい人生を開いていくだけだと思います」と伝えた。


「ワシに出来るのだろうか...。」

不安と心配の表情をお爺さんはしている。


「大丈夫ですよ!試しに隣のおばさんに挨拶に行きましょうよ!救急車が来た時に助けてくれたので」


と、お爺さんとおばさんの繋がりが出来るように私は働きかけた。


「た、確かに。病院から帰ってから、挨拶はしてなかった。う~ん...。分かった。ワシの命の恩人の1人だしな...。」


お爺さんと私は、隣のおばさんの家に向かった。


チャイムを鳴らすと

「はーい!どなた?」と元気よくインターフォンに出てくれた。


お爺さんは

「隣に住む影山です。先日のお礼に伺いました」と話した。


「あら!やだ!お爺ちゃん!元気になったの!今行くわ!あっ、帰っちゃイヤよ!」とおばさんは話を終え、バタバタと足音を立てながら玄関までやって来たようだ。


それにしても、お爺さんの名前「影山さん」だったんだ...。


私は自己紹介や、お爺さんの名前を聞いていなかったことに気付いてしまった。


「あのぅ...お爺さん...私...」と私の自己紹介をしようとしていると...


「お爺ちゃん!良かったねぇ!無事で!あらあら、いい表情になって!いつも怒ってる顔をしているから!今の顔の方がいいわ!」とおばさんはお爺さんに話しかけた。


「いやはや...申し訳ない。誰かと話をするのが苦手で...。知らず知らず無愛想になってしまい...。あっ、先日はありがとう。貴方はワシの命の恩人の1人だ」とお爺さんは感謝の気持ちをおばさんに伝えた。


「命の恩人なんて大袈裟ね。隣同士、困った時は助け合わないとね。それに、このお嬢ちゃんが第一発見者だから。お嬢ちゃんのおかげよ!」とおばさんは言ってくれた。


「そうなんじゃ。ここにワシを連れてきてくれたのも、このお嬢ちゃんじゃ。ワシが1人ぼっちなのは良くない。知り合いや友人を増やそうと言ってくれて...」

とお爺さんが返答をした。


「じゃあ、これで私とお爺さんは知り合いね。あとで私の作った煮物を持って行くわ!これから宜しくね。お爺ちゃん」とおばさんは嬉しそうに言った。


「良いのか?ワシなんかで!本当に有難い!何卒、宜しくじゃ!」とお爺さんも嬉しそうだった。


「じゃあ、お爺ちゃんまたね!」とおばさんは家に戻った。


私はお爺さんを家まで送ることにした。


お爺さんは

「お嬢ちゃんのおかげで、ワシの人生が変わった。これから他人と話をして仲良くしたいと思う!本当にありがとう!」と感謝の言葉をくれた。


家にお爺さんを送り、私は別れ際に「お爺さん、私... 葉山香純といいます。今更だけど自己紹介をしていなかったので」とちょっと恥ずかしがりながら伝えた。


お爺さんは

「あぁ、そう言えば名前を聞いていなかったなぁ。ワシは影山...影山雄信じゃ。宜しくな嬢ちゃん」と笑っていた。


お爺さんも笑うんだね。


本当に良かったね、影山のお爺さん!

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