思い出しました




「寄せ付けたくない」と言っているかのような鋭い熱さを思い出しまいた



踏み込むたびに感じる鈍いもくもくとした感触を思い出しました



サンダルに入り込んだ砂のとげとげしい違和感を思い出しました



ビニールの敷物が風にあおられて言うことを聞かない様を思い出しました



白い砂浜を爪先立ちで走って波打ち際に急ぐ気持ちを思い出しました



足先だけでも思ったよりも冷たく感じる海水の温度を思い出しました



小さい波でも押し寄せるたびに身体のどこかしこに冷たさを感じることを思い出しました



気がつけば顔だけがお日さまの温度を感じていることを思い出しました



仰向けに浮かぶとお腹が暑くて背中が涼しい気持ちよさを思い出しました



耳に小さな波が当たるたびに周りの音が聞こえたり聞こえなくなったりすることを思い出しました



海水は水道の水とは違って身体で感じることができる濃度があることを思い出しました



すぐそこに見えてるとばかり思ってた波消しブロックが案外遠くにあるものだということを思い出しました



小さな潮の流れのせいで ここだと決めた目標にたどり着けずに流されることを思い出しました



海面下の波消しブロックは海草がびっしり生えていてその感触がなんともいえないこと思い出しました



浜に戻ってきて砂をいじっているうちにあっという間に身体が乾いてしまうことを思い出しました



海水で黒く湿った砂で作った山は早々には崩れないことを思い出しました



でも せっかく作ったトンネル付きの山を予期せぬ波がいとも簡単に壊してしまうことを思い出しました



海を背にして帰るときの砂浜は名残惜しいのか あたたかな温度になっていることを思い出しました



そして



本当に名残惜しく思っているのは 砂浜ではなくて僕の方であることを思い出しました







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