荒れ狂う嫉妬の炎⑤

「はぁ……、いつまでも同じことの繰り返しね。いい加減飽きてきたし早く終わらせましょ」

 水飛沫が収まって火燐の元へ駆け寄った俺が見たのは、退屈そうにため息をついている姿だった。

「か、火燐……。お前大丈夫なのか?」

 あまりにも平然としている姿に面食らってしまった。

「あっ、恋次。もう少しで終わらせるから待っててね」

 俺に気が付くと花のような笑顔で語りかけてきた。

 かなり空気になってるが今手出しするのは得策ではないので、大人しくしておこう。

 俺が頷くと火燐はまた高速で水子の元へと近づいた。

「貴方たちと遊ぶのもいいけど、私にはなによりも大切な恋次との時間が待ってるの。悪いけど、ここで退場してもらえるかしら?」

 水子は近づいてきた火燐に対して水弾を飛ばす。

 しかし、飛ばそうとした腕を払われ水弾はあさっての方向へと飛んでいく。

「くっ……、途中で乱入してきて随分コケにしてくれるじゃない!」

 水子が火燐に対して文句を言う。

「あら? 貴女たちのことはちゃんと認めてるわよ。しっかりと彼のことを愛しているのね。ただーー」

 水子が形成した水の剣を手と足を使い、刃の部分に当たらないように捌いている。

「私の恋次に対する愛の方が強かった。それだけよ」

 火燐はそう告げると、水子の剣を握っている手を蹴りあげ武器を無効化した。

 そしてガラ空きとなった胴体に掌底を放ち、水子を場外へとはじき飛ばした。

「ーーふぅ。これでまずは一人目ね」

 火燐が一息つくと、会場から大きな歓声が聞こえてきた。

「くっ……、僕の守備はもういい! 三人でアイツを倒すんだ!」

 小金井の呼び掛けに、岩の能力を持つ女子生徒(仮称:岩子)と火の能力を持つ女子生徒(仮称:火子)が反応する。

 二人は風子と合流して火燐と対峙する。

(よし、そっちがそう来るなら……)

「火燐! そっちの三人はお前に任せていいか! 俺は小金井を抑える!」

 敵の大将がガラ空きなら今が攻め時だ。

 火燐に三人の相手を頼むのは心苦しいが先程の無双具合を見るに善戦はしてくれるだろう。

「恋次が私を頼ってくれてる……!! えぇ、えぇ! 二人の愛の共同作業ね!」

 いや、違うけどね?

 否定すると恐ろしいことになりそうなので無反応で小金井の所へ向かう。

「よぉ、小金井。火燐一人に随分と手こずってるようだな。降参するなら今のうちだぞ」

 散々苦渋を飲まされた腹いせに煽り気味に話しかける。

(まぁ俺がなにかした訳ではないんだがな)

「くそ……、いい気になるなよ。あっちには三人がかり、そして俺はーー」

 話ながら小金井は手を前に出す。

 嫌な予感が……。

「彼女たちの能力を全て使うことが出来るんだ!」

 言い終わると同時に火球が目の前に飛んでくる。

「!? ぐぁっ……!!」

 至近距離で不意打ちに近い形で放たれた火球は避ける暇もなく直撃する。

 普通に喰らえば即この世からおさらばする攻撃だが、先ほど先生が言った通り見た目は派手だがダメージは比較的少なかった。

(ダメージが少ないとは言ってたが、全く無いわけではないな……)

 少しふらつきながらも立ち上がり小金井を見据える。

「ははっ! どうだ、僕の攻撃は! 降参するなら今のうちだぞ?」

 俺の言葉をそっくりそのまま返してくる小金井。

「ハッ! 冗談、ここまで来て逃げられるかってんだ!」

 始めは帰りたくて仕様がなかったが、火燐が来てくれて俺のために戦ってくれてるんだ。

 俺も男を魅せないとな。

「よし! よく言ったな。そんな君を僕のライバルと認めようじゃないか」

 何故か突然ライバル認定されてしまった。

 ライバル認定の判断が浅すぎる。

 アゾフ海並の浅さだよ。

「そしてライバルには本気を出さねば無礼というものだ!」

 高いテンションで話す小金井が両手に力を溜めると、右手は黄色に左手は緑色に光始めた。

(ーー来るっ!)

 次の瞬間、野球ボールぐらいの岩の塊が数十個飛んできた。

「うぉぉぉおおお!?!」

 間一髪で避ける。

「いい反応だ。……だが、これは避けられるかな?」

 なにか来るーーと身構えた時にはもう遅かった。

「がはっ……。い、一体、な……なにが……?」

 腹部に強烈な衝撃が走り、思わずうずくまってしまう。

 衝撃が走った場所を見てみると、先ほどと同じく岩の塊が落ちていた。

(ま、まさか風の力を使って岩の塊を加速させたのか……?)

 仕組みが分かったところで、この速さは避けられる気がしないぞ。

「ほう? その顔は今の攻撃を見抜いたようだね。だが、君にこれを避ける術はない。……どうだい? 今度こそ降参するかい?」

 もう一度降参の意思を問われる。

「降参は……ハァハァ……しねぇ!! 俺のために頑張ってくれてる女がいるんだ。それに応えないでなにが男だ!」

 立ち上がりながら息を整える。

「……そうか。それじゃあ勝負を続けよう」

 先ほどと同じように黄色と緑色の光を溜めて攻撃準備に移る小金井。

(集中しろ……、相手の一挙一動に気を配るんだ)

 無言で睨み合う。

 小金井の指がピクリと動いた瞬間、その場から勢いよく右に跳ぶ。

 次の瞬間、俺のいた場所に岩の塊が現れた。

(よし、なんとか避けられーー)

「ぐぁっ!?」

 一度避けられたことで気が緩んだ瞬間、腹部に衝撃が走り、そのまま後ろに吹き飛ばされる。

(バ、バカか俺は……。発射される塊が一発なわけないだろ……)

 自分の考えの甘さがこの被弾を許してしまった。

 吹き飛ばされた目線の先では、火燐が三対一でありながらも善戦して戦っていた。

 しかし、先ほどの水子の時とは違い三人が全員能力をフルに使い攻めてきているのでさすがの火燐でも苦戦を強いられているようだ。

(ーーん? なんだこの違和感)

 火燐の戦いを見て微かな違和感を覚える。






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