第37話 闇の魔女 3

そこには、俺の妹であるリコの姿があった。


「リコ……なのか?」

「お兄……ちゃん?……近寄らないで。この子達、今凄く気が立ってるから」

「どうしてなんだ!!リコ!!闇の魔女だなんて!!」

「私ね、気が付いたら森の中にいたの。それで起きた瞬間、この子達に囲まれたの。怖かった。食い殺されるかと思った。襲われそうになったその時、この子のお母さんが私を助けてくれたんだ」


リコは、ニコの頭を撫でた。


「この子のお母さんは、獣の群れのリーダーだったの。この子達を束ねてた。獣の群れ達に、私の事は怖くないよって教えてるみたいだった。それから私は、この森でこの子達と一緒に暮らしてた。食べれる果物とかを捕ってきて私にくれた。だから今まで生きてこれた。でね、この子のお母さんは、猟に来た男に銃で撃たれて死んじゃったんだ。群れのリーダーがやられた。だから皆、私以外の人間がこの森に入ってきたら人を襲うようになっちゃったの」

「そんなっ……ニコのお母さんが……死んだ……。それに闇の魔女が……師匠の……妹……!?」


アリスは、とてもショックを受けていた。


「それで私も人が入ってきたら危ないから、ここから出て行って。入ってくるなって言ってたの。そうしたらいつからか、私は闇の魔女とか呼ばれて恐れられるようになったの」

「リコ……。今まで気づいてやれなくてごめん。こんな近くにいたのに……。なぁ、森を抜けた先に街があるんだ。俺もそこで住んでる。リコ、一緒に帰ろう」

「ダメ!!この子達を置いていけないよ。お兄ちゃんもここから出て行ってよ!!」


獣達ガウーッ。グルル……。とうなり声をあげる。


「くそっ……。リコ、この子達を大人しくさせてくれ!!」

「できないよ。皆、興奮してて私の言う事は聞いてくれないの!!だから私は、近寄らないでって言う事しかできないの!!」


リコが叫んだその時だった。


「人間の皆さん。私達は、自分達の身の安全が保障されれば襲う事はしません。だからどうか私達に危害を加えないと約束してください」

「えっ!?ニコが……喋った!?」


俺は驚いた。

いや、俺だけではなく、皆もびっくりしている。


「ニコ、約束するよ。この森で猟はしない。だから人間に危害を加えないでくれ」

「ヒカルさん、ありがとうございます。私達も人を襲わないことを約束します」


「ニコ……」

アリスがニコの名前を呼んだ。


「アリスさん。お久しぶりです。私は成長して人の言葉を話せるようになりました。またアリスさんに会えて私は嬉しい。リコさんの家族も見つける事ができて本当によかった。まさかヒカルさんがリコさんのお兄さんだったなんて思ってもみませんでした。リコさん。この子達は、私が群れのリーダーとなって面倒をみます。だからあなたは、あなたの住むべき場所に行ってください」

「でも……皆とお別れするの寂しいよ……」

「大丈夫です。いつでも会えます。私達に会いたい時は、ここに遊びに来てください」

「うん……。ありがとう。名前、ニコっていうんだね。良い名前だね」

「はい。アリスさんに付けてもらった素敵な名前です。とても気に入っています」

「リコ……。一緒に帰ろう。……クレープ作ってやるからさ」

「えっ!?クレープ!?」

「クレープ?師匠、クレープとは何ですか?」

「帰ってからのお楽しみだな」

「えーー!!教えてくださいよー!!」


こうして闇の魔女の事件は、幕を閉じた。

サカキヒカル・グレンヴィルが闇の魔女を倒したという話は、あっという間に街中に広まった。

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