命運巡りて巫女と逢う 〜不運な教師と神の名代〜

まじりモコ

プロローグ ある男の呟き


 神なんてものがまともに機能してんなら、俺みたいな奴は生まれやしなかったろうさ。


 少なくとも、俺は神様なんて信じていない。

 神様ってのは人に幸せをもたらす存在なんだろう?

 じゃあ、不幸を地で行く俺にはそんなもん、信じてやる筋合いも義理もないってことだ。


 人はなぜ神に祈るのか。それは願いを叶えるためだ。神に助力を願うからだ。

 自分の実力が足りない時、どうしても不安がぬぐえない時、偶然や奇跡を欲する時、そんな時に、人は神に祈る。


 まさしく神頼みってやつだ。


 しかし『頼』って字には、“頼る”や“願う”って意味の他に、実は“怠ける”っていう意味がある。

 神に頼って、もう安心だと努力を放棄して怠ける人間の多いこと。そんな責任の大半を押し付けられては神様だって迷惑だろう。いい加減にしろお前らと、怒鳴りたいくらいかもしれない。


 かくいう俺は、神頼みなど幼い頃の一、二度しかしたことはない。自分に足りないものは自分の力で補ってきた。不運な分、マイナス補正をプラスに引き上げるために必死に努力してきたんだ。


 ――――なのに、だ。


 どうして世の中ってのは、他人任せのいい加減な奴らばかり救われて、俺ばかりこうも悲惨な目に遭うのか。


 納得がいかない。そんな風に終始いきどおっていた時代が俺にもあった。


 不運には慣れなくても、慣れたふりと多少の心構えでどうにかこうにか自分の体質と折り合いをつけられるって、それに気がついたのは、ちょうど反抗期が終わった頃だったろうか。自販機で炭酸飲料を買うのを諦めた頃だったから、それは十七歳の時。もうあれから十三年が経つ。


 この十三年の諦めキャリアは、半年かけて取得した運転免許より役に立つ。

 数年前、半年務めた会社をリストラされた時も役に立った。


 たいしたミスもなく、むしろ営業成績は良い方だった俺がなぜ解雇され、万年成績最下位の中年オヤジが残ったのか。その理由も不運の一言で尽きてしまうことにも、俺は怒りという無駄なエネルギーを向けずに済んだ。


 もう慣れたから、諦めはついているから。何も考えずに結果を受け入れる。済んだことは決して変えられないのだから。


 そして大学で取っといた教員免許をあてにして就職した男子校がつい先日、突然廃校になってしまったことも。


 もう終わったことなのだ。


 俺にしては珍しく次の就職先はすぐに見つかった。大学時代の友人が口を聞いてくれたのだ。そう、幸いだったはずなのだ。その就職先が女子高なんぞでなければ……。


 そうして人生何度目かの絶望にゆるゆる浸っていた、熱風吹きすさぶとある放課後。


「人を人たらしめるのは『知識』。しかし過ぎた知識はその身を破壊せしめるもの」


 前日に発揮してしまった、らしくもない遊び心を悔やみながら、


「けれど、それを分かっていても人間は、知りたいという欲求を抑えることなどできない」


 校内で唯一の喫煙者となった俺が屋上でタバコを吸っていた時のこと。


「さあ」


 その少女は、いたずらっぽい笑みを浮かべながら、俺に訊いた。


貴君きくんは、どんな禁断の知識を望むのかな?」


 こうして、神様なんて信じない俺と、神様に愛された彼女は出逢ってしまった。


 ――――後に思い出すだけで後悔することとなるあの二週間は、ここから始まったのだ。



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