愛情!独力!貪利!愛憎渦巻くトレジャーハント③

「いってぇ!? てめぇ何しやがる!」

 俺のキックで吹き飛ばされた郷が叫ぶ。

「ふんっ。今のでチャラにしてやるよ」

 心の広い俺は郷を許してやることにした。

(仕留めるチャンスはいつでもあるからな)

 今は火燐と環さんの二人がいるので、下手に動けば俺がやられてしまう。

「あぁ、そうだな。これで喧嘩両成敗としよう」

 さっきまで怒っていたとは思えないぐらいにこやかな笑顔で郷が握手を求めてくる。

「仕方ないな。そうするか」

 俺はその握手に応じる。

(いたたたた!? コイツかなりの力で俺の手を握ってやがるな!?)

 郷の手を握った瞬間に力強く俺の手を握ってきた。

「ありがとな。やっぱり持つべきものは親友だ!」

 俺も対抗して力強く握ってやるが郷の方も力を緩めることなく、俺の手を握ってくる。

「そうだな! 俺もお前みたいな親友に出会えて嬉しいぞ!」

 ギリギリと音が聞こえてきそうなほどお互いに強く握る。

「まったく君たちは……。ほらいい加減にしないと先生が来るよ」

 聡が呆れながら仲裁に入ってくる。

 ふんっ、聡に免じてここは許してやろう。

「そういえば教室に人だかりができてたけど、あれはなんだったんだ?」

 痛む手をさすりながら気になっていたことを聞いてみる。

「あぁ、なんか催し物をするらしい。しかも、生徒主催のな」

 郷も手が痛むのか、息を吹きかけ冷ましている。

「へぇ、イベント。物好きな人もいたもんだ」

 ここ恋文学園では、生徒でも自由に学園のイベントを行うことが出来る。

 ただしイベントを行うには、生徒会長と学園長両名の許可が必要だ。

 そのため、大半の生徒は面倒くさがるのでイベントを企画する生徒は少ない。

「確かにね。ここ最近は特にイベントをやる人は一段と少なくなってる気がするから余計にそう感じるよね。前にイベントやったのも僕たちが一年生の時だし」

 聡が懐かしそうな顔をしている。

「そうだな、っと。さてさて。どんな物好きがイベントなんてやってくれるのか見に行ってやるか」

 人だかりがまばらになったタイミングを見計らって、掲示されているプリントを見に行く。

「ほうほう。トレジャーハント……つまり宝探しってわけか。面白そうだな」

 プリントに目を通して概要を確認する。

「しかも優勝者には景品も出るのか! 太っ腹じゃないか。そんな太っ腹なやつは誰だっ、と──えぇ!?」

 プリントに書かれていた主催者の名前を見て驚く。

「乙音先輩!? それにエレナまで!」

 そこには、以前お世話になった学園のショップを経営している三井乙音先輩。

 そしてエレナを始めとした、彼女とパートナーになっている四人の名前が書かれていた。

「どうした、恋次。──って、あぁ。イベントの主催者はこの人だったのか 」

 後から来た郷たちもプリントを覗く。

「この人たちなら納得だな。賞品は自分たちの店で補えるし、うまくいけば自分の店の宣伝にもなるからな」

 感心したように郷が呟く。

「うぅん、確かにそれもありそうだけどあの人がそんな目的のために動くかな……」

 乙音先輩が店の宣伝のためにこんなイベントを企画するとは考えにくい。

「いずれにしても」

「……優勝は私たちのもの……」

 乙音先輩について考え事をしていると、両脇を火燐と環さんに抱えられる。

「お、おいちょっと待て。俺は別に行くとは一言も──」

 確かに太っ腹なイベントとは言ったが、参加するとは一言も発していない。

「ちなみに、優勝ができなかった場合は即婚姻届に判を押してもらうから」

「……優勝できなかったら氷漬けにして私の家に保管してあげる……クスクス……」

(優勝できなかった時のリスクが大きすぎじゃない?)

 なぜか将来と命を人質に取られて乙音先輩主催のトレジャーハントに参加させられることになった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る