荒れ狂う嫉妬の炎③

 恋戦の開始宣言がされ、リングの周りを取り囲むかのように薄い透明な膜が張り巡る。

 勝負が始まった、がいきなり考えもなしに飛び込む程愚かではない。

 とりあえずは相手の戦力の把握から始めよう。

 相手の人数は小金井を含め五人。

 ……うん、絶望的だ。

 人数差に加え相手の能力も分かっていない。

 正直いってかなり不利な状況だ。

 「どうした? 来ないならこちらからいくぞ!」

 俺が来ないことに痺れを切らした小金井が突っ込んできた。

 小金井が動き出したと同時に、取り巻きの女子四人も動き出し俺の周りを取り囲むような位置に立った。

 そして小金井が正面から突っ込んでくる。

 「喰らえ!」

 手を前に出したかと思うと、一人の女子と共鳴するかのように手に赤い光が灯る。

 そして、手から炎の球が打ち出された。

 「うぉぉぉ!? あっぶねぇ!?」

 なにかしら来ることは予想できていたので紙一重で避ける。

 「チィッ、避けたか! 運の良い奴め」

 舌打ちして次の攻撃の準備をしている。

 「ちょっ、タイム! 無理だって! 先生アレ当たったら俺死にません!?」

 膜の外にいる先生に話しかける。

 『大丈夫ですよ、赤井君。見掛け上派手に見えているだけで実際はそう大した怪我はしません。……少し痛みがあるかもしれませんが』

 最後の方は目を逸らしつつ小声で言ってくる。

 「ちょっと先生!? そんな不穏なこと言わないで!?」

 そんなことを言われて、はいそうですかと攻撃に突っ込める程無謀な勇気は持ち合わせていないんだ。

 「勝負の最中によそ見とは余裕だな! ほら、もう一発いくぞ!」

 息付く間もなく二発目の火球を放ってくる小金井。

 しかし、その火球はあさっての方向へと飛んでいく。

 「くっ、もう一発!」

 諦めずにもう一度放ってくるが、その火球もあさっての方向へと飛んでいった。

 ……もしかしてこいつノーコンか?

 (それならば今がチャンスだ!)

 コントロールが定まらず四苦八苦しているのをいいことに、武器を握りしめて小金井の元へと走り込む。

 「そうは……」

 「させませんっ!」

 「ふげっ!?」

 左右から拳が突き出され、一つはなんとか回避できたもののもう一方から迫る拳は避けきれずに直撃して弾き飛ばされてしまう。

 勝負を急ぎすぎたか……。

 (それにしても女子にしてはかなりいいパンチをもらったな。武道の経験者か?)

先程拳を当ててきた女子生徒を見るが、構えからしてなにかしらの武術経験があるようには見えなかった。

 『そうそう、言い忘れてました。そこでは身体能力に差が出ないように力が強くなったりします。なので、女子生徒だからと甘く見てたら痛い目に遭いますよ』

 先生がまたしても遅すぎる忠告をしてくる。

 痛い目なら現在進行形で遭いましたよ……。

 弾き飛ばされた俺に対して、先程攻撃してきた二人が向かってくる。

 その後ろでは、小金井と炎の能力を持つ女子生徒が懲りずに火球を飛ばしており、さらにその二人を守るような立ち位置に女子生徒が立っている。

 (とりあえず今向かってきている二人をどうにかしないと小金井には近づけそうにないな)

 地面から起き上がり、向かってきた女子生徒二人を迎え撃つ。

 「はぁっ!」

 「やぁっ!」

 二人からまたしても勢いのあるパンチが繰り出される。

 ふん、甘いわぁ!!

 「きゃあああぁぁぁ!?」

 「きゃっ!」

 先に接近してきた拳を掴み、相手の勢いを利用してそのまま投げ飛ばす。

 次に近づいてきた拳を、手に持っていた武器で弾いた後相手のバランスが崩れた時に足払いをして転ばせる。

 さっきは不意をつかれたが、真正面から向かってきたら対処の仕様ぐらいあるんだぜ。

 「さて、『ボカァン』降参するならいまの『ドォン』うちだ『ゴォォ』うるせぇぇぇぇええええ!!」

 遊撃してくる女子生徒二人に対して降参の意志を芽生えさせようとしている最中にも、小金井が後ろで火球をあさっての方向へ飛ばしまくる音が聞こえてくる。

 「そんなに遊んでほしければ遊んでやるよ。オラァッ!!」

 自ら小金井の火球へと突っ込み、その火球を手に持っていた武器で野球のバッターのように小金井に打ち返す。

 いい当たりをした火球は小金井たちの元へと向かっていく。

 「甘いですっ!」

 しかし、その火球は小金井たちへ当たることはなく小金井を守る位置に立っていた女子生徒が作り出した岩の壁に阻まれてしまった。

 「くそったれぇ!」

 あまりの能力格差に膝をつき、地面をダンダンと打ちつける。

 とりあえず小金井たち三人は一旦放っておいて、遊撃女子生徒二人をどうにかしてから考えよう。

 ちょうど女子生徒二人がさっきの攻撃から復帰していた。

 まだ体制が万全でない今がチャンス!

 すぐさま武器を握りしめ、先程投げ飛ばして円外の近くにいる女子生徒を狙いを定める。

 狙うは場外、起き上がったタイミングに武器で突いて押し出す。

 「きゃっ!?」

 いきなり攻撃を喰らった女子生徒は為す術もなく場外へーー。

 ヒュウウウゥゥゥ、とどこからともなく風が吹いてきた。

 その風は飛ばされた女子生徒を包むと、俺の突きによる勢いを完全に殺して女子生徒が場外へ出ることを防いでいた。

 「そんなの卑怯じゃん……」

 確かに能力はまだ見てないなーなんて思ってたけど、渾身の一撃をいとも簡単に防がれるのは心にくる。

 「隙あり!」

 落ち込んでいる暇などなく、体勢を立て直したもう一人の女子生徒が攻撃を仕掛けてきた。

 「くっ……」

 咄嗟のことだったので、武器で相手の攻撃を防御する。

 ポトン。

 防御に成功したと思った矢先、俺の傍になにかの残骸が落ちた。

 「……ゑ?」

 よく見てみると俺の武器が切断されたものだった。

 「ええええぇぇぇぇ!?!?」

 今までの攻撃からして武器が切断されるような攻撃はなかったはず……。

 嫌な予感がして、おそるおそる相手の方を見てみる。

 今攻撃をしてきた女子生徒の手には、水でできた剣のようなものが握られていた。

 (なるほど……、アレで俺の武器を破壊したということか)

 もう今更どんな能力が出てきたところで驚きはしまい。

 (……ん?)

 「な、なぁ。今その剣を随分と勢いよく振り下ろしていたが俺が武器で受け止めることを想定してたんだよな? 武器がなくなった今その剣で攻撃してこないよな……?」

 今までとは威力が段違いの攻撃にビビりながら問いかけてみる。

 「…………。お覚悟を! やぁー!」

 少し考える素振りを見せた後、急な騎士道精神を見せつけてきて容赦なく剣を振りかぶってくる。

 容赦ないね、君。

 あまりにも惚れ惚れするような容赦の無さに感嘆してしまう。

 「こんな所で人生を終了してたまるか! 喰らえ!」

 あんな攻撃を生身で喰らえば残りの高校生活は病院でのベッド生活を余儀なくされる。

 そんなことは勘弁願いたいので、先程破壊された武器の残骸を拾い相手の目の前に放り投げる。

 突然目の前に投擲物が飛来した女子生徒は咄嗟に目をつぶって怯む。

 (今がチャンスだ!)

 怯んでいる女子生徒に近づき、水の剣を握っている手を折れた武器で攻撃する。

 思惑通り、女子生徒の手から水の剣が離れ地面にバシャッと音を立てて落ちて剣の形が崩れ、ただの水に戻る。

 丸腰になった女子生徒を場外へと押し出そうとした時、強い風が身体に当たる。

 (しまった……、もう一人の方も体勢を立て直したか)

 一人の相手をするのに熱中しすぎたせいで、もう一人の存在を忘れていた。

 ちなみに小金井はさっきからずっと火球を打っている。

 女子生徒二人は談笑している。

 おい、緊張感がないぞ。

 身体に当たる風が徐々に強くなってきた。

 「吹き飛べー!」

 声とともに耐えられないほどの強風が吹き荒れ、後ろに吹き飛ばされてしまう。

 (ヤバい……! このままでは逆に俺が場外へ出されてしまう)

 踏ん張るだけでは耐えきれないので、折れた武器を地面に突き刺し吹き飛ばされないように耐える。

 しばらくしてから風がやんだ。

 (な、なんとか耐えられたか……)

 最初に武器を突き刺した位置から後退していたが、なんとか場外へ出ることは防げた。

 (さて、ここからどうしようか……)

 相手が能力をフルに扱い始めたので、さらなる苦戦を強いられるだろう。

 などと色々と考えていると後ろ……もっというとフィールドの外が騒がしくなっていることに気付く。

 『ダメですよ、ーーさん! 恋戦中の乱入は危険です!』

 『大丈夫ですよ、先生。それに知らないんですか? ……恋は障害があった方が燃えやすいんですよ?』

 膜に誰かが手をかけてこじ開けようとしているらしい。

 バチバチっと音を立てて侵入者を拒絶していたが、膜に亀裂が走り指がフィールド内に入り込んできた。

 ……え、こわっ。

 ホラー映画じゃん。


















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