幾度も蘇りステージに降り立つ不死鳥の如く

こちらは作者様のロックバンドへの愛情が濃密に凝縮された作品です。タイトル、章構成、エピソード、どれをとってもロック好きにとっては垂涎三尺のはず。

ただ……わたしは絶望的に音楽に疎いので、別の観点から切り込みます。
①変化の中で変わらないもの
②見ているようで視ていなかったもの
③傷を負うように刻まれる絵画
この3つが際立つ『美しいことは罪ですか?』を体現した作品だと感じました。

①成功への道を駆け上るロックバンド。そこに押し寄せる嵐、荒波。
その中で変わらないものが2つあります。それは「食」と「愛情」

環境や状況が変わると食べるものも変わります。その「食」にまつわる描写も眺めていて楽しい。でもそれ以上に、変化する「食」の中にも、彼らにとっての「いつもの」が描かれています。これが印象的でした。
そして一途に貫かれた彼らの「愛情」が最終的に辿り着いた関係性を、わたしは非常に好意的に受け止めました。どこか軽やかで、爽やかな印象なんですよ。


②この作品ではドラッグやセクシュアリティに関する内容が具に描かれています。
そういった話題から目を背けたいわけではない、けれど描写そのものは苦手。
そういった方はいくらでもいるでしょう。
だからこそ、ここまでの徹底描写は「勇気」ある行動だなと感じました。またそれを為しうるだけのリサーチ力に驚きを隠せません。好奇心を煽るようなものではなく、知ることで理解に近づいてゆく、踏み込んでゆける素晴らしい作品です。

③美しいことがまるで罪であるかのように、精神的にも身体的にも繰り返し打ちのめされるテディ。これは弛んだ不安定な糸の上で危なっかしい綱渡りをする彼の物語でもあります。当然ですが、何度も落ちたり逃げたりします。

その度に、彼は罪を背負うかの様に、背に傷を刻みつけていきます。本人は平気な顔をして振る舞っていますが、見ている側にとっては痛々しい。それがいつしか彼を明確に「理解」した人物によって、テディの背に刻まれた傷が色鮮やかな絵画に昇華する。

この感動体験を、絵が色づいていく様を、できるだけ多くの方が鑑賞してくれたら、と願わずにはいられません。

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