第14話

 俺たちは今日、大人の階段を上がる。


 ほんとはダンジョンの階段を下るんだけどね!!


「宝箱出るといいよな!!伝説の剣とかさ」


「ライエル、お前なあ。珍しく気が合うな!宝箱は男のロマンだもんな!」


「はあ、なにが男のロマンよ。ライエルはともかくカイまで、低級のダンジョンにはそこまでクラスの高いものはでないし、宝箱だって1つのダンジョンにつき1年に数回なのよ?まともなのはゴードンだけ…ちょっとアンタまで何でそんな目を輝かせてるのよ!」


「でも、それは出るかもしれないってことだから。ね?」


「ライエルもゴードンも分かり手だな!」


「当たり前だ!」 「僕だって男だからね!」


「はあ…」


「それはそうと、この辺冒険者の数が増えてきたな」


「この時間から活動する冒険者がほとんどだからな。みんなダンジョンに行くんだろう」


 現在は朝の10時ごろ。ダンジョンの前には作戦を練ったり武器を研いだりしている冒険者が見える。


「カイ、私たちも作戦みたいなの練っておいた方がいいんじゃない?」


「そうだな。つっても今日は様子見程度の予定だから上層から出るつもりもないけどな」


「並びはどうするの?」


「それならもう決めてあるぞ。前から俺、ライエル、レナ、ゴードンだ。」


「まあ、そうなるよな!」


 現状これがベストだろう。俺とライエルは入れ替わってもいいけど、ライエルが先頭だと無駄に罠とか引っかかりそうだし、マップも俺のプレートにダウンロードしちゃったからね。


「よし、みんな準備はいいか?」


「おう!当たり前だ!!」


「いつでも準備OKよ!」


「うん!冒険譚第3章”ダンジョン探索”開幕だね」


 おーーっと?ゴードンちゃん???

 こいつら、いつまで人の黒歴史を蒸し返してくるんだ…


 ゴードンは照れくさそうに笑いながら言っていた。

 きっと、言ってみたかったんだろうなあ。

 今回だけは許そう。その笑顔に免じて!


 俺はゴードンの大きな過ちを寛大な心で受け入れることにした。


「気合十分ってことは分かったよ。じゃあいくぞ!」


 ダンジョンの入り口は小さな門になっていてその両脇に門兵が立っている。

 この門はダンジョンに元々あったものではなく、人の出入りを制限するために後から人間が作ったものだ。


 門兵にギルドカードを見せると、門を開けてくれた。


 中は定期的にある光源のお陰で、地下ではあるが真っ暗ということはない。

 これはダンジョンに元々あるもので、壁に埋め込まれている。

 ダンジョンの壁はどんな怪力でも傷一つつけることができず、インクなども完璧にはじく。

 もしも、この光源を持ち帰ることが出来たらノーベル賞ものだろう。


 ノーベルさんはこの世界には存在しないけど。


「これが、ダンジョンか。案外普通だな」


「そうね、ただの明るい洞窟って感じ」


「とりあえず、この階層で魔物を探してみよう」


「うん、そうだね。何かあってもすぐ戻れそうだし」


 1階層を回ってみたが、魔物と遭遇することはなかった。


「これは、あれだな。一階層はもうすでに倒され尽くしてるな。」


 ダンジョンの魔物はいくらでも沸いてくる。

 通常24時間だと言われていて、ボス部屋のボスも例外ではない。


「カイ、さすがに下に降りた方がいいだろこれは」


「そうだな、魔物と遭遇するまで降りてみるか」


「10回層を越さなければ大丈夫じゃないかな?」


「よし、決まりね。行ってみましょ!」


 2階層、3回層と魔物は1度もみることはなかった。


「4階層か、そろそろ出てきてくれよ。」


 3回層から4階層へと階段を下っている。

 マップで現在位置を確認しながら、魔物を警戒するのは思ったより神経を使う。

 それが、1度も魔物が出て来ないんだから尚更だ。

 だからだろう。完全に油断していた。


「グルル」


 灰色の毛皮を纏った3匹のグレーウルフが階段を駆け上がってくるのを認識した時にはもう遅かった。

 1匹は俺を目掛けて噛み付いてきた。


「シャドウステップ!」


 とっさにスキルを使って攻撃を右手の黒い短剣で受け止める。

 同時に、左手で白い短剣を素早く抜き、グレーウルフの首元に突き刺す。

 シャドウステップで素早さを上げてなかったら完全にやられていただろう。


 グレーウルフは、魔石だけを残し、黒紫色の煙となって霧散した。


 これが外の魔物とダンジョンの魔物の1番の違いだ。

 不思議なことにダンジョンの外に出た途端に、外の魔物と同じように死体を残すようになるのだ。


 俺は指示を出そうと前方を確認する。

 しかし、視界に入ったグレーウルフは1匹。


 もう1匹は…


「ゴーードン!!」


 レナを押し除ける形でゴードンがグレーウルフを盾で受け止めた。


「ごめん、レナちゃん。」


「ううん、ありがとうゴードン」


「いや、すまねえ!!今のは完全に俺たちのせいだ」


「そういうのは戦闘後にしてちょうだい!”ファイヤ”」


 立ち上がったレナがゴードンと対峙しているグレーウルフに魔法を放つ。

 熱くてたまらないのか、のたうち回るグレーウルフにゴードンが止めを刺す。


「そうだな、すまねえ!!こいつは俺に任せてくれ!!」


 ライエルは剣を構える。


 グレーウルフの素早い動きに苦戦はしたが、ゴブリンほどしぶとくは無いので、徐々にダメージを与えて、最後は頭を切り裂くようにしてなんとか倒した。


「ふう、余裕だったぜ。」


「どこがよ、ギリギリだったじゃない」


「うるせえな、ここが階段じゃなくて平地だったら本当に余裕だったんだよ!階層移動中にダンジョン初戦闘だとは思わねえだろ?」


「それについては俺が悪い。階段だからって完全に油断してた。」


「そのことなんだけど、1人でマップ見て索敵って無理ないかな?ライエルくんかレナちゃんにマップ見るのは任せたらどうかな?後ろは僕が警戒してるし!」


「言われてみればそうね。ごめんねカイ任せきりにして。マップは私が見ることにするわね。プレート貸してもらえばいいんだし。」


「じゃあ、俺は方向音痴だからマップは無理だけど、分かれ道とかあったら左右警戒するな」


「お前ら…」


 どうやら調子に乗って1人でやろうとしすぎてたみたいだ。

 もっと周りを頼ってかないとな。俺1人でやれることなんてたかが知れてる。

 こいつらと一緒だからなんとかなってきたんだ。


「ありがとな」


「んじゃ、改めて役割も決まったことだし、次の階層行こうぜ!」


「その前に魔石を拾わないとね」


「あー、カイはマップ見なくて良くなったから魔石拾う係な!」


 こいつには感謝は必要なかったみたいだな。





 この後4階層をしばらく徘徊して、8匹のグレーウルフを倒して、外に出た。

 俺たちの初ダンジョンの成果は、最初に倒した分も合わせて魔石が11個だ。


 素材が手に入らないとはいえ思ったよりも稼げそうなのでこれからはダンジョンをメインにすることに決まった。


 ちなみに魔石はみんなで手分けして拾いました。

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