戻った記憶

ギー.....


 ヨイショっと、相変わらずこの扉重てぇな~。体育やる前にこんな重たいの開けてたら疲れちまうだろうが.......。

 

えーっと、パイプ椅子置き場は......中から回るの初めてだからな......先に館内図見てくりゃ良かった。行き当たりばったりだけど、しゃーねぇ、静かに歩いて探してみるか。


 おっ?蒼から電話だ、なんかあったのか? かけ直すっても、ここだとαに気付かれちまうからな。んー、チャットでいいか。


【なんかあったのか? 今体育館内だから電話は無理だ、ちなみに現在バスケコートを通過中。連絡はチャットで頼む。】っと、そうしっっ!!!!


ツルッ


「......へっ?」


ゴツン!!!


「湊!!」


 ......っつー、なんで蒼が観客席にいんだ? それに俺、これどうなって......


「おい湊!! しっかりしろ!!」


「何で会長たちがここに......?」


「おいっ! おいっ! 起きろ湊!」


 蒼の叫ぶ声とαの声を聞きながら、プツン......と俺の意識は途絶えた。




 

 ......どこだここは? あれ? 蒼だ。なんか若いな......。仁と話してんのか? 

おい、蒼、仁、何話してんだよ!



「すみません、俺は気付いていたのに......」


「お前が謝る問題じゃない、俺の読みも甘かったんだ。まさか、試合中に仕掛けてくるとは思ってなかった。これは、俺の責任だ。気に病むな、蒼」


「でもっっ!! 

俺がもっとマークしていたら、湊もアイツも傷付かずに済んだのに!」


「まぁ、落ち着け、蒼。いつものお前はどうした?」


「はい......」


「幸い、湊も軽い脳震盪で済んだ。

それに、アイツもこれほど大事になると思っていなかったらしく憔悴してる。これ以上、湊に危害を加えるようなことはしないはずだ。

ただ、残念だがアイツにはセミメディ見習いを降りてもらう。初等部の時はあんなに感情を露にするヤツじゃなかったが、まぁ仕方ないだろう。

お前と湊もアイツとは初等部からの付き合いでやるせないかもしれないが、こんな問題を起こすようなヤツはメディエーターにはなれない」



 ......なんの話してんだ? って言うか、無視すんなよ! おネェ、仁!!



「じゃあ、俺も降ります。

事情を知っていたのに何もすることができませんでした」



 おいってば!! ......これ、聞こえてねぇのか?



「蒼、それは本気で言っているのか?」


「......っはい」


「確かに、お前はアイツを止められなかった。

それはメディエーターとしての役目を全うできなかったことに等しい。

でも、お前は湊とアイツの仲を壊したくなかったんじゃないか? だからアイツが湊に向かってボールを蹴る直前まで待って、腕を引っ張ったんじゃないのか?」


「ですがっ......結果的に湊の頭にボールが当たってしまいました。もし俺がアイツの腕を引っ張ってなかったら、腹に当たるだけで済んだのに。

っそれにアイツもあんなに落ち込むことなかった! 湊も補欠になることもなかった! 

全部......全部俺が悪いんです。アイツにボールが回った時、凄い目をして湊を睨んだのを見たんです。あの時、止めていたらこんなことにはならなかったのに!」


「......そうか。

でも、俺はお前を降ろすつもりはない。俺はお前の洞察力を買っている。気にするなと言っても無理だろうが、これを糧に精進しろ。

セミメディ見習いにできるのは観察と最悪の事態が起きた時の阻止だけだ。もし次に同じようなことが起きた時、お前がどう動くのか、期待してる」


「............っつ、はい」


「アイツとは一緒に出場できないだろうが、お前たちはあと1年ある。来年の夏、お前たちがピッチに立って肩組んでること、楽しみにしてる」





「......とさん! ......なとさん! 湊さん!!」


「......ん、ぁあ?」


「やっと目が覚めましたか!」


「亮介? ここは?」


「保健室です。

体育館でチャットしながら歩いてて、滑って転んだらしいです......」


「......あぁ、そうか。

......ってαは? 早弁くんは? っつー!!」


「あ、そんな激しく動いちゃだめですよ! 俺、ボス呼んで来ます!!」


「あ......おぅ」


 さっきのは夢なのか? なんかやけに鮮明だったけど、どういうことだ? 蒼、若かったし。中等部の頃の俺の記憶? そんなまさかな......。


でも、アイツって誰だ? なんか、知ってる話だった気がするけど。それに、蒼がセミメディ見習い降りるって......。


痛ってー、なんだこれ......? これが俺の記憶なら蒼とちゃんと話さねーと......




「おー、起きたか」


「あ......仁、俺」


「あぁ、ミッションは失敗だ。

でも、まだやることは残ってる。αがさっき生活指導室に来た。今、柚月が事情を聞いて話している最中だ」


「そうか......。蒼は?」


「......生徒会室にいる」


「俺、蒼と話してくる」


「お前もしかして......いや何でもない。

そうか......分かった。お前たちが来るまでに早弁くんたちも亮介に集めさせておく。蒼と話し終わったら、すぐに来い」


「おぅ......分かった」




ガチャッ


「......湊か」


「おぅ、ぶっ倒れちまって悪かったな」


「湊が謝るな、俺が悪いんだ。

俺はまた同じことをした! αがワックスをコートに塗ったんじゃないかって思ってたのに、お前に知らせられなかった!」


「......か。

やっぱりあの夢は俺の記憶だったみてぇだな」


「......え? 記憶戻ったのか?」


「ああ、さっき寝込んでた時にな、夢で見た。

お前は何も悪くねぇよ、悪いのは、前回も今回も仕掛けた方だ。それにお前に細工には注意しろって言われてたのに、俺がコートに入って歩きスマホやってたのが悪いんだ」


「そうじゃない、前回も今回も俺が遅すぎたんだ。

いつもはあんなに達者に話してるのにな......。肝心な時に伝えられないんじゃ意味ないよな」



「......あぁ、意味ねぇな。

お前がそうやって達者にウジウジしゃべってるの、意味ねぇよな。仁も言ってたけど、まだやることが残ってる。俺たちはセミメディだ。もうセミメディ見習いじゃない。

生活指導室にαと早弁くんたちを集めてるらしいぜ? それでもまだ、ウジウジすんのか? そんなのお前らしくないぜ?」


「......分かってる。

でもっっ!! 2回もお前を倒れさせた! ミッションにも失敗した!」


「グチャグチャうるせーんだよ!!」


ガシッ!!


「俺が倒れたって、ミッションに失敗したって、俺らがやることは変わんねえ! 

メディエーターとは?! 声に出して言ってみろ!!」


「っ! メディエーターとは、良い対人関係を構築するため以外に起こる、または起こり得るけんかやいじり合い、少年犯罪に値するような行為を未然に防ぐことを職とする仲介人。

未然に防げなかった場合、最悪の事態に陥る前にそれらに関わる諸問題を解決しなければならない」


「で? 今は未然に防げなかったんだから、俺たちはこれからどーすんだよ?」


「......αに事実確認をしに行く」


「だろ? じゃあ、行こうぜ蒼。積もる話はまたあとでだ。」


「あぁ」




To be continue

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