第45話 ここに、神秘スターを持つのが七人になってしまった

 ここに、神秘スターを持つのが七人になってしまった。なんか伝説とは微妙に変わってしまった。なんか今後の展開が心配になって来たので、今から題名「男女七人部活物語」に変えてもらえません?

 今のは冗談だけど、

まあ、やってやろうじゃない! この弱小田舎町の越山町を全国に名前を轟かせ、全国制覇を成し遂げて見せる。

 だったら、もっとも警戒しなければならないのはあの生徒会長。

「まあ、表向きにはアザミ部長で問題なさそう。でも、あの人をとてもコントロールできる気がしない」と、思わずため息が出てしまっていた。


 私たちが教室を出た後、アザミ先輩が「私がダンス同好会に入った理由? 三好雄二狙いに決まってるじゃない。ラブラブカップルが同じ部活なんて、なんて素晴らしいんでしょう!」と生徒会役員に向かって言ったのを、翌日噂を耳にして知ったんです。

 ――あの女、今のところは自由にさせてあげますわ。立身出世物語に障害は付き物ですから、そのうち私の悪役令嬢ぷり、その身に刻みつけてあげますーー。


 ――長田君サイド――


 今日、僕はダンス同好会部長として、生徒会室のドアをノックした。

 創部申請の申し込みなんだけど、僕からしたら雲の上の生徒会役員と交渉事なんて、めちゃめちゃ気が重くなる。

 でも、話が難しくなったら、美晴さんに任せればいいか? どうせ僕は、美晴さんの傀儡だしな。そう考えれば、気が楽になった。

 

 そして、入って要件を切り出した途端、ほぼ無視するように、無関心を装う生徒会役員の中で、事情にめちゃくちゃ詳しい生徒会長の大野薊さんが、自分の入部許可を条件に創部を認めるみたいな話を切り出してきた。

 大野会長は、絹のような光沢のあるストレートの黒髪は、今はおかっぱだが、ロングへアーにしたら、どれだけすてきだろうと思わせ、その大きな瞳は、やや垂れ下がっていて、その厚めの唇は、人の良さをアピールしている。

 そのスタイルの良いボディラインも隙だらけで、この僕でさえ凝視しても咎める視線を向けられることは今までなかった。

 まさに、庇護欲をそそる美少女の容姿で、ほっておけないオーラが男子を虜にしている。

 しかし、大野会長はこの越山中一の切れ者、このどじっ子と小悪魔のボーダーラインを地で行くナチュラルスタイルを意図して演じきっている。

 このことに気が付いているのは、僕のような悲惨な人生を歩んで来て、人の言動や行動には必ず裏があることを、その身に刻んだボッチソムリエだけだと断言できる。

 しかし、美晴さんはすぐにこの本性を見破ったようで、なぜか、対抗意識を燃やしている。過去にこんな感じの女(ひと)に痛い目に遭っているのかもしれない。

 とにかく、こちらの情報は大野会長に筒抜けだったみたいだ。何しろこの人は、職員室に盗聴器を仕掛けているともっぱらの評判だ。いや僕だけの評判なんだが……。それにしても、職員室で問題になったことは事前に把握していて、生徒たちにその問題が波及した時には、すでに前後策が打たれ、事態は収束に向かっていることが多いのだ。


 この大野さんのおかげで、田舎特有の校則もだいぶ減ってきているのだ。例えば、先生や保護者たちが、都会から発信されるトンチンカンな情報を元に作られようとする「下着は白一色とする」や「くつや靴下は白一色にする」とかの校則に対して、生徒会は事前に市場調査を敢行し、白一色の方が如何に割高になるかを証明して、一部の保護者を巻き込み撤回させたり、「繁華街に寄り道することを禁止する」という校則だって、このド田舎にある店の地図を持ち出し、繁華街区域を明確にすることを要求し、生徒たちの買い食いによる経済効果うんぬんをレポートにして、叩き潰したりしていた。

 この田舎に繁華街なんてあるの?と一部生徒は面白がっていたが、校則は明文化された部分よりも、ジャッジする運用の部分でいくらでも厳しく出来るわけで、無いに越したことは無いわけだが……。

 しかし、この先生たちをやり込めたやり方は、どこか美晴さんに通じるものがある。

 それで大野会長は何を考えているのかわからないと思っていたが、まさか、ダンス部に入部するなんて思わなかった。各学年のダントツ一位の美少女が、ダンス部に集うのは、正直、嬉しい。しかし、美晴さんはどう思っているのだろう?


 いや、美晴さんはこういう場合、名を捨て実を取りに行くタイプだ。そう考えていると、大野会長が繰出す本気とも冗談とも取れない奇案はなし崩し的に決定していき、同好会名も「クール・セブン・ノウヴァズ」に決定し、部長は大野薊さんになっていた。

そこは、めんどくさい肩書が僕から外れてくれたので助かった。

 美晴さんも生徒会室を出た後、「まあ、表向きにはアザミ部長で問題なさそう。でも、あの人を、とてもコントロールできる気がしない」とため息を吐(つ)いていた。

 しかもなぜだか、含み笑いを噛み殺している。

 この表情、考えていることはおおよそ予測できる。あーあっ、ため息を吐(つ)きたいのはこちらも一緒だ。

 美晴杏奈、三好真理、大野薊、この欲深い三人が、本気で全国大会制覇を目指すなら、手段なんか選ばないはずだ。3人とも学年トップ、何をやらせてもそつなくこなす。

なのに、僕を外そうとしないのはなぜなんだ?

ひょっとして、この物語の主人公は僕だからなのか?


 それでも運命に紡がれたダンスユニット「クール セブン ノウヴァズ」が、いよいよ始動する。

  

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