第17話 さて、次のいじめは

 さて、次のいじめは、アンナの経験ではもっと露骨になっていきますよね。まあ、シューズの件は、防御できているから……、ああっ、次は水攻めですか……。ロッカーには、替えの体操服が入っている筈ですよね。ちょっと確認しておきましょう。

 ここの学校のロッカーは鍵付のロッカーになっています。

置き勉している教科書を、別のクラスの忘れた人が勝手に持って行くことが度々あって、そのことが職員会議で問題になって、鍵付に変わったとか……。

 まあ田舎の方ですから、家にカギが掛かってなくて、近所の人が勝手に上り込んで、しょうゆや砂糖を借りていく。そんな慣習が残っている所です。一歩間違えれば、寸借詐欺ですよね。

 まあ、そのおかげで、ロッカーにおいている物がなくなることは有りません。鍵を壊したら、否応なく犯罪ですしね。私は学校の隠ぺい体質が大嫌いです。物理的被害が実証できるのですから、警察ざたにする気満々です。

 私はロッカーを開けて、体操服が在ることを確認する。よかった、ちゃんとあったわ。

 さて今日も一日、淡々と授業が進み、わたしは2時限目が終わって、お手洗いに行きました。

 そこで個室に入ったところで、外ががやがやとして、上から水が降ってきます。

 それも、バケツをひっくり返したような大量の水です。私は当然、頭の先からつま先まで、ずぶ濡れになってしまいました。

 あーあっ、やっぱり、水攻めか……。私は濡れたまま、個室から出て行くしかありません。外には、5,6人の女子が、私を取り囲んで、罵声を浴びせてきました。

「ちょっと、可愛いからって、いい気にならないでよ!」

「いいざまよね。どぶネズミさん!」

「私たちの三好君に、ちょっかいだすんじゃないわよ!」

「とっとと、東京に帰りやがれ!」

 なに、最後のはちょっと酷いんじゃない。私だって好き好んでこのド田舎に来たわけじゃないのよ。自分の事しか考えが及ばないこの人たちにはお仕置きが必要ね。

 わたしは、だてに異世界から来たわけじゃないのよ。治安が悪くて簡単に死人がでる世界、私だって、なんどか族に襲われたことが遭ったんだから……。人が殺されるのを目の当たりにしたこともあるんだから……。

 ――先生ごめんなさい。私、エクスカリバーを抜いちゃいます!

 私は、スカートの中、左右の太ももに仕込んだ二本の扇子を抜き取ると、左右にいた女の子のほほをひっぱたき、返す扇子で、のど元に扇子を突きつけます。

 二刀流です。決まりましたか!

 物理的攻撃を想定して、扇子を追加で買い、昔、なんとなく買ったレッグホルダーに仕込んでいたのです。レックホルダーを持っているなんて、杏奈ってなにを考えていたんだろう。

「あなたたち、何してくれるのよ! こちらがおとなしくしているのに!」

 私は威圧するように、ドスの効いた声で啖呵を切った。

 さすがに、扇子を突きつけた相手は、ビビったように目を見開き、口をパクパクさせている。

 どうだ、声もでないか? そう思っていると、後ろの方から叫ぶ女子がいた。

「なにが大人しくしているのよ。別のクラスのくせに、私たちの三好君にちょっかい出して!」

「三好君? それって誰?」

「あなたが、上履きを取らせた人よ!」

「えっと、ああっ、あの人か……」

 私は、どっと疲れが出た。あいつがクラスの彼氏がいない女子の3分の1の支持を集める三好雄二ですか。しかも、別のクラスっていうことは、この子たち、2年1組の子たちなの?

 どうやら、私はこの学校の最大勢力である三好教の信者たちに、異端認定をされてしまったらしい。魔女裁判に掛けられ、火あぶりの刑が確定かしら?

「別に、わたしから頼んじゃわけじゃないわよ」

 私は、冷たく言い放つと、取り囲んでいた女子たちの輪を突っ切って、お手洗いを出て、ずぶ濡れのまま、廊下を歩く。


 周りの人たちは、こそこそ何か言っているようだが、誰一人私に同情する人はいない。

 私は教室に戻ると、体操服とタオルの入ったナップサックをロッカーから出して、どこで着替えようか思案をする。

 そうだ、保健室で着替えよう。そう考えて、私は保健室に行ったが、あいにく保健の先生は不在だった。

 私が下着姿になり体を拭いていると、突然ドアが開き、男子が入って来た。

「先生、すみません。さっきの体育の授業で膝を擦りむいちゃって」

「きゃーっ、こっちを見ないで!」

 思わず、レックホルダーから扇子を抜いて、男子に向かって投げつけてしまった。

「わあっ、ごめん!」

 慌てて、保健室を飛び出し、ドアを閉める男子。

 私は、さっさと体操服を着て、廊下の男子に声を掛ける。

「どうぞ、もう、入っていいわよ」

「いや、ごめんごめん。まさか、人が居たなんて」

「別にわざとじゃないならいいわよ。それより、今先生はいないわよ」

「そうなんだ。じゃ、絆創膏だけでも貰っていくかな」

「ちょっと、見せてごらんなさい。私がやってあげるから」

 そう言って、男子を椅子に座らせ、体操ズボンをめくり上げる。

 うん。このくらいなら、私でも応急措置が出来ますね。私は消毒液とガーゼを持ってきて、傷口を綺麗に拭いてあげる。

「なに、お前、髪の毛がびしょびしょなんだけど、どうしたんだ?」

「別に、トイレに入っていたら、大雨が降って来たのよ」

「おまえ、トイレで雨って、在りえないだろう!」

「別に、あなたには関係ないわ」

「いや、お前、今朝の上履きといい、虐められているんじゃないか?」

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