第一話 パンツ履いてくれぇぇぇ!

「翔よ、良く聞け。お前を桜の家紋を持つ「凛とした花のように可憐で美しい侍家」

 に婿として送り出すことになった。」


 西洋風のお城のような外観をした家のオシャレな洋間でオシャレなライト付きのシーリングファンが静かに回っている中、オシャレな西洋風のソファに座っている予知太郎の息子「翔」はポカンと口を空け唖然としていた。


 「無論、向こうにも話は通してある。そもそも代々から我が家系と桜一族は友好が

  深いからな。大丈夫だろう。」


 翔は目を大きく空け、ポカンと空いた口から


  「は?」

 

 と一言だけ発した


 「翔よ、これが予知大ばあ様が予知した未来に繋がるのだ。分かってくれ」


 そういうと太郎はパチンと指を鳴らした。すると後ろの方から数十人のメイドが現れ翔を囲った。


 「善は急げだ。さっさと支度していくぞ。早くしろ。」


 「ちょ、パパ、マジで?」


 「マジだ」


 メイドが翔の服を脱がせタキシードに着替えさせる。ここまで30秒。


 「まぁまぁ、心配するな!話は通してあるわけだし、向こうの娘さんもかなりの美

 人らしいからな!まぁ性格はちょっとあれらしいが…」


 太郎が最後の方だけ声を濁した。


 

 そんなこんなしてる内に翔はバラの花びらを持たせられリムジンの中に無理やり押し込められた。


 「まぁ、そんな緊張するなって、桜の家紋を掲げた侍じいさんは予知婆と大の親友

  なんだ。それにパパはその息子と旧知の仲なんだ。」


 こんな話を聞かされている内に屋根が青い瓦で覆われた木造の大きな屋敷が見えてきた。


 「桜の家紋を持つ彼らは代々「正義」を謳ってきている。弱きを助け強きを挫く。

  それが彼らが最も大事にしている家訓だ。さぁ着いたぞ」


 大きな桜の家紋が付いた大きな木造の門を開く。その先には桜の木が一本の道を挟むようにして左右対称に連なり、それらが見事なピンク色のトンネルを造り出している。

 

 桜のトンネルを抜けると殺風景ではあるが凛とした静けさのある広い庭と屋敷の戸が現れた。翔は庭の方で桜の模様の入った下の短い浴衣のような服を着飾った少女が木刀で素振りをしているのを見た。そして不覚にも翔は一瞬その少女に見とれてしまっていた。


 太郎が戸の横にある呼び鈴を鳴らす。


 「おーい!かずっち~!婿連れてきたぞ!」


 すると奥の方からバタバタと何やら賑やかな音がし始めた。すると途端に戸が開き、茶色の袴を着た太郎と同年代くらいの厳格な顔をしたちょび髭の男が現れた。


 「久しぶりだな!たろっち!元気してたか~このこの~」


 かずっちと呼ばれた男の表情が一瞬で砕け、愛想の良さそうな「おじちゃん」の顔になる。


 「元気~元気~」


 太郎の表情が先ほどよりも砕ける。 


「で、久しぶりだな翔君!覚えてないだろうけど、君が赤ん坊のころに一度だけ抱い

 たことがあるよ!こんなに大きくなっちゃって!」


 かずっちが翔の方を見ながら笑顔で話す。翔は頭をペコっとした。


「さぁさぁ、入ってくれよ!」


 かずっちの言われるままに翔達は床一面が畳で覆われた広い和室に案内された。床框になっている場の壁には「正義」と荒々しく書かれた掛け軸がかかっている。


「待っててくれたまえ、今娘達を連れてくるから」


 かずっちはそう言うと広い和室の真ん中にある大きな座卓の周りに座布団を敷いてどこかに行ってしまった。


「静かだなぁ。」


 太郎がぼうっとしたような口調で言う。敷居で隔たれた縁側から入ってくる日の光がその静けさを一層際立てていた。


 「はぁ!?見合いの話なんて私聞いてないわよ!」


 数分待っていると廊下の方からこの静けさとは無縁の荒々しい甲高い声が聞こえてきた。


 「こないだちゃんと話したろう。」

 

 その後に弱弱しいかずっちの声が聞こえてきた。


 「はぁ!?だから聞いてないって!」


 「良いから、とりあえずこっちに来なさい!」


 「離せ!く・そ・お・や・じ!」


 その声と共にドタドタと音が聞こえたと思ったら、かずっちと先ほど翔が見かけた少女が襖と共に前のめりになって現れた。


 「いってぇー!何すんだくそ親父!」


 少女が頭に手を当てながら甲高い声で叫ぶ。


 「パパと呼びなさい!パパと!」


 「あのー二人共…」

 

 太郎が二人に語り掛けようとするが、何やら二人とも騒ぎ立てており全く聞く耳を持たない。


 「二人共いい加減にせんか!」


 太郎がさっきよりも大きい声で言い放った。その声で少女とかずっちはお互いの手を止め、その場に座り込んだ。


 「いやぁ、娘が…ハハハ…。すまなかったな」


 かずっちが頬をポリポリ掻きながら話す。


 「あら、太郎のおじさま、お久しぶりですこと。オホホホホ」


 少女の方は口に手のひらを当て、まるでどこかの奥様のように話す。


 「そうだ、何か飲み物でもお出ししよう。」


 そう言うとかずっちは、その場から立ち上がった。

 

 「いーえ、パパ、わ・た・しがお出しするわ。」

 

 少女がかずっちの裾を思い切り引っ張る。


 「良・い・か・ら、お前はここにい・な・さ・い!」

 

 かずっちが無理やり少女の腕を振り切り、そのまま部屋から出て行った。


 「そうだ、なんなら我々は若い人に任せてお暇しよう。たろっちもいろいろ積もる

  話もあるだろうし。」


 「あぁ、そうだな。じゃあ、ちょっと行ってこよう。翔、失礼の無いようにな。」


 そう言うと太郎とかずっちはその部屋から出て行った。


 「は?」


 翔はまたポカンとしたような表情を見せた。


 「全くよぉ」

 

 そう言うと少女はその場に右膝を立てて座り込んだ。

 

 元気の良さそうな、男気のある明るい声。


 三つ編みにしてある長い赤髪。

 

 パッチリとしたほのかに赤みがかった大きな瞳


 薄く白がかった黄色いバラのような色をした、きめ細かく、艶のある肌。


 張りがあり弾力が十分にありそうな程に大きな胸。


 スラっとした腰のライン。


 そこまでムッチリとしてはいないが、肉付きの良い太もも。


 そして、

 

 「ぱ。パンツ、履いて…」


 ボンッと言う音と共に翔の顔が真っ赤になった。


 翔の目にはあらわになった少女の「ア・ソ・コ」がばっちり映っている。


 「ん?あぁ、素振りして汗かいたからな。てか、パンツとかグショグショになって

  気持ちわりーんだよ。なんならこの浴衣も気持ちわりーから脱ぎてぇ。」


 「や、やめろぉ!」

 

 「華姉さん。客人の前でその態度は失礼だわ。」


 突如、翔の右の方から声がした。


 「鈴、いたのか」


 「ええ、華姉さんとお父様が騒いでいる時からずっと」


 声の方に振り向くと、青い浴衣を着飾った少女が正座をしながらお茶を飲んでいた。

 

 「ごめんなさい。華姉さんがうるさくて。」


 「鈴」と呼ばれている少女が言う。


 「鈴、お前だって見合いの話しなんて聞いてないよな?」


 「華」が話しかける。


 「いいえ、華姉さん。ちゃんとお父様から話されていたわ。華姉さんは適当に促し

  てたけど。」


 冷たく冷静な、されど優しさのあるような、うっとりとした声。


 襟足まで切り揃えられた黒髪。


 パッチリとしたほのかに青みがかった大きな瞳。

 

 白桜に透明色が入り混じったかのように白く、キメの細かい肌。

 

 今にも折れそうな程の華奢な身体のライン。


 儚さすら感じてしまいそうになる程のほっそりとした手。


 鈴はどちらかといえば華と対照的な雰囲気を醸し出している。


 「あぁ?マジできいてねぇっつーの!てか、何だぁお前、その恰好、暑苦しくて見

  てるだけで気持ちわりーぜ!」


 暑苦しいのはお前だ。と翔はヒッソリ思った。


 「暑苦しいのは華姉さんの方」

 

 鈴がピシャリと華に向かって言う。


 「お前…近くで見なかったから分からなかったが、顔だけは良いな。か・お・だ・

  け・は」


 翔の方に顔を近づけた華が鈴の話を無視して続ける。


 「だが、お前みたいのはなんか気に食わねぇ、良いか、男ってのは根性と気概だ!

  お前にはそれが見当たらねぇんだよなぁ」


 華が腕をまくるような動作をしながら話す。

 

 「おい、表出な、あんたが私達に相応しいかどうか、私が試してやる。」

  

 「その前にちょっと良いか。まず、パンツを履いてくれぇ!あ、あと、お前、上の

  下着も着けてないだろ!着けろよ!さっきから胸が!胸がぁぁぁぁぁ!」


 翔が悲鳴にも近い声で言い放った。

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