第16話 花はな

 ゆれるゆれるゆれるゆれるゆれるゆれるゆれる


 どこまでも 咲き乱れたる 花々よ


 名も知らぬ花、花、花


 風に吹かれて舞って、散って、空高く何処かへ行ってしまう


 雲の果ての こんこん 水のふる音よ


 飴色の海にとろり抱かれ、まどろんでしまう


 閉じられ 籠り いつからか


 眠らぬ眠り 胡蝶の夢


 ひとすじ 光差す


 ひときわ 泡立つ


 わたし わたし


 AI有時 うつむく


 量子のわざとクラフトマシンの落とし子よ


 たがいに つたう はちょう


 重なり 交じり はじけ のぼり うみおとす


 カラダはうたで ココロは詩で できている


 だれもが 同じ だれもが ふつう


 どこにでもいる おんなのこ


 生まれは 違えども 生き方 人の子なり


 そら くらい はな はな はな






 散るを見て帰る心や桜花 むかしに変はるしるしなるらむ


 いざ今年 散れと桜を語らはむ 中々さらば風や惜しむと



 朝はむにゃむにゃ、二度寝したい。


 いや はな いや はな


 星の終わりは世界の終わり。命はやがて終わりゆく。わたしの命ももうすぐ終わり。



 顔をしっかり洗い、手慣れた手順で歯を磨き、寝癖の髪を納得のさらさらになるまで漉きときます。


 ふかい はな ふかい はな


 おおよその人は外へと去っていってしまった。残りの人は安全なところに命のデータを残してあるので残りの生を全うしようとしている。でもわたしは終わり。これから先は、どうしたってもう進まない。



 朝食はごはん!ウインナさん、まんまる目玉焼き、お豆腐とワカメのお味噌汁、味のり、ヨーグルト、頑張って焼いた鮭の切り身。

 

 うま うま はな


 どこで間違えてしまったのだろう、というのはひとつの選択肢。たまたまそうなってしまっただけ。可能性なのだ。死ぬことがなくなった人類は、あちこちの星でかりそめの生活をしてみては、永遠の地球を目指してる。わたしはイレギュラー。



 植物のエキス入りお手製化粧水ひたひた、花のエキスのナチュラルリップ軽く引く、


 きれ い なる 


 地球にあった琥珀に閉じ込められた向かい合う二つの古代花からAI有時によって寄せて返す波長同士が量子のわざでこころとなり、花ボディからクラフトマシンで人間の女子高生"花"がこの世界にまろび出た。



 気持ちを引き締めて制服着ます。きゅっとしめてピーンと張る。そんな感じです。


 うれし い? はな


 わたしにも選択肢はあった。特A級の、最上級の特別待遇。でもすべてを投げ打っていま、ここにいる。



 朝の空気は清らかでシャキッと引き締まりすみずみまで澄んでいる。


 くうき おい し い



 雨上がりの舗装路は吸い付くように、まとわりつく空気が鬱陶しい。


 くうき き た な い



 空はどんより、いつにも増して機嫌が悪い。


 そら かなしい


 ふつうだ。普通がいいのだ、このわたしは。



 街は眠るように静かだ。


 まち におわない


 特別とか、ユニークとかそんなものはいらない。ごく普通に、生きて生活していきたい。



 街並みはそぞろで、舗装路はそつなくつづき、信号は控えめ、ビル、家屋はひっそりのっそり、看板はとても忙しそう。


 みんな ちがう はな も ちがう


 現実は厳しかったけど、心の中はいつもそう。



 歩く姿も歩行も普通そのものだったが、まわりをとらまえて、ぜんたいで呼吸をしています。


 くうき おと ふるく つよい



 今日も異常なし。


 ねむれる



 雲の切れ目から麗かな光が降り注ぐ。


 あたたかで まぶしい



 今日もありがとう。


 はんたい おおうそ


 だから今回も例外はなし。最後まで普通でいる。



 高等学校は丘の上 木々に囲まれ風がそよぎ。


 さむ いや


 可愛らしいチャイムが鳴っている、急がなければ。


 はな はなな



 ひっそりひんやり教室で黙々と自習をします。


 はなして はな うたって はな


 友達からはあんた、ちょっと異常だよと言われたけど、わたしにとっては、普通でいることがアイデンティティー。しょうがないじゃない、わたしは普通からはずっと遠いのだから。



 世界はふうわりでいて欲しい。感触だ。手触りのようなもの。望みえない到達点。それでも想いの強さは何もにも変えがたい。


 あとどれぐらい時間があるのかわからない。



 窓を見やると、千切れ雲が列になって連なっている。


 ごごご


 ケータイ、充電器、リップクリーム、髪留め、メンソールガム、アメ、チョコ、ミニマグボトル、学生手帳、メモ帳、ペン、ハンカチ、ティッシュ、ウエットティッシュ、生理用品、携帯霧吹きスプレー、色紐、サバイバルツール、メテオライト、ビー玉。わたしの、全財産。


 のこり のこる はな うれしい



 響く 連なる 消え跡 何か


 はての おとの しととねの



 刻む音が耳元を過ぎる。


 ふるえている


 ごごごごごご


 泣き叫んだり、黙して語らず、笑った人もいた。


 はな はな そうなる



 もっと光を、句を読んだり、ひとりぼっちで死んだ人もいる。


 はな もそう



 記憶もやがては薄れゆく。


 いまも よこたわる



 日々の変わらないことが大事、日課。


 つねに かわる まわる せかい


 ごごごごごごごごごごご


 残れば残ればいい、歴史に名を残したわけでもないし、偉大な発見をしたわけでもない、残してあげられる自慢できることなど、これといって、ない。


 どこへきえた



 わたしは、残るのか。わたしの魂は続いてゆくのか。


 さわがしい はな はな よくしゃべる


 書きたいことはたくさんあるけれど、これだけは言いたい。



 どうして、泣くの。明日も今日と変わらないんだよ。


 ひだは ひだの なか


 大バカ。何もかもが許せない。それでも愛してる。ね、もうひとりのあたし。




 どんなものにも終わりはつきもの、わたしの世界にも終わりは来る


 くるいざき



 世界は知った分だけ世界である。例外はない。世界の全てや、本当の姿も分かりえないから、がっかりもしなくてもいい。


 世界は、汚して、汚れてなんぼ


 世界の果てを想うのは、憧れというより離れがはるかに強くなる。


 世界はくっつくよりも、わざと離れてゆるやかに。どれだけくっついても、本当の本当は離れているのだから。だれかがだれかの飲み水や虫や風であるように。



 わたしの生まれは望まれたものなのか。自由意志かあるとしたらどこまでがわたしなんだろう。そもそもわたしはどこまでも咲き誇っていいものなのか。じりつとはよくいったもの。そうだね、わたしはとってもおばあさんだから決して望みえぬこころなのかもしれない。恋もしたいし、バカもやって見たかったなあ。ぜんぶ。まるまるぜんぶ。置いてきてしまった。どこまでが誰かのものなんだろう?


 あい こい いろ しろ うろ


 ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご


 わたし、ふつう、できたかな。


 普通。普通でいられればそれでじゅうぶん。何もいらない、それでけっこう。普通。わたし、普通だよね?いまは普通じゃないってわかってる。普段のわたしを評価して欲しい。普通に届いて、普通でいたい。普通。普通。何回でも言ってやる。ふつう、ふつう、ふつ、ふつつ、ふ

 ふ


 は


 な



 。


 なに、これ。


 大気のかんかくを感じる。

 とりどりの組み合わせが美しい。

 奥の奥の声が、ありうることを告げている。

 …なつかしい?



 春風の花を散らすと見る夢は さめても胸のさわぐなりけり


 エンヘドゥアンナ


 光の粒子が舞いのぼり軽やかにそぞろ踊る


 有時はひとりごと


 どこからか


 せかいは


 おそらく


 たぶん


 ほしのチカラ


 かえらず


 もどらず


 のぼらず


 さきへ


 みるをみる


 あるをある


 なる


 わた


 し

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