第5話 こんな会話が、休み時間ごと放課後まで続くんです

 こんな会話が、休み時間ごと放課後まで続くんです。

 これは、男子が私に話し掛けることができないようにブロックしていますよね。みなさん、なかなかバレーがお得意なようで。確かこの学校にはバレー部はなかったはずですが?

 こんなことではダメです。顔の判別がつかない。それに会話の中の表情やしぐさから、相手が何を考えているのかも分からない。会話から探りを入れようにも、これでは話の主導権を握るのは永遠に不可能です。

 今の私では、誰を攻め、誰を味方に引き入れるべきなのか、攪乱戦法に出ることも出来ない。相手の弱みを握って脅しをかける。そして、私の得意技(ただし悪役令嬢時代)は敵対する女の彼氏を横取りすることなのに。

顔のよさそうな男子に、片っ端から話し掛けて、女の子の反応を見て、その手の探りを入れようにも、男の顔もへのへのもへ字で、顔の良し悪しが全然わからないんだから。

 ダメです。私の手となり足となるスパイのメイドたちも、取り巻きたちも、私の周りにはおりません。

 今日は、一日大人しくして、まずは、情報収集から始めるしかありません。

 許すまじ~、へのへのもへ字軍団!


 私は、放課後、山本先生の所に行って、席次表を貰って帰ります。顔の判別がつかなければ、席次表が無ければ、こちらから話し掛けることもできません。

 そして職員室では、覚えていた服装からどうにか山本先生を見つけ出し、話し掛けることが出来ました。それにしても失顔症。これはコミュニケーションにおいては、大きなハンデです。

「山本先生、すみません。早くクラスに溶け込みたいので、席次表を頂けませんか?」

「あら、美晴さん。そうね。名前を早く覚えたいわよね。みんな田舎の子で、素朴な良い子たちだから……。早くお友達になれるといいわね」

 けっ、何が素朴で良い子だ。閉鎖的で排他的な田舎根性丸出しじゃないか。しかし、私はこんな所で先生に抗議をしない。私は前世とは違って、今世では上手く立ち回るという社交術を学んで来ているのだ。

「はい、先生頑張ります!」

 私は、山本先生に飛び切りの笑顔で返事を返した。


 私は、学校からの帰り道、この越山町に唯一あるコンビニで扇子を買い求めました。

 アンナが好きだったバラの花をあしらったド派手な扇子。貴族令嬢たちの唯一無二の武器。相手が表情を隠すのなら……、いや、本当はこちらが表情を読めないだけですが……。こちらも、表情を隠しつつ、優雅な仕草で田舎者どもをコテンパンにしてやります。


 家に帰った私は、今日の会話を必死に思い出し、その席次表に、会話の内容から要注意人物に○や△を書きこんでいく。

 ゴシックの三国や、明朝の江坂、それから、戻っていく席の場所を必死に覚えた草書書きの山中。この三人は、○印だ。それから、私の話に唯一喰い付いてきた高橋さんは、この席か。明日は高橋さんに話し掛けてみよう。それに隣の男の子、長田君も、味方にしておく必要があるわね。四面楚歌から三面防衛に。でもこの長田君って、私が背中を預けても大丈夫なのかしら?

 それにしても、私は物覚えの良い方で助かったわ。

 私は、明日の作戦会議を終え、ベッドに入りました。

 それにしても、私に前世の記憶があったなんて、しかも、マンガの主人公の敵役だったなんて……。



 ――三国さんサイド――


 今日、新学期と同時に、転校してくる予定だった女の子が転校してきました。

 先生からどんな子が転校してくるのか、事前に色々聞いていたんですが……。

 実際、教室に入って来た美晴さんを見てビビった。

 ロシア系クォターとは聞いていたが、その容姿は、栗色の髪にまっ白い肌、スタイルも小顔で手足も長い。まあ、胸は貧弱ですけど、外人の血が入っているなら侮れない。まるで、お人形さんのように可愛らしくて、話し方も、私たちのように変なイントネーションが無くて綺麗な標準語だ。それに前の学校では、成績もけっこうよかったらしい。

 これは、このクラスの男子全員が好きになるレベルだ! すなわち、私たちクラスの女の子全員が、彼女を引き立てる刺身のつまになってしまう。これでは誰も私たちに箸を、伸ばそうなんて考えないです。

 私は、すぐに厳戒態勢Aシフトを発動する。江坂さんと山中さんに小さく折った手紙を回す。

 江坂さんは凹凸が少ない純和風な顔立ち、よく言えば醤油顔。成績が良くて、クラスの代議員をやっていて先生の信頼も厚い。でも本当は腹黒で、成績の悪い子を見下している所もある。当然、自分の立場を守るために日々情報収集に余念がない。

 山中さんは、顔は直球でいうと不細工で、美人の私の友達としてはふさわしくない。なんで、そばに置いているかというと、当然私の引立て役にいいのと、たぶん失う物が何もないのでしょう。その嫌味と毒舌は私の防波堤にピッタリの役どころなんです。

 厳戒態勢Aシフトで、私たち三人とその取り巻きで、美晴さんを休み時間ごとに拘束して、まず男子から話し掛けることを完全ブロック。

 東京育ちの自慢スポット、東京ディ〇ニーランドを会話のきっかけに、美晴さんの高慢ちきな鼻をへし折ることに成功。さすが、行ったこともない東京の事情通の江坂さんです。それに、最後は山中さんが上手く田舎もんのレッテルを貼っていたしね。

 そのほかにも、バレー部に居たことや、彼氏がいなかったことも情報収集できました。

 バレー部はこの学校にはないから、例え美晴さんが、バレーが得意でも活躍する場は有りません。それに、彼氏がいなかったなんて、顔の割に意外と奥手。このクラスでも三分の一は彼氏がいるというのに。ぷぷっ!


 まあ、いずれにしても、厳戒態勢Aシフトを継続しつつ、クラスから孤立させ、厳戒態勢Bシフトで、クラスからハブってやれば、私たちに泣きつくか、引きこもるか、転校していくでしょ。

 私たちのパシリにしてやってもいいし。そうなれば私たちのグループも伯が付くわね。

 そう言って満足すると、三谷さんは眠りにつくのだった。



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