第三十四幕 熱の冷めた後

ザラが演奏を終えると彼女の周りにいた数人の人間の小さな拍手が包み込んだ。

演奏が始まる前いた人間から驚くほど人の数が減ってしまったが和やかにザラの演奏会は幕を閉じた。


彼女の演奏を聞いた人間はギターの入れ物にお金を入れていく。


「みんな聞いてくれてありがと~。」

最初はべそを掻きながら演奏していたザラも最後は概ね満足そうに演奏を聴いてくれた人間に手を振っていた。


「今日もそんなに集まらなかったわね。」

彼女はギターの入れ物に入った僅かなお金を袋に入れて鞄にしまった。


「いい演奏でしたよザラ。」

アニマは彼女の演奏を気に入っているらしく小さく手を叩いていた。


「ええ、ありがとう。」

アニマの言葉にザラは嬉しそうな反応を示した。


「あんたはどうなのよ?」

「俺か?良いと思うぜ。」

「なんか投げやりな言い方ね。年下に負けたことまた根に持ってんの?」

「別にそんなわけねぇよ。」

手放しに誉めるつもりではないが事実彼女の演奏を自分は好感を持っていた。

繰り返し聞きたいわけじゃないが演奏しているなら聞いて良かったと思えるくらいには。


「ただ・・・。」

「ただ?」

「あり・・・が・・とう。」

彼女に顔を背けながら答えた。


「ええ。どういたしまして。」

ザラは微笑んだ。


「あんたに教えたのは戦い方よ。あんたが殺したくないなら強くなって殺さなくて済む方法を自分で考えなさいよ。」

彼女が自分を真っすぐ見て答えた。

透き通るような青い彼女の目が自分を覗き込んでいた。


「・・・分かったよ。」

自分は目を逸らしたまま答えた。


まだ雨が続く中、自分たちはのんびりしていた。

さっきまでの出来事が過ぎ去ってこの場所は元の静けさを取り戻した。

町人も仕事に戻ったため一気にこの場所は閑散としているような気がした。


「ねぇ、全身が義体ならあんた生まれた頃からその姿なの?」

彼女が銃をいじりながら答えた。


「いや、ある程度年が来たら身体を換えてもらってたんだよ。」

「そうなのね。でもなんで今の背丈で止まっているのよ?」

「それは自分の義体を換えていた先生が月都から離れたからだよ。」

「月都から?」

「ああ、自分の身体を換えるために必要な設備が使えなくなったかららしいんだよ。」

「へぇ、身体を換えるってどんな感じなの?」

「さぁ。」

「さぁってあんた今まで身体を換えてきたんでしょ?」

不思議そうに自分を見つめていた。


「らしいけど記憶がないんだよな。」

「あら、そうなのね。」

彼女は自分に興味を失くすとまた銃いじりに戻った。


「それにしても・・・。」

彼女の銃を見た。


彼女の銃と精霊銃は両方とも拳銃だった。

アニマが使っている夜梟とも他の渡り狼たちが使っている拳銃とも形が違った。

特徴的なのは弾を込める場所だ。

弾を込める部分は円柱のような形をしており、そこに弾を込める穴があった。

引き金を引くと、それが回るようになっていた。

見たことのない銃だった。


「なぁ。」

「何?」

「お前の銃ってさどこで手に入れたんだ?」

「聞きたい?」

「ああ。」

「どうしようかな~。」

彼女がもったいぶるように銃を隠した。


「別に言いたくないなららいいよ。」

「ちょっと興味あるようにしなさいよ。」

彼女は興味をもって欲しかったらしくって自分に銃を見せびらかした。


「これは私の家で作った銃なのよ。」

「お前の家ってことは職人ってこと?」

「ええ、そうよ。精霊銃は”ブリッツ”でもう一つの銃は”マンデン”って言うの。」

彼女は得意気に両方の銃を引き金の部分を起点にくるくると回し始めた。

回したり、投げてつかんだりと何かの芸のように銃を巧みに扱っていた。

そして銃を腰のホルスターに戻した。


「珍しい形の銃だな。」

「ええ、だってこの銃私の家しか作ってないもの。私のおじいちゃんが作ったのよ。」

「おじいちゃん?」

「ええ、うちのおじいちゃんはね。すごいわよ。」

「すごいって何がすごいんだよ。」

「それはねドゥンケルナハトの外から来たのよ。」

「は?何言ってんだよ。」

彼女の言葉に首を傾げた。

ドゥンケルナハトの外という意味が分からなかった。


「ドゥンケルナハトの外ってどういうことだよ?」

「言葉通りの意味よ。」

「そんなの嘘だろ。」

「嘘なんかじゃないわ。なんでおじいちゃんが孫に嘘つく必要なんてあるのよ。」

「見栄でも張りたかったんじゃないのか?」

「そんなわけないじゃない!」

腕をぶんぶん振って怒っている。


「全然信じてないみたいね。」

「当たり前だろ。」

自分は彼女の言葉に半ば呆れていた。


「それに私のこのギターを作ってくれたのもおじいちゃんなのよ。」

ふてくされたようにギターの入れ物を撫でていた。


このギターと彼女の銃を見て、あながち間違いでもないかもしれないと感じたがやはりただの変ったおじいちゃんなのだろう。

彼女を見て、後者の確信を深めていった。


第三十四幕 熱の冷めた後 完








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