第6話

 兄の結婚式は世間一般的なものだった。僕も大人になり人の結婚式に招待される経験もたくさんしたけれど、どんなに盛大な結婚式だろうと大半の人間は離婚したし不倫している人間も何名か知っているし、共通して思ったことは大勢の人間の前で永遠の愛を簡単に誓い、人はそれを簡単になかったことにするもんだと言うことと、結婚式と聞くとまた無駄な出費が増えるなと思うようになった。また、そんなことを言いながら僕自身、今の嫁と一緒にいるけれど付き合い始めた頃の情熱や結婚当時の初々しさなんかとっくに失っていたし、小さな子供が二人いるからと自分自身に言い聞かせている部分も多かったし、嫁もきっと同じような気持ちなんだろうなとなんとなく思っていた。ただ僕は自分に嘘をつくことの容易さとそれを自分の中で都合よくごまかして処理してしまう器用さを持ち合わせていなかったので浮気はしなかった。そのことで会社の同僚からよく、僕は人生を損していると言われたりすることもあったけれどそれは正直者が馬鹿を見ると同じ意味に聞こえ、選択の自由は僕にあり、別に今は子供がいるから家庭を大事にして、将来また環境が変わり、自分の感情を抑えられなくなる時がくればその時考えて判断すればいいと、面倒くさいことは後回し的な考え方をしていた。僕は正直、兄の結婚式も嬉しいとかよかったという感情は一切なく、家族の人数分の電車賃やご祝儀のお金などの金銭面の問題や自分のための休日が潰れるだとかそれ以外にも会社を休んだりしないといけないなどのネガティブなことばかり考えていた。送られてきた招待状の欠席に〇をつけて送れば僕の中の問題は全て丸く収まることだったけれどその選択はさすがに出来なかった。

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