告白狂想曲①

 小金井との恋戦が終わり、火燐が俺のクラスにやってきてからしばらく経った。

(火燐が来てから休まる時がない……)

 俺のクラスに来たのはいいが、火燐が座る席はもちろん小金井のパートナーが座っていた席だ。

 そして、その席は俺の席からは離れた位置にあった。

 それを知った火燐は大騒ぎ。

 挙句の果てには……。

「恋次の隣の席を賭けて恋戦よ!」

 なんて言い出す始末だ。

 隣の席の人間は、恋戦を受けるメリットなどもちろんない。

 それでも、有無を言わさない火燐の迫力によって受けざるを得なかった。

 え、俺?

 俺も当然のごとく火燐のパートナーとして参加させられましたが?

 その時の申し訳なさと言ったら……。

 あの人たちは何も悪いことしてないのに……。

「やぁ、恋次。お疲れのようだね」

 机に突っ伏していると上から爽やかな声が聞こえてきた。

「おう、聡。いや、なに見ての通りよ」

 同じクラスにいる聡は、俺がどんな目に遭ったのか知っているので割と親身になってくれる。

「でも、そこまで愛情を向けてくれる人がいるのも悪くはないでしょ?」

 ケラケラと笑いながら問いかけてくる。

「いや、まぁ……。それもそうだが……」

 段々と声が小さくなっていってしまう。

「全く恋次は素直じゃないなぁ。そんなんじゃ、いつか愛想つかされちゃうよ?」

 聡が呆れ顔でヤレヤレと首を振ってくる。

「うっ、ぜ、善処する……」

 言葉に詰まりながらも、前向きな気持ちだけは見せておく。

「でもこれで恋次にパートナーができたわけだし、これにはもう参加しなくて済むわけじゃん」

 そう言って差し出されたプリントを見て、苦い顔をする。

「あぁ……、これか。確かに、これに参加しなくても済むのは気が楽でいいな」

 そのプリントに書かれていたのはーー。

『ドキッ!? 恋だらけの告白大会! 〜略奪愛もあるよ〜』

 意味不明である。

「パートナーがいない人はこれに参加しないと先生に睨まれるからね」

 そうなのだ。

 学校側が恋愛を推奨している以上、パートナーがいない人はテストの赤点と同様の扱いを受ける。

「今年は俺は参加しなくて済むから楽だぜ。お前らも今年は何か違う作戦を考えておけよ」

 ちなみに、昨年どのように乗り切ったかと言うとーー。

『おぉ、聡! 今日は月が綺麗で少し肌寒いからこれから俺に毎日味噌汁を作ってくれ!』

『恋次……!! 私……ううん、アタイ嬉しい!』

 と言ったように謎のテンションでじゃれあっていたり、郷に至ってはーー。

『えー、権現先生。私は貴方を初めて見た時から前世の宿命を感じていました。この哀れな私をお救いください』

 と言うように何故か先生に告白をしたりと散々なことをしていた。

 いやー、あの時はビビったね。

 菩薩の生まれ変わりとまで言われるほど優しい権現先生が、鬼のような顔してたからね。

「ハハハッ、確かに昨年は無茶しすぎたね。今年は少し抑え目にいこうかな?」

 聡も昨年のことを思い出したのか、笑いながら今年の作戦を考えている。

 この学校では恋愛を推奨しているぐらいなので、同性恋愛であってもなんら不自然なく受け入れられている。

(ただまぁ、俺たちの場合は真剣じゃないって分かるぐらいふざけてたからな)

 さすがにあの後、真剣に同性と付き合っている人もいるって怒られて反省したけどな。

「でも恋次は参加しなくても、別の問題に巻き込まれるかもね」

 脳内で昨年のことを色々と思い出していると、聡が不穏なことを言ってくる。

「どうしてだよ?」

 聡が急に怖いこと言い出すので、不安になって聞き返してしまう。

「だってこれ、パートナーがいる人にも告白するのはOKでしょ? それで告白が受け入れられればいいけど、もし既存のパートナーと奪い合い……なんてことになったら恋戦になる可能性もあるからね」

 それを聞いた俺は頭を抱えた。

「そうだった……! すっかり忘れていた……」

 昨年パートナーがいなかったので、このルールのことをすっかり忘れていた。

 この告白大会は、パートナーがいる相手にも告白自体は可能であり、その告白を受けた相手がOKをしてもパートナーが気に入らなければ恋戦をしてもいいことになっている。

「あの嫉妬深い小野さんのことだ。もし君が誰かから告白を受けた、なんてことを聞けばどうなるかは火を見るより明らかだよ」

 少なくとも俺に告白をした相手は数ヶ月は学校に来れなくなるかもな。

「そんな……。さ、聡!? 俺どうすればいいかな!?」

 成績優秀な聡ならいい案を出してくれるはずだ!

「うーん、まっ、告白されないように逃げてればいいんじゃないかな?」

 頼みの綱である聡に軽くあしらわれてしまう。

「そんな殺生な!」

 聡にしがみついて助けを乞う。

「恋次! なに黄井君に迷惑かけてるの!」

 しかし、火燐が戻ってきて聡に伸ばした手を弾かれてしまう。

「ごめんね、黄井君。うちの恋次が迷惑をかけて……」

 誰がうちの恋次だ。

「大丈夫だよ、小野さん。でも僕以外の人に迷惑かけたらダメだからしっかり手綱を握っておいてあげてね」

 おい、お前もか。

 それだけ言うと聡は自分の席へと戻っていった。











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