第十三幕 陽気な狼

ドッペルマイスターの作業場を後にして、しばらく村の中をヨーゼフ、アニマ、そして自分は歩いていた。

村は活気には溢れていないがいつも通りの生活を静かに営んでいるようだった。

自分が訪れた時は村を異質だと思っていたがあの時異質だったのは自分で普段の村はこんなにも平穏な時間が流れているのかと思った。

自分の顔は近くまでで寄らないと義体であると分からないので今の所村の人間には自分はあのネモだと気付かれていない。

あの時は父と一緒に来たから気づかれたのだ。

ただの村を訪れた渡り狼の一人であると今の所はそう思われているだろう。

だがしかし足取りは自然と灯りを避けて暗闇の中を歩いている。

アニマやヨーゼフ。自分のことを何とも思わない人間がいると分かったがそれが昔の出来事への根本的な解決方に繋がるわけではなかった。


「なぁヨーゼフさん。」

「何だね?」

「狩りは何人で行くんだ?」

「君とアニマを入れて七人だな。」

「全員知り合いなの?」

「そうだとも全員長年渡り狼を営んでいるものだ。だから安心してくれて構わない。」

ヨーゼフは自分を見て安心させるように微笑んだ。


「お~い!ヨーゼフ!」

向こうから大声でヨーゼフを呼ぶ声が聞こえた。

前を見てみると自分たちとは少し離れた場所に人影が両手で手を振りながら立っていた。

それ応じて、ヨーゼフも片手で控えめに手を振った。


するとその人影が近づいてきて、自分たちも近づいて行った。

距離はすぐに縮まり、目の前まで近づき、そして双方歩みを止めた。


「ヨーゼフ。何してたんだよ。」

「いやぁ悪いな。弾丸の買い足しをしていたんだ。」

「そうか、ん?」

人影は自分たちの存在に気づくと顔を自分たちの方に寄せた。


人影は体が一回り大きい。

すると灯りの一つに照らされて暗闇のヴェールが剥がされた。


目の前に立っている男は金髪の男だった。

目の色も金色で父のようにがたいが大きい、だがそれに反して顔はどこか青年のような顔立ちをしていた。


「誰だお前ら?」

「ネモとアニマだ。この子達も今回の狩りに加えることになった。」

「へぇ~なるほど俺はヘッツェナウアーだ。よろしく。」

「ネモだ。」

「アニマです。こんにちわ。」

「アニマちゃんか~。へぇ~。君も狩りに出るのかい?」

「は、はい。狩りは初めてですのでよ、よろしくお願いします。あ、あの顔近いです・・・。」

余計に顔を近づけるヘッツェナウアーにアニマは少しだけ顔を赤らめた。


「なるほど~。初めてか。ならお兄さんが手取り足取り教えてあげるからな~。」

と顔をにまにましながら言った。


「んん、ごほん。」

ヨーゼフがわざとらしく咳き込んだ。


「ヘッツェナウアー。自重するんだ。これから狩りで出かけるんだ。それにアニマにはネモという付添人がいる。」

「あ~ネモ?チビお前のことか?」

「チビじゃねぇよ。ネモだ。」

ヘッツェナウアーはでかい図体でこちらを見下ろした。


「かぁ~。お前ってやつは羨ましいやつだな。このこの~。」

ヘッツェナウアーは自分の隣に素早く回り込み、自分の肩を無遠慮に叩いて、頬を突かれた。

はっきり言って鬱陶しい。


「ん?なんか固いものが当たって・・・。ってお前、体も顔も硬いじゃねぇかよ!」

すごく驚いた様子で飛び上がった。


「こちらのネモだが彼はどうやら全身が義体らしい。」

「そうなのか?」


ヘッツェナウアーはじろじろと興味深そうに自分の顔に近づけて、自分の体をぺたぺたと触り始めた。


「おい、辞めろよ。」

言って手を振り払った。


「本当だ。驚いたな。全身が義体に換えてるやつなんて初めてだぜ。いつから義体なんだよ?」

「生まれた頃から。」

「生まれた頃?お前は人間なのか?もしかしたら月都で作られた精霊機じゃないのか?」

「それは・・・。」

答えに詰まってしまった。確かに自分は人間の状態で生まれたがすぐに精霊だけを義体に移して、事なきを得たのだがそれは本当に生きているのかと考えてしまった。

自分の体で残っているものはあるかないかも分からないような精霊だけだ。

途端に自分の存在について疑問のようなものが浮かび上がった。


「それは・・・。」

「なんだ答えられねぇのか。まあいいぜ。それより・・・。」

また再び自分の顔に近づき、深刻そうな顔で耳打ちをした。


「お前アニマちゃんとナニする時はどうするんだよ?」

「何って何だよ?」

「ナニってそりゃあナニだよ。」

「は?だから意味わかんねぇよ。」

「ヘッツェナウアー。」

ヨーゼフがこの意味不明な会話を中断した。


「ここで時間を食うのはよそう。他のみんなを待たせるのは悪いだろう。」

「ああ、確かにそうだな。移動するか。そもそもヨーゼフが遅れてるから俺が来てやったんだぜ。」

ヘッツェナウアーは自分から体を離した。


さっきの話の意味が分からず首を傾げた。

「ネモ。さっきヘッツェナウアーさんと何を話していたんですか?」

「ん~アニマと何かをする時ってどうするんだって。」

「何かとは何なのですかね?」

「俺にもさっぱり。」

「気にしないでくれ。」

ヨーゼフの言葉で新たに人が加わった四人組は移動を再開した。


第十三幕 陽気な狼 完







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