第2話

 再会は、中学二年生の時だった。

 すっかり道場で敵のいなくなっていた僕は、将来のことを考え始めていた。将棋なら、一番になれるんじゃないか、と。

「いやあ、三東君強いなあ。おじさんに勝てるようになったもんなあ」

 道場でよく当たるおじさん、金本さんが僕の背中をたたく。自称六段だけど、多分二段ぐらいだ。

「プロなれるよ、プロなったらうちの娘にも将棋教えてやって」

 何とも遠い未来の話である。だけど、プロになりたい気持ちは芽生えていた。

 おじさんはハンチングを指でくるくる回しながら、次の対局に向かっていった。

 僕は、道場を出る。残念ながら来週から期末テストなのだ。

 もちろん、テストのことは考えたくない。このままプロ棋士を目指して、高校に行かないのもありかもしれない。両親はなんと言うだろうか。師匠も探さなければならない。

 いろいろと考え事をしながら歩いていたら、また迷って、そして同じように迷っていた。

 目の前に、ブランコと滑り台が見える。そして、女の子も。

「久しぶり」

 工藤さんは、すぐに僕に気づいた。

「久しぶり。またさぼり?」

「ほとんどさぼり。楽しくないもん」

 制服はほぼ同じだから、一貫校なのだろう。

「三東君は、やっぱり道場?」

「うん」

「強いんだ」

「……うん」

「強そうな顔してるもんね」

「初めて言われた」

「メガネのせいかも」

 朱里は、少し影があって、それでもとってもきれいだった。普段女子と話すことも少ないぼくは、緊張しているのを隠しながら、しばらく話していた。

「将来プロになるんだ」

「うん、目指したいなって」

「私は東京行きたい」

「え」

「東京行ってね、ロフト付きのおしゃれな部屋に住むのが夢かなあ」

 女の子の夢は難しい。でも、夢を語る朱里の顔は悪くなかった。

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