愛すべき幽閉⑪

「「!?!?」」

 戦っている二人だけではなく会場にいる全員が俺の方へと注目しているのが分かる。

「俺が悪かったぁ! 火燐の気持ちも考えず、告白されて調子に乗って申し訳ない!! 火燐から大きい愛を貰っているなら俺もそれ相応の愛を返さなきゃ不平等だよなぁ!!」

 胸の内ポケットにある物に視線を落としてから言葉を続ける。

「俺の服の内ポケットに指輪が用意してある! こんなもので火燐からの愛に応えられるか分からないけど、それでもいいなら貰ってくれないかぁーー!!」

 言いたいことを言い終えた俺は肩で息をしながら結末を待つ。

(後は火燐次第だ……! 頼むぞ!)

 火燐の反応を待つ。

「えっ……。ゆび……わ……? 恋次から……指輪……? ということは……私との将来を誓いあってくれるってこと!?」

 火燐の声が聞こえる。

 どうやら成功したようだ。

「〜〜〜〜ッ! 分かったわ、恋次!! 今すぐ恋次の元に行って二人だけで結婚式を挙げましょ!!」

 火燐の足音が近づいてくる。

「……!! ……行かせない……!!」

 俺の意図に気が付いたのか環さんは火燐を止めに入る。

(やはり気付いたか)

 そうなのだ。

 今回の恋戦の勝利条件は俺の頬へのキス。

 ──つまり相手を倒すことは勝利条件に含まれていない。

(環さんは挑発したり制限時間を設けたりで火燐の注意を自分自身に向けていたからな。そこで火燐の体力を奪って勝つつもりだったんだろう)

 だから俺は指輪を使って、火燐の意識を環さんから俺に向けさせた。

 これで火燐は俺の元へと一直線に向かってくるだろう。

 そして環さんはそれを阻止するために全力を注ぐはず。

(さて、ここが正念場だ)

 指輪で火燐の俺への想いが増幅していれば、環さんの氷に対しても有効打になるだろう。

 それでも火燐の炎と環さんの氷。

 この両者の力は五分五分なはずだ。

 火燐が俺の元へたどり着くのが先か。

 環さんが火燐を阻止しきって凍りついた俺の元へと来るのが先か。

 後は天に祈るのみになった。

「……また凍って……!!」

 環さんが地面に両手をついて地面を凍らせていく。

「今は貴女に構ってる余裕はないのよ。ごめんなさいね」

 火燐は足に火を纏わせて地面の氷を溶かしながら進む。

 先程は凍らされていた炎だが、今度こそ火燐の炎が氷を溶かしていた。

「……ダメっ、貴女にはここで止まってもらう……!」

 地面の凍結が効かないと分かると、環さんは凍らせた地面を滑って火燐に近づく。

 そして火燐の頭上を飛び越えざまに巨大な氷塊を発生させた。

「……これで眠って……」

 氷塊が火燐に向けて落ちていく。

(これはまずいか!?)

 あの大きさを一度に溶かすことは不可能だ。

「いい愛ね。でも私の方がもっと大きな愛よ?」

 足に炎を纏わせたままその場で宙返りした火燐は、そのまま氷塊に向けて蹴りをかました。

「はぁぁぁあああ!!」

 巨大な氷塊がビキビキと音を立て始める。

「……私の愛も……負けない……!!」

 環さんはひび割れて行く氷塊を補強しながら、さらに巨大化させていく。

「あああぁぁぁ!!」

「……あああぁぁぁ!!」

 二人の声が重なる。

「はぁ!!」

 火燐がそのまま脚を振り抜き、氷塊を破壊した。

「……まだ……終わりじゃないっ……!!」

 破壊された氷塊の破片を操って火燐へと向けて発射する。

「くっ!!」

 火燐が足の炎を操って破壊したり回避するが、全て捌ききることはできなかったようだ。

「はぁ……はぁ……」

「……はっ……はっ……」

 二人が息を切らしながら氷の内側にいる俺の近くへとやってきた。

「あとはもう……早い者勝ちね……」

「……えぇ……」

 息を整えながら壁の近くに立つ両者。

「はぁぁ!!」

 先に動いたのは火燐。

 拳に炎を纏わせて氷の壁を破壊する。

「……はっ……!」

 環さんの方は氷の壁を解除するだけの分、火燐より有利だ。

「恋次っ……!!」

「……恋次さんっ……!!」

 二人が同時に俺に迫ってくる。

 そして──。

 チュッ。

 二人同時に俺の頬へとキスをした。

「やった……! これ私の勝ちよね! ねぇ、恋次!?」

「……いいえ、私の勝ち……。そうですよね、恋次さん……?」

 二人が俺の上で言い争う声を聞きながら、当の俺は二人に勢いよく追突されたことで気を失いそうになっていた。

(とりあえず……生きて明日を迎えることが出来そうでよかっ……た……)

 そのことにだけ安堵をして俺は三回目の気絶をした。












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