愛すべき幽閉④

『いらっしゃいませー!』

 とある校舎の一角に入ると、そこでは学校とは思えない程の賑わいを見せていた。

「いつ来てもすごい人だな……」

 ここは購買部。

 と言っても普通の学校にあるような購買部とは大きく異なる。

 購買部の責任者が学校と掛け合って校舎の一角を借り切っているのでとにかく広い。

 さらに品揃えも豊富らしい。飲食物はもちろんのこと、日用品に娯楽品。果ては貴金属類まで売っている。

 欲しいものが売っていなかった場合は責任者に頼めば仕入れもしてもらえる。

 そしてこの購買で一番目を引くのがここで働いている人たちだ。

 この購買で働いている人達は業者ではなく、この学校に在籍している生徒たちだ。

 さらに詳しく言えばここで働いている人たちは全員、責任者を主軸とした集まりである。

 つまりこの購買の店員は、一人の責任者とその複数人のパートナー達で成り立っている。

(自分のパートナー達と店をやっていこうなんて、物好きな人だよな)

 店内を散策しながら目当ての物を探す。

「うーん、ないなぁ……」

 探し始めたのはいいが店内が広すぎるあまり、目当ての物が中々見つからない。

「大体広すぎるんだよ……。そもそもどうやってこんな設備を作ったんだ?」

 店の広さに対してグチグチと言いながら目当ての物の捜索を続ける。

「お客様いらっしゃいませ〜。何かお探しですか?」

 店内をしばらくウロウロしていると店員さんが話しかけてきた。

「あぁ、すみません。ちょっと探し物が……げっ」

 一人では埒が明かないので店員に手伝ってもらおうと振り向いた所で、思わぬ声が出てしまった。

「げっ、とはずいぶんな挨拶だな? あぁん?」

 先程までのお淑やかな声から急変してドスの効いた声になった店員。

「お前がそんな猫なで声で話しかけてくるからだよ──エレナ!」

 振り向いた視線の先には俺より身長が高く切れ長の目をした女性が立っていた。

「あ? こんな絶世の美女に話しかけられたんだ。泣いて喜べよ」

 とんでもなく傲慢なことを言いながら睨みつけてくる。

 この女子生徒は三越エレナ《みつこし えれな》。

 昨年知り合いになってから何かと話す仲になった

 同級生だ。

「えーんえーん。うれしいよー。はい、これでいいかな?」

 棒読みで泣いて喜ぶ。

「チッ、ふざけやがって。……あぁ、そうか、そうだったな」

 舌打ちをして悪態を吐いたかと思うと、突然何かに納得し始めた。

「なんだよ……」

 不敵な笑みを浮かべるエレナにビビりながら尋ねる。

「いやー、悪かった悪かった。お前もついにパートナーができたんだもんな。そりゃ自分のパートナーが一番だって思うよな」

 うんうんと頷きながらエレナは一人で納得する。

「いや……うん、まぁ確かにそれもあるかな……」

 若干照れて反応に困りながらも返答する。

「んで。その熱愛真っ最中の赤井恋次くんがどうして一人でウチのショップに来てるんだ?」

 不思議そうな顔でこちらを見てくる。

「それはその……。色々あってな……」

 エレナにここまで来た経緯を軽く説明した。

「ふーん、贈り物ねぇ……」

 経緯を聞いたエレナは何か思案していた。

「……よっし! それじゃあアタシがその贈り物探すの手伝ってやるよ!」

 自分の胸を拳で叩き、自分に任せろと言った感じでエレナが胸を張った。

「本当か! それは助かる」

 正直な所、広い上に品数が多いので困っていた所だった。

 ショップで働くエレナが手伝ってくれるなら何かいい物が見つかるかもしれない。

「でもいいのか? 店の制服を着てないみたいだけど、今は仕事中じゃないのか? 俺の事にばかり付き合わせるのは悪い気が……」

 ここまで繁盛している購買部だ。

 人手はどれだけあっても足りないぐらいだろう。

「あー……その……。い、今はいいんだよ! それに……制服は……な、失くしたんだ!」

 急にオドオドした反応を見せるエレナ。

(一体どうしたんだ……?)

 その答えはすぐに分かった。

「ほう……。ではこのロッカー室にあった制服は貴女の物ではない、ということですね?」

 エレナの奥の方から女性の声が聞こえてきた。

「ッ!?」

 その声が聞こえた瞬間エレナは冷や汗をダラダラと流しながら固まった。
















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