第六話 気持ちの在処

あの出来事から数ヶ月が経ちすっかりと

夏になってしまった。

ジリジリと照りつける太陽に耳障りなセミの鳴き声。


「かす、早く行くぞ」

「待ってってば!」 


鞄を持ち玄関に行く葉月を追っかけ、

皿の上のパンを口に咥えて玄関へ向かう。


「行ってきます」

「2人とも、気をつけてね」


母さんに見送られながら僕たちは学校へ向かう。


「かす…学校には慣れたか?」

「友達もできたもんね」

「何人だ?盛らずに言いなさい」

「…2人」

「僕は1人だ」

「1年多く生きてるのに…」

「関係ないだろ…!」

「ふふっ…はーくんらしいね」


他愛もない会話をしているうちに学校へと着く。

2人は玄関で「じゃあまた後で」

と別れ各々の教室へと向かう。


1ーA

かすみは自分の教室に入り席に着く。


「かすかすおっはよー!」

「かのちゃん…おはよー」

「どうしたの?元気ないね」

「いやぁ…うちの兄に友達が1人しかいないことが判明してね」

「そんなの、かすかすと一緒じゃん!」


うっ…!かのちゃん…痛いところつくね。


「わ…私にはかのちゃんがいるから…

いいの!」

「かすかす…!もうっ!可愛いんだから!」


そう言ってかのはかすみを抱きしめる。

かすみとは対照的にスタイル抜群のかのの

豊満な胸がかすみの顔に当たる。


これは…武器だね。


「かのちゃん苦しいよー!」

「わわっ!ごめんね」

「お礼にこれをあげましょう」


かのは鞄からゴソゴソと小包を取り出す。


「これは…クッキー?」

「そうだよー、私の家ってケーキ屋なんだけど昨日余った材料で作らせてもらったんだ」

「良かったらどうぞ!!」

「ありがたく貰います!」


かすみの笑顔を見てかのは安堵の笑みを浮かべた。

すると教室のドアがだるそうに開かれ

沢田先生が入ってきた。


「お前たちSHR始めるぞ」

「沢ちゃんおはよー!」

「木原、先生と呼べ」

「はーい」


このやり取りを見るのも日課になってきたな。こうしてかすみの1日が始まるのだった。



…………


一方葉月は…


「よう葉月」

「篠崎か…どうした?」

「宿題見せて!」

「断る」

「なんでだよぉ!俺たち親友だろ!?」

「親友なら自分の力で解かせるもんだろ?」

「渚ちゃんのスケールフィギュア」

「ようし、どの宿題だ?

僕がなんでも見せようじゃないか」

「全部」

「ほらよ!」


葉月は篠崎にノートを渡すと上機嫌になる。


「篠崎!忘れたら埋めるからな」

「ひぇっ…ちゃ…ちゃんと渡すから!」


篠崎は逃げるようにして自分の席に戻ると

ノートを写しはじめるのだった。



〜昼〜


「かすかす!ご飯たーべよ!」

「いいよー」


「あっ……。ごめん、お兄ちゃんのお弁当も入ってたから渡してくるね」

「ん?私も一緒に行く!」


2人は教室を出て葉月の教室に向かう。


「お兄ちゃん!お弁当!」

「ん?あぁ…もうそんな時間か」


かすみが弁当を渡しに行くと葉月は机に

突っ伏して爆睡していた。

耳にはイヤホンがされており、

その様子から授業中もこんな感じかだったんだなとかすみは思った。


「ありがとな…そっちは友達?」

「は…初めまして!木原かのです!」

「兄の来海葉月です、かすの事よろしくね」

「は…はい!」

「む…ほら、かのちゃん行くよ

昼休み無くなっちゃう」

「あ、待ってよ」


スタスタと先に行くかすみを追いかけて

かのは走り出す。

ちらりとかのの方を見ると

後ろを向いて葉月に手を振っていた。


「かすのやつ少し機嫌悪かったな…」


そんな事を考えつつ僕は席について

弁当の包みを広げるのだった。



放課後になり生徒たちがぞろぞろと帰る中

葉月は玄関先でかすみを待っていた。


「はーくん…」

「かす行くぞ」

「え?ちょ…どこ行くの!?」


強引に腕を引いてかすみを連れ出す。


「ここって…クレープ屋さん?」

「奢るよ。何だか甘いものが食べたいんだ」

「珍しいね、じゃあこの苺のやつ!」

「分かったよ」


「どうだ?美味しいか?」

「うん!アニメの高校生っぽい」

「相手が兄なのは妥協ポイントだけどな」

「私はそれでもいいよ」

「不思議な奴だ…」

「はーくんのやつ一口頂戴!」

「あ…あぁ。別にいいよ」


そう言ってかすは僕のクレープを

口いっぱいに頬張る。

口の横には生クリームを付けて美味しそうな

表情を浮かべる。


「ちょっと食いすぎじゃない?」

「一口だもんね」


悪戯っぽい笑みを浮かべてニヒヒと笑う。


「なら…もう少しきれいに食べような」


僕はかすに付いた生クリームを指で取って

口へ運ぶ。


「ふぇ…!?な…何してるの」

「口の横に付いてたから取っただけだよ」

「はーくんのバカ!バカ!バーカ!」

「な…!?そこはありがとうだろ」


顔を真っ赤にしてかすは僕をポカポカと

叩いてくる。

ウェットティッシュで拭いた方が良かったんだな…以後気をつけよう。


もう…無意識でこんな事されてドキッと

しない方がおかしいよ…。

はーくんは気付いてないし…

たちの悪い主人公だよ…。


2人はクレープを食べながら家へと帰る。


帰り道の夕焼けがジリジリと僕達を刺激する。

「かす…昼少し機嫌悪かったか?」


僕は恐る恐る聞いてみる。


「だって…かのちゃんの胸…見てたでしょ」

「は…?いや見てないけど?」

「うそ!だって視線が下に降りてたもん」

「僕より身長が低い相手を見るなら

見下ろして当然だろ」

「僕は女の子の身体をジロジロ見る趣味は

ない」

「じゃ…じゃあ!私の身体とかのちゃん…

どっちが好き?」


確かにかのちゃんの身体はスタイルが良いし

胸も巨乳と言っていいだろう。


だかしかし、

「かすの方だな」

「即答!?」

「なんで…?私胸だって大きくないし

背も小さいよ」

「胸が小さな女の子が恥じらってる方が

可愛いじゃないか」

「うわぁ…理由が気持ち悪いよ」

「…ごもっともだ」

「それと…2人が喋ってて少し胸がモヤモヤしたの…」

「ヤキモチか…?」


かすみは顔を逸らしてコクリと頷く。


「悪かったな…これからは気をつけるよ」

そう言って葉月はかすみの頭を撫でる。

かすみは抵抗する様子を見せず、

顔を葉月の制服に埋める。


「今度は…少し我慢するから」

「もっと撫でて…」

「仰せのままにっと」


言われるがままに撫で続ける。


その結果……





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