48 アーセリアの目的


 なるほど、ご機嫌を伺うと……余計に分からなくなったのはワタシの頭が悪いせいか?


 これでどうよって感じのアーセリアさんに改めて首を傾げてると、マグヌスさんが笑みを絶やさずに彼女の肩に手を置いた。


「アーセリア様。ここからは私が説明を引き継がせていただきます」

「ななッ!? ど、どうしてですか!? わたくしちゃんと説明して」

「よろしいですね?」

「うぅ……はい」


 やっぱりこの人がボスだろ。


 ふふっ。

 ワタシ、分かっちまうんだ……強者が……腹を見せるべき相手って奴がな。


 しゅんと肩を落として縮こまったアーセリアさんを背後に捨て置いて、マグヌスさんが穏やか(覇気)を滲ませながら進みでてきた。


 おいおい、ここは敵船じゃねーぞ。威嚇してんじゃねーよ。

 お腹見せるぞ、この野郎。


 自分の陣地にもかかわらず容赦なく追い詰めてくるのマグヌスさんに対して、ワタシも穏やか(弱気)を全身から滾らせて応じる。

 股下から前に持ってきた尻尾を抱きしめて、涙を滲ませながら上目遣いで見つめてやった。


 あと一歩でも間合いを詰めてきたら、先手必勝でチビる覚悟がワタシにはあるからな。そこんとこをよくよく考えて、一歩引いてくれてもいいんですよ。


 その意志を込めて尻尾の先っぽを小さく揺らしたら、何かにつっかえたみたいにマグヌスさんが急停止した。


「……ッ!? ……なるほど。それもいいでしょう」

「へっ? ……ッ! リィルさん……」


 視界の端に人影が見えて、追わずそっちを見てしまい息を飲んだ。

 マグヌスさんが前に出てくるのに合わせてリィルさんも前に出ていた。


 自ら身を差しだすような献身に、思わず目頭が熱くなる。

 なんだよ、リィルさん……やっぱりワタシのこと大好きじゃないですかぁ!

 そうですよね。口を利いてくれなかったのは緊張しちゃったんですよね、仕方ないな~もう。


 今度、尻尾をもふもふさせてあげるのも、やぶさかじゃありませんよ?


「マレビト様の権能の影響とはいえ、アーセリアよりも優先することができましたか。うん、これはいいことでしょうね。ああ……良かった。大丈夫ですよ、ここでことを構えるようなことはしません。約束しましょう」

「……分かった」


 リィルさんの牽制するような鋭い視線に、マグヌスさんは降参するように両手を上げた。まだ完全に納得はいっていない様子だったけど、リィルさんは渋面のまま頷いて一歩下がった。


「それでは、マレビト様。色々とご説明したいところですが……なにぶん時間がないもので。なぜご足労いただいたのか。今、この街で何が起こっているのかを、まずは簡単に説明させていただきたいと思います。よろしいですか?」

「はっ、はい! あっ、でも一つだけ」

「伺いましょう」

「あの、ワタシのことはイディって呼んでください。マレビトじゃあ呼ばれても分からない可能性もありますし。それに……これがワタシの名前なので」


 別に気に入ったりしてる訳じゃあないし、たった数日のつき合いしかないんだけど。それでもなんていうか……うん、それ以外はしっくりこないんだよね。


 ホント、それだけなんだから! 勘違いしないでよねッ!?

 ……というか、あの自称神様のショタが決めた以上、それ以外の選択肢はないも同然だし。


 もしこれ以外の名前を使ってるのがバレたら……わっふ!? ゾワッとした!


 急な寒気にブルっていると、マグヌスさんは何を勘違いしたのか、子供の自分ルールを見守る父親みたいな面して頷いてきた。


「なるほど。承知しました」


 何を承知したのか知らないけどその顔は止めろ、ワタシに効く。


「それでは改めて。この街で現在起こっている住民の暴動についてですが、これには裏が存在します。

 住民の不安を煽り、先導している輩。奴らの目的はこの街を混乱に陥れ、街の秩序をひいてはオールグの街そのものを破壊することを目的としています」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 急に話がデカくなったのに慌てて待ったをかけた。


「えっと、あの子供たちを攫っていた奴らは、貴方たちが子供を生贄にしているって告発していて、それから守るための保護だって公言してた。実際にノノイさんたちもアーセリアが子供を贄にしているのは事実だって言ってたし。

 でも、あの変質者たちの本当の目的はこの街を破壊することで……あ゛ぁこんがらがってきたぁ!!」


 なんでこんな幼女に高度な政治的判断が要求されるような問題を突きつけるのか、これ以上お馬鹿になったらどうしてくれるんですか!?

 絡まった思考を解こうとして頭を抱えてワシャワシャしてると、マグヌスさんが咳払いをして続けた。


「オホン。では、流れとしては逆になってしまいますが、イディ様をこちらに招かせていただいた理由から説明いたしましょう」

「へっ? あっ、はい。お願いします」


 そういうのってクライマックスに取っておくもんだと思うんだけど……大丈夫なのか?

 ワタシの心配をよそにマグヌスさんは一層笑みを深めると、急にワタシの膝下まで詰めてきて、片膝をついて祈るように頭を下げた。


「わふッ!? えっ、ちょっ、なんですか!?」


 懺悔でも始めるみたいな勢いのマグヌスさんにワタワタしていると、彼はそのままの姿勢で静かに語った。


「イディ様。いと稀なる旅人様。どうかこの街と、子供たちをお救いください」




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