第23話 翌日、私は学校に行く

 翌日、私は学校に行く。靴箱の反対側にある掲示板の私が貼ったポスターには、下品、バカ、不良の文字が書き殴られている。

 いじめの常套手段ね。枠から外れている異分子を社会の常識ってやつで攻撃してくる。体の良いいじめる側の言い訳だよね。それ自身の価値を認めようとしない封建的な根性をまる出しなんだけど。

 まあ想定内、今日の職員会議でも同じような感じなんでしょうけどね。

 わたしはため息を吐いて、教室に向かう。

 教室では、私の机の上にチョークで、「風紀を乱す長田菌」って書きなぐってある。

 さっそく新たなネタで攻撃して来るわね。でも、長田菌って何? 私は美晴杏奈なの! さすがに、美しい私をバイ菌扱いするのは憚(はばか)られるのかしら?

 わけわかんない? でもこれを見て、長田君が落ち込むと悪いから、さっさと消しておきましょう。

 私はロッカーから雑巾を取り出し、机を拭いていた。

 そこに、やって来た長田君。

「どうしたの美晴さん。また、机の上にゴミが捨てられていたの?」

「おはよう、長田君。まあそんなところよ」

 本当は、あなたの悪口も合わせて書いてあったんだけど……。そのことは黙っておいてあげましょう。

「ところで、美晴さん、僕たちが貼ったポスター見た?」

「ええっ、見たわよ。まったく幼稚で思量のない意見ね」

「でも、ダンスに対する見方ってあんなもんだな。僕も昨日、美晴さんが踊るのを見て、ダンスに対する考え方が変わったよ」

「そう、ありがとう。偏見なんて本物を見れば、吹き飛ぶものなんだよね」

 そう、私は少しオタクなところがある。偏見で見られると困るから、黙っているんだけど、マンガやアニメの中には、その思想や世界観は、歴代の文学の名作にも勝るとも劣らないものがたくさんある。文学少女の私が言うんだから間違いない。

 でも一般の人は、一部の陳腐な設定、意味のないサービスシーンを下らないと言って、偏見にまみれているのだ。

 話が横道に逸れてしまいましたが、私は机を綺麗にした後、席に座っていつものように本を開く。すると、前の席の森さんが私に聞こえるように、ぼそっと言葉を吐いた。

「まったく、生徒を敵に回したと思ったら、今度は先生ですか? どこまでも救いのない人ね」

 これは、私に向かって言っているですよね。だったら、私もその挑発に乗ってあげましょう。

「ええっ、救いなんて信じていませんから。敵は己の力で殲滅するのみ!」

 そう、私は救いなんて言葉を信じない。

救いのなかった前世では、首を切られる痛い目に遭っているんだもの。


 そして放課後、私と長田君は会議室に居る。さすがに和田君は緊張がマックスみたいだ。

 それもそのはず、ロの字になったテーブルで、私の前には校長と教頭、そのまわりにも先生たちがいて、私の隣には山本先生と長田君がいる。

 私たちの席って、被告の定位置ですが?


 教頭が口を開いて会議が始まる。冒頭、校長が挨拶をした後、いきなりダンス部の創部について批判をはじめた。

「ダンス同好会など、この平穏な越山中には相応しくない。ダンスなどすれば、風紀がみだれ、その部は不良たちの温床になるのは目に見えている。君たちには悪いがダンス同好会など学校として認める訳にはいかない」

 まあ、大体、予想通りの展開ですよね。しかし、私の目の前に並ぶ先生たちは、只のメガネハゲにしか見えません。

 失顔症の人は、目や鼻なんかのそれぞれのパーツについては、判別がつくんだから、目とか鼻とか口の特徴を捉えて見分ける努力をするようにと、カウンセラーのホームページに書いてありましたけど、特徴がメガネにハゲばかりでは、所詮、見分けが付きませんね。

 私が、そんなどうでもいいことを考えていると、隣の山本先生が反論してくれました。

「校長、そうは言いますが、ダンスは学習指導要綱にも書かれています。立派な教育ですよ」

「まあ、授業となれば先生の目も届く。しかし、部室という密室になれば、何をされるか分かったもんじゃない。素行の悪い生徒が出入りして、入り浸る可能性が高い」

「……」

 あれ、山本先生、黙り込んじゃって……。そうやって、この国では十分な議論もなく、年長者の意見に従ってしまう。「和を持って貴し」となすですか? 明治以前なら、ネットもなくて、経験だけが物を言ってましたから、それも正しいでしょう。しかし、これだけの情報があふれている時代になれば、このおやじは只の老害、時代錯誤も甚だしいです。


 じゃあ、私が、本当のディベートってやつを見せてやりますか。

 そう考えて、レッグホルダーから、優雅に扇子を抜き口元に当てる。

 それを見た山本先生の目が死んでいる。ちょっと先生、雰囲気作りですから。そして、前世を意識して、誰もがひれ伏した貴族時代の高貴さと冷酷さを身にまとう。

 最近は、意識すれば貴族だったころの雰囲気を作りだせ、相手を飲んでかかるスキルが、発動できるようになってきたのです。

 それでは、こちらのターンといきます。

「校長先生、それだけ、ダンスの有害性をおっしゃるんなら、それを証明するソースは当然おありなのですよね」

 私は不敵に笑い、校長先生にそう尋ねる。

「そりゃそうだろう。大体、ダンスをする人間は、不良と決まっておる。風紀もみだれ、法律でも規制された時代だってあるんだ」

「でも、逆に、西洋の文明を取り入れるために、明治政府は鹿鳴館を建設して、身分の高い人にダンスを強要した時代もありましたよね。そもそも規制されたのは、いかがわしいことを目的に、ダンスを手段としていた人たちに対してですよね」


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