第7話 ふたり
「あ、おばちゃん。おはようございます」
零くんが復学して半月が経って、学校生活に戻っていたの。
「あら。ひかりちゃん。おはよう、零ならもうすぐ来るよ」
零くんが玄関に出てきたのは、それからしばらくしてから。
制服姿を見るのは見慣れなくてドキドキしてしまう。
「ひかり、おはよう。行こう」
そのまま、零くんと一緒に駅まで向かうことにした。
「体調、大丈夫?」
「え、うん。元気になったよ。まだ体育とかは軽いものしかできないけど」
「そっか、零くん」
そっと零くんは手を繋いできた。
それは自然で少しだけびっくりした。
「ひかりはどうする? 大学とか」
「決めてる。内部進学して、ロシア語を学ぶよ。零くんは?」
「俺……俺は調理師の専門学校に行くつもり。まだ病気のこともあるし、まだ決めてないけどね」
両親の食堂を継ぐために調理師の免許を取って、手伝うことを決めているのかもしれない。
将来はロシア語の翻訳家になりたい。
ロシア語で書かれた本を日本語にして多くの人に読んでもらいたいって思っている。
「零くんの店、オープンしたら手伝いに行くよ」
「うん! そうしてくれるとありがたい」
零くんは嬉しそうで少し照れている。
「あ、零~! 遅い」
「ごめんな。菜月、ひかりと話してたら」
「ヤバいよ。あと一本乗り遅れたら、うちら遅刻なんだからね?」
三人で満員電車のなかで、一緒に学校の最寄り駅まで着くとすぐに学校へと向かう。
学校でクラスの違う零くんと、昼休みにカフェテリアで待ち合わせることにした。
「またな」
「うん」
わたしはそのまま歩いていくことにした。
教室には千鶴がいた。
桜はフィギュアスケートの国際大会に出場するために休みになっている。スケート部の部員の子はレベルが高い。
スケートで世界を相手にしている子が多くいる。
「あれ? 桜は……公式戦でいないんだ」
桜は今年の三月に行われたジュニアの世界選手権で優勝している。
シニアデビューしたばかりの若手だったんだけど、それでも今シーズンはとてもすごいんだよね。
わたしは席につくと、そのまま授業を受けるときにした。
そのときにグラウンドで体育をしているクラスがあった。
先生の隣でジャージを着ている零くんは見学しているみたいで、先生の計測のタイムを聞いて書いてる。
わたしは板書をノートに写していく。
そのときに気分が悪くなって、保健室に向かった。
「うーん。おそらく貧血だね。一応この時間は休んでて」
わたしはベッドに寝ると不思議な夢を見た。
それは札幌にある父方の実家で、そこには亡くなったはずのひいおじいちゃんがいた。
「スヴェータ。こんなところにいたのか、探してたよ」
スヴェータっていうのはスヴェトラーナという名前の愛称で、ひいおじいちゃんの双子の妹の名前だと教えてくれた。
ひいおじいちゃんに抱きかかえられているから、たぶん昔のことなんだと思うんだよね。
「ひいおじいちゃん。わたしとみんなで違うの?」
泣きながらひいおじいちゃんに話した。
金色に近い茶髪に青みの強いグレーの瞳で、とても日本人に見えなかった。
ひいおじいちゃんは同じようなブルーグレーの瞳を見開いて、とても悲しい表情をしていた。
「ごめんね。スヴェータ……」
そのままひいおじいちゃんは抱えるわたしを抱きしめて、泣きそうな声でわたしに謝っていた。
そのことを聞いてショックだったのかもしれない。
「ひかり、大丈夫か?」
下校するときに零くんと一緒に駅まで歩いていたとき、立ち止まってしまった。
「うん。ひいおじいちゃんのこと、思い出して」
「そうか。ひかり、前に話してたよな? 翻訳家を目指すきっかけがひいおじいちゃんだって」
「うん。ひいおじいちゃんが書いた日記を訳したいの。どう思っていたのかって」
零くんとひいおじいちゃんは性格が似ている、優しくてたまに厳しいことを言う、そんな感じがした。
「夢は大きくないとな」
「うん、そうだね」
夢へと進んでいくのはとても大変な事かもしれない。
でもそれはもう大丈夫な気がした。
そのとき、零くんはそっと肩を引き寄せた。
「零くん……?」
振り返ると零くんの顔が近くにあって、そっと唇が重なった。
「え……零くん」
びっくりして、言葉が出てこない。
零くんは優しく笑った。
「ひかり、そばにいてくれる?」
プロポーズみたいでびっくりした。
でも、答えは決まっていた。
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