第38話

なんとなくふんわりと第2章の用な感じでよろしくです


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「最後のワガママだよ。バイバイ」


 お別れの言葉だ。やっとゆかりも最後の別れの言葉を口にできたって感じだった。


「キスされちゃったけど、やっぱりこれはちゃんと瑞穂には伝えないといけないよなぁ」

 若干気が重い。僕が悪いのだから叱られたり怒られたり、はたまた拗ねられたりしても仕方がないんだけど嫌なものは嫌なのだ。


「ゆかりも最後にやってくれたよな……最後のワガママ、か。しょうがないな」







「ただいま」

 既に辺りは薄暗いというのに、かすみ荘のどの部屋からも明かりは漏れていない。


「はて? おばあちゃんと瑞穂で出かけた?」

 玄関の鍵を開けっ放しで出かけはしないか?


 まずはリビングに入り、明かりを点ける。

「わっ」

 腰を抜かすかと思った。


 おばあちゃんが部屋の隅っこで床の絨毯に指でを書いて落ち込んでいる、いいや、あれは拗ねているんだな、きっと。


純生あのこもあんなに怒ることないじゃないのねえ……ちょっと婆さんが遊び歩いたってだけじゃないのねぇ~ リハビリなんて行ったって面白いことなんてなーんにもないのにねぇ」

 ぶつぶつと純生さんに対する文句をいい続けている。



 取り敢えず放っておくことにした。触らぬ神に祟りなしってやつだな。


 階段を上がり、僕の部屋に向かう。瑞穂もそのままそこにいるはず。

 しかし階下と同じで二階も明かりが点いていない。


「おいおい、まさかの二連発ってことはないよね?」

 扉を開け、部屋に入り明かりを点ける。


「おう……」

 瑞穂がベッドの隅で顔を枕に埋めてをしているかのように頭を振っている。


「くすんくすんくすん……貴匡くん……早く帰ってきてぇ~ くすん」

 ゆかりのこと送っていってあげてと言いながらもやっぱり嫌だったんだな。そりゃそうだよね。僕だったら嫌だもの。それを気丈にも言ってのけたのだから、早く僕が戻ったことを知らせないとね。


「ただいま、瑞穂。戻ったよ」

 ガバっと顔を上げるとそのまま僕に飛びつくように抱きついてきた。


「貴匡くん、貴匡くん、貴匡くん……何処へも言っちゃイヤだよぉ~ ふえ~ん」

「うん、瑞穂のそばにいるよ。どこへも行かないって。僕だって瑞穂が居てくれないと嫌だよ?」


 抱き合ったままで暫くベッドの上にいた。瑞穂に飛びつかれた勢いでベッドに倒れ込んでいたので抱き合って寝ていたようなものだ。僕の理性、頑張った。褒めるべきだと思う。


 だって、瑞穂は分かっているのか態となのかもぞもぞと動いては柔らかい部分をグイグイ押し付けてくるんだ。僕のシャツの中に手も入れてきているし、若干ハアハア息遣いが荒いのも気になる。


「ねえ、貴匡くん。一つだけ聞いてもいいかな?」

「うん、なに?」


「ゆかりんとキスした?」

「……ちゅ、中学の頃に――」


「違うっ、さっきだよ!」

 かぶせ気味に否定、なんでバレた?


「――はい、しました。で、でも僕からじゃないからね!」

「そんなの分かっているモン! もうっ貴匡くんは脇が甘いんだからっ」


「……はい。スミマセン」

 唇にゆかりの付けていた口紅が少し残っていたのを見つけたようだ。

 上書きするからと言って瑞穂は僕の唇、というか口内中を蹂躙するのであった。


 なんかもう我慢出来ない気がする……


「……く……みず……」


 頭がぼうっとしてきたし身体も熱い。


「た…くん、みず…ほ…やぁ」


 彼方から何か聞こえてくるけど、僕も瑞穂も互いの舌を絡めあい――


「たかまさくん! みずほやぁ! 降りてきて!」


 は! おばあちゃんがいることを完全に失念していた。さっきからおばあちゃんは階下から僕たちを呼んでいたようだった。


「瑞穂、おばあちゃんが呼んでいるよ」

「むぅ~」


「怒らないの!」

「だっていいところだったのに!」


 瑞穂の手には先程ゆかりが引き出しから出していた最後の一つになって薄いやつが握られていた。


「み、瑞穂? 落ち着いて、まだ陽も暮れたばかりだよ? おばあちゃんだって起きているし、ね?」


「じゃあ、陽が沈んで大分経って、おばあちゃんが寝たらOKってことよね? 言質取ったわよ?」


「…………ぉ、ok」


 なんだか上手いことやられたような気もしないでもないけど、いい思いは僕もするので良いと思います。次の薄いやつも早く注文しないといけないな。今夜ネットで注文しておこう。ネット通販の登録名義も支払いクレカも父親なので無問題。そもそも勝手に買い物できるように登録されている。要するに放任である。


(反抗して、反発して、お互いに連絡も取らないのに非常に申し訳ない気がしなくもないけど、存分に利用させていただきます)





 階下に降りるといい匂いがしてくる。もう夕飯時か?


「ごめんね。おばあちゃんが呼んでいるの気づかなかったよ」

「いいや構わないさぁ。お盛んな年頃だもんねぇ~ 瑞穂」


 瑞穂は僕の後ろに隠れているけど、顔も耳も真っ赤なのでおばあちゃんの指摘を肯定しているようなもの。


「婆ちゃんの若い頃は、それはそれはアチコチに男を――」

「おばあちゃん、その話いらないから。それよりもご飯なのかな? 僕はもうお腹ペコペコだよ」


 強引に話をぶった切る。こうしないと若い頃のおばあちゃんの武勇伝を延々と聞かされてしまうことになる。僕はもう何度も聞かされたので懲り懲りである。


 おばあちゃんは『もう、貴匡くんはつれないねぇ~』と言って夕飯のテーブルに並べ始めた。





「「「いただきます」」」


 おばあちゃんの料理はやっぱり美味い。瑞穂の料理も美味しいけど、熟練度は流石に敵わない。


「今日のおかずも美味しいね。私もおばあちゃんに負けないように頑張らないと」

「瑞穂だったら、すぐに婆ちゃんのこと追い抜けるでしょ」


「瑞穂。頑張ってね。僕は瑞穂の料理も大好きだから」

「えへへへへへへ」




 和やかな夕飯の時間が過ぎて、後片付けをしている時おばあちゃんが洗い物をしている僕たちに話しかけてくる。いつもは食後、片付けは僕らに任せリビングでテレビを見ているのに珍しいなと思っていたら話があったようだ。


「婆ちゃん、明日からちょっと旅行に行ってくる予定だったのすっかり話し忘れていたのね。ごめんなさいね~ なんで、明日からお家のことはふたりに任せてもいいかしら?」


 旅行に行ってくる話だった。


「なんだ。そんなこといつもやっていることだから構わないよ。ゆっくり楽しんできてよ」

「おばあちゃん、貴匡くんの面倒は私がしっかり見るから安心して旅行してきてね」


「そうかいそうかい。ありがとうね。じゃあ、婆ちゃん明日からの用意があるから、お風呂入って寝ちゃうね」


 そう言って台所を出ると、すぐ戻ってきて瑞穂を手招きする。

 瑞穂の耳元でゴニョゴニョなにか話すと、瑞穂は顔を真っ赤にしてアワアワしていた。


 どうせ碌でもないことを瑞穂に吹き込んだに違いない……



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更新はいつものごとくダラダラで申し訳ない。

年内、後1回は更新予定です(予定は未定と申しまして………)

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