第24話 さよなら

小屋が、燃えて崩れ落ち始める。なんとかハルを隙間から引っ張り上げようとして、手を伸ばすが、炎に阻まれてしまう。

「ハル・・・ハル・・・」

アスカは手に火花を受けても、燃える木材をどかそうとしても、まるで熱を感じなかった。それどころではなかった。

「返事してくれ・・・っ!ハル!」

ガラガラと不吉な音がこだまする。小屋の支柱が折れかかっているのだ。火花は無惨にも風に舞い上がる。轟音はアスカの声をかき消すように大きくなっていく。

何も考えられない。自分の身の危険さえも。

こたつで眠っているハルや、アスカを安心させてくれるふんわりした笑顔がこびりついている。アスカの胸の中は半狂乱になっていた。

 その時、アスカの頭上でみしみしと音がした。焦げ付いた一本の柱が、頭上で揺れている。奥の方で柱が折れていくと小屋全体が、地震が起きたように揺れた。

頭上に柱が降ってくる。アスカは、不思議と恐れを感じなかった。

 しかしその時、緑がアスカの視界に現れた。アスカの髪に、雫がぽたりと伝う。それはまるで涙のようだった。

ハルが倒れている隙間から、緑の葉がたっぷりと茂った蔓がアスカの頭上に伸びた。それは落ちてくる柱を受け止めアスカを守った。蔓がぶちりと途切れる音と炎の弾ける音だけが、アスカの身体に響いた。

ハルはもう死んだのだとアスカは悟った。

「お、おい、お前何してるんだ!危ないだろうが!」

小屋の後ろの方には野次馬が溢れるようにいた。その中で、一人の中年の男性がアスカを見つけ、小屋から引き離す。それと同時に消防車のサイレンが耳に届いた。

アスカはもう立ち上がることもできなくなって、掌の中の赤い本をただ茫然と見つめている。ハルが最後に手渡してくれたものだ。

表紙には緑のペンで『日記帳』と書かれてあった。


ーーーーーーーーーー


 幸福善心党の最上部で、コトが身震いした。

「どうしたの、コト」

ナミは窓の外に立って、コトを冷たい目でみている。

「いや、なんでもない。ただ少し、嫌な感じがしたんだ」

取り返しのつかないことが起こったような・・・絶望への道が始まったような、そんな寒気がした。

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