幼馴染の恋人に裏切られパーティを脱退した勇者のスキルが【反転】する〜何故か偶然出会った聖女が付きまとってくる(放っておけないだけです)が無視だ(しないでください!)〜

翔丸

第1話 裏切り

「我が領地をドラゴンから救って下さり、ありがとうございます」


 少々細身な体つきの男性領主が頭を下げる。

 その先には男二人、女三人の計五人のパーティがいた。

 彼等は勇者と呼ばれる者が率いるパーティだ。


 リーダーの名前はソリト。

 【調和の勇者】と呼ばれる勇者だ。


「頭をあげてください。ここで助けなければ勇者ではありません。それに放ってなんておけるわけありませんでしたから」

「そうです。当たり前のことをしたまでなんですから」


 ソリトの後に続いて言った、オレンジ髪の顔の整った男。

 名前はクロンズ。

 ソリトと同じく勇者であるが、アポリア王国と呼ばれるだ。


 そして、ソリトは現在いる、クレセント王国と呼ばれる国の勇者だ。


 この二人の他にも勇者が二人存在し、ソリト達同様にそれぞれ違う国の勇者である。

 では、何故別々の国の勇者二人がこうして共にしているのか。


 話は三ヶ月程遡る。

 クレセント王国とアポリア王国は隣国で、関係もとても友好的だった。そんな両国に同じ報告が為された。


 報告内容は『一万もの魔物の進行』


 両国に取ってその報せは壮絶な騒動となった。

 両国は即座に、兵を集め、お互いに協力要請を出し合い、国民は城内へと避難させ、体勢を整えていった。

 集まった兵は各国合わせて三千。


 魔物は一体一体が強力で、数も力も不利だったが二ヵ国の勇者とソリトのパーティメンバーがいたことで一万の魔物は(逃げる魔物もいたので)殆ど全滅させることが出来た。


 その後、謁見の間にてソリトはクレセントの王にアポリアからの嘆願でクロンズをパーティに加入させる事を頼んだ。

 最後には勇者達は魔王の元に行く、その時になって連携が取れないとなる事態はなるべく避けたいとのこと。


 ソリトはその場で仲間と話し合い快諾して、現在に至る。



「はぁ、美味しかった」


 討伐後、領主が礼として屋敷に泊まらないかと提案してきた。

 だが、既に宿をとっているのでとソリトは断った。

 何かお礼をしないと気が休まらないのか、代わりとして夜に料理を振る舞う事を提示された。

 それなら、とソリトは全員に尋ね、食事に招かれることにした。


 その夜、出された料理は豪華な物で味も絶品だった。

 良い料理人がいるらしい。


「凄い美味しい!」


 その料理に満足気な感想を声にする少女、ファル。


 彼女はソリトの幼馴染であり恋人だ。

 そして、彼女のスキルは【賢者】。


スキルは神から与えられた恩恵のようなもの。

 【賢者】はそのスキルの中でも魔法面で最高峰の職だった。


 そんな彼女は領主とその場に偶々来ていた料理人に「ありがとうございます」と感謝を述べた。

 それに対して、領主や料理人、屋敷の全員に今回の事を含めて感謝の意を示して頭を下げ返された。


 それから領主邸を後にし、自分達の泊まっている宿へ戻る。

 そのあとソリトは、明日は鋭気を癒すため一日休養することを伝えた。


「ファル、明日二人で出掛けないか?」

「うん、良いよ。ソリトと久しぶりのデート楽しみにしてる」


 ソリトとファルは同じ部屋のベッドの上で明日の予定を話し合った。

 とはいえ、予定を立てても話し込んで明日に差し支えてはいけないと後の事はデートをしながらにして。


「ファル、好きだ」

「私もだよソリト」


 最後にソリトとファルは「おやすみ」と言って目を閉じた。


 *


 何時だろうか。

 窓から見える外はまだ暗い。

 ソリトは妙な時間に目を覚ましてしまったようだ。

 目を開けると、隣で寝ている筈のファルがいなかった。


 所用だろうかとソリトは再び目を閉じる。

 だが、右隣から声がして目を開けた。

 クロンズが使っている部屋からだ。


 しかし、聞こえてくる声はクロンズではなかった。

 とても慣れ親しんだ声だ。


「ファル?」


 不思議にも警鐘が鳴り響く。

 ソリトはそっとベッドから起き上がって降り、扉を静かに開けて、クロンズの部屋に顔を向けた。


 部屋の扉が少し開いていた。

 警鐘が更に強く鳴り響いた。

 ゴクッと喉を鳴して生唾を飲み込みながら、ソリトは忍び歩きで扉を目指す。


 近づく度に、喘ぎ声と小刻みに衣擦れの音が聞こえてくる。

 体がこれ以上は嫌だと拒絶する。

 心が警告する。

 しかし、ソリトは無理矢理足を運ばせた。


 扉前に辿り着き、少し開いていた扉の隙間からの光景を視た瞬間、ソリトが目を大きく見開く程の光景が扉の先にあった。


 クロンズとファルが生まれたままの姿で体を重ね合っていた。

 何度も、何度も、何度も、何度も。

 ファルは恍惚とした表情でされるがままに受け入れている。


 互いの唇を重ねてキスをし始めた。


 そこには、フィーリス、アリアーシャというパーティメンバー女子二人がいる。

 その二人もベッドの上でクロンズに奉仕していた。


 二人だけなら、そういう関係だったのかと受け止められた。心から祝福できたかもしれない。

 しかし、そこに自分の愛する恋人が抱かれているとなれば、話が変わる。


 ソリトの心が騒ぐ。


 いつから?


 無理矢理されている?


 デートの約束は何だったの?


 好きと言ったのは嘘?


 そう思っているとソリトの体は自然と部屋の扉に手を伸ばし開けていた。

 直後、全員の動きが止まり、一斉に視線が扉の方に向いた。


「ッ!?ソリト」


 何故ここに?と言っているような表情でファルがソリトを見ている。

 視線をずらすとクロンズが気味の悪い笑みを浮かべてソリトを見ていた。それにファルは気付いていない。

 だが、それはショックの余りでソリトも同じだった。

 心が負の焦燥に刈られ声が上手く出せない。

 それでもソリトは言葉を絞り出した。


「いつ、から?」


 ファルに向けた問いだったが、答えたのはクロンズだった。


「俺がパーティに加入して二月経ったくらいからだよ」


 その前から関係を持っていたことに驚きを隠せないソリト。

 それもそうだ。これまで、顔色一つ変えずにいつも通り嬉しそうな表情でファルはソリトの隣にいたのだから。


「ファルと俺は付き合っているんだ。勿論、フィーリスとアリアーシャともね。あれ?もしかして………ファルは言ってなかったの?」


 態とらしく訊ねるクロンズ。

 だが、それが態とかどうか今のソリトには分からなかった。

 ただ、その答えを知りたくてファルに視線を向ける。


 その答えは沈黙と視線の逸らし。

 そのままクロンズがファルと見せつけるように交わりながら言ってきた。


「滑稽だよ!なにも知らずに隣にいたなんて!ファルはただとして隣にいただけなんだって!」


 クロンズの言葉にファルは否定せず恍惚とされ続けている。

 もう肯定と捉えるしかない。


 裏切られたのだと。

 そう感じた瞬間、体の奥から何かが湧き上がってくるのを感じた。

 憎悪、憤怒、殺意。それらが一気に駆け巡る。


 だが、それよりも悲哀が強かったのか、ソリトは歯を強く噛み締め、涙を流しながら部屋を飛び出した。


 一度立ち止まり、ソリトは隣の自分の部屋に戻って自分の装備と荷物をもって宿を飛び出す。


 誰もいない街道を無我夢中で涙を流しながら、周囲の風景を置き去りにして。

 ソリトは夜の街を駆け抜けていった。




―――

どうも翔丸です。

他の作品の進行も遅いのにと思いながらも思いつき書きました。


良かったと思ってくださった方でフォローしても良いよという方がいらしたらよろしくお願いいたします。


誤字報告や感想などお待ちしてます。


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