一ノ瀬蒼の日常

ザワつく食卓

ガチャッ


「ゆづちゃんただいま~、今日も暑かったわね~」


「............あらっ? なんでこんなに暗いのかしら?うち、遮光カーテンだったかしら? しかもなんか肌寒いし......」


 マズいな......。柚月、相当怒ってる。姉たちのおかげで女の子の扱いは他の男子よりも長けている自信はあるが、柚月は一筋縄ではいかない......。


 昼休みので柚月の怒りが収まるはずがないとは思っていたが、これはマズい。



「あーおーいーさーん?」


「......っあ、ゆづちゃんただいま~、暗いし寒いけどどうかしたの?」


「分かっててしらばっくれるのやめてもらえます?? はい、そこに正座してください!!」


「......はい」


 ここはふざけず、大人しくしておいたほうが良いだろう。俺の本能がそう言っている。


「......ハァ。蒼さん、念押しておかないと上手くはぐらかされそうなのでもう一回言っときますね? 私は確かに女ですが、そこらのか弱いとは違うんです。分かります?」


「っでも~」


「でも~、からそのあとは却下です!」


しまった、つい口答えを! 俺の口はバカか!


「私は、蒼さんの部下であることを誇りに思ってます。なのに、蒼さんは私を必要としてくれない。私のこの悲しさ分かります? 蒼さんが女の子なら誰にでも優しいことは分かってます。それが悪いことだとも言いません。でも、私はセミメディです。この意味分かりますよね、蒼さん?」


「......ぇえ、ごもっともだわ」


「私のこと、女の子じゃなくて、ちゃんとセミメディとして見てください。私は蒼さんの役に立ちたいし、生徒の役にも立ちたいんです」


 柚月の言いたい事はよく分かる。セミメディとしての俺なら、ここで『あぁ、分かった。』と頷くべきだ。柚月が女の子だろうが、俺がどんなに好きでも、セミメディはセミメディだ。区別してはいけない。


 でもやっぱり、男としての俺は柚月を危ない目に合わせたくない。それを柚月が望まないとしても、だ。ただまぁ、セミメディとしての柚月を傷つけたのは事実だ。だから......


「......ハァ、分かったわ。これからはゆづちゃんのことを連れていくわ。でも、これだけは約束してちょうだい。どんなことがあっても危なくなったら逃げること。いいわね?」


「......分かりました。って言うか、なんで蒼さんが話の主導権握ってるんですか?!」


「まぁ、そんなことどうでもいいじゃない?♡」


「......でも、もし凛さんが危ない目にあっていたら、私、約束守れないかもしれません」


「......それはダメよ~? そんなんじゃ連れて行けないわ~」


「......っでも!!」


「ハァ~、分かったわ......じゃあもし、うぐいすが危ない目にあってたら、ゆづちゃんの代わりにあたしが守るわっ♡ それでいいかしら?」


「まぁ、それなら.....。って言うか、凛さんのことうぐいすって呼ばないでください!!」


「......はぁ~い♡」


 俺はこの約束を本当に守れるだろうか......。そんなことを考えながら廊下を通り抜け、真後ろに柚月の気配を感じながらいい匂いが漂っているであろうリビングへ向かう。



「今日の夕飯は何かしら~?」


「蒼さんの大好物だらけですよ!!」


「あら嬉しい!! って、なぁに? この緑づくしの食卓は? ハンバーグはハンバーグでもこんな色のハンバーグ見たことないわ?!」


「え? 今日はほうれん草づくしの献立にしてみました!!」


「......それってー,あたしが報連相を怠るからかしら?」


「怠るっていうよりも意図的にしないって言った方が正しいんじゃないですか? まぁ戒めのための夕食ですね、今夜は」


 柚月は今回の件を相当怒っているらしい......。次に同じことをしたらどうなることやら。


「それで? 最近どうなのよ?」


「何がですか~?」


「もちのろん、学校生活についてよ?♡」


「そうですね~、これと言って変わりないですかね~。普通ですね!」


「何よその普通って~、JKでしょ~?」


「......そーですねー、最近やけに男子が騒がしい気がします。あとは~、凛さんが可愛いのはいつものことだし...これと言ってないですね! あ、そうそう!今日の凛さんのお弁当何だったと思います??」


「......へぇ~、男子がやけに騒がしい......ねぇ? どんな感じで騒がしいのかしら?」


「うーん、ギャーギャーって感じじゃなくてザワザワって感じですかね? きっと、マンガかエロ本の類でも持って来てるんじゃないんですか?」


「......やぁね~、下品だわ~」


「蒼さんはそういうの読まないんですか?」


「ヤダッ! ゆづちゃんったら~!! そんなのあたしの部屋のお掃除してて出てきたことある?」


「いえ......ないですが、本当に読まないんですか? 年頃の男子高校生が?」


「それは~、ひ・み・つ♡」


「えぇ~、やっぱり蒼さんも読むんですか~?? そういえば、凛さんの話サラッとスルーしましたよね? ちゃんと聞いてくださいよ~!!」


「......はいはい、聞いてるわよ~」


「それで~、凛さんのお弁当なんですけどっ! 今日はー、昆布のおにぎりと梅干のおにぎりと、たこさんウィンナーと、......」


 今夜もいつもの“ 可愛い凛さんのお弁当 ”のコーナーが始まってしまった......。やはり柚月のベクトルは目の前にいる俺には向かないらしい。


 それにしても、男子がやけに騒がしいのに、ギャーギャーではなくザワザワ......。何か引っ掛かる、もしマンガやエロ本の類だとしたら、ギャーギャー騒いでいてもいいはずだ。それこそ、年頃の男子高校生なんだからそういうのを見ていてザワザワで済むはずがない。うーん、何かがおかしい。


「......いさん、蒼さん! 聞いてます?」


「聞いてるわよ~」


「それで~、梅干しのおにぎりを食べた時の凛さんの酸っぱーいって顔が可愛すぎて、ニヤニヤが止まらなくて~どうしよう!! ってなっちゃいました!! で~、その時の写真が~、えーっと......」


 写真ね~、柚月、お前それ盗撮じゃないだろうな.....。ん、盗撮? 男子が盗撮してるとか? んーでも、さすがに動きが怪しいからそれは女の子も気付くと思うし。じゃあ、盗聴? んー、ないな、これも。なんだろう......気になる。明日ボスに相談してみるか。ちょっと気にしすぎかもしれないが、柚月の学年でなんかあったらたまったもんじゃない。




To be continue

   

   


  

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