第10話 宮藤 壱也

友達が生霊に憑かれてるかもしれない。


この相談に、彼はすぐに応えてくれた。

ハンドルネームは怜。

仮となるが、後ほど知る名前は宮藤 壱也。

彼こそが、私に幾度と無くあっち側の世界の知識を叩き込んでくれた人だ。

彼は、霊を見ることもあれば、会話することもでき、時に祓うこともできる、そんな人だった。

が、そこまでできる人だと知ったのはもっと後の話だ。

SNSからの情報しかない当初は、始めはハンドルネームと、口調が丁寧なイメージから、彼を女性だと思っていた。

が、アバターは男性。

性別はどちらなのだろうと少し戸惑った覚えがある。


しかし、会話してみて思ったのは、知識がやはり豊富なこと。

そしてしっかり、自分の抱える問題と向き合ってくれるという親身な姿勢だったことが、好感を抱かせた。


そうして会話を重ねていくうち、相手に信頼をおくようになるには時間はかからなかった。


杠の写真を見せたところ、回答はやはり「憑いている」だろうというもの。が、生霊かどうかは、あまりに情報が少なすぎるからほかにも写真を提供してほしいと言われた。


杠にその事を告げると、「俺はオカルトは信じない」と言い切られて、それ以上話が進まなくなった。


が、私は諦めなかった。


宮藤氏曰く、

「生霊は、祓っても戻ってくるから意味がないんです。飛ばしている本人も自覚がないから、それを本人に伝えるのが最善だと思います」 

といわれた。


そこで、無理を承知で杠に言ってみた。


「とりあえず、もう一度彼女と直接話してみたら?」


が、杠の返事はにべもなかった。


『無理』


「無理じゃないよ!このままにしてたらその状態解決しないよ??」


『いや、マジで無理』


「なんでよ」


『だってその女、仕事やめちまったし』


憮然と言い放つ杠の台詞に私は動揺を隠せなかった。


話によれば、告白を断られた女性は、それきり、お店に姿を見せなくなったようだ。

ということは、こちらから連絡をとるより他にない。


「連絡先は?」


焦る気持ちを抑え、私は杠に尋ねた。


『知らねぇ』


杠は相変わらず憮然と応える。

この状況で住所まできくのはさすがにためらわれた。

わかったところで私が相手を追えば余計に揉めるのは目に見えていたし、何より、彼女のプライバシーを侵害するわけにはいかなかった。


相手は消息を断ったまま。

となれば、もうこの状況を打開する方法は、今の段階で絶望的なものといえた。


私にできることは、ない。


肩を落として私は杠との通話を終えた。


が。


私はこうなってしまっても杠を案じていた。


どうにかしたい。

その一心で縋った相手を、私はここで、またしても誤った。


「田辺さんは、幽霊って信じますか?」


ここで登場するその男性は。

今も私が絶対近づきたくない男性だ。


そもそも。

どこから、私は間違ったのだろう?


『何やったの、霊、怒らせたでしょ』


後日にきいた宮藤氏のセリフに、私は、杠のことどころじゃないや、と思い知る。




事態は思ったより複雑だったようだ。

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