第13話 白い髪の魔女




 強固なつたに僕の身体は絡めとられ、身じろぎ一つすることができなくなってしまった。

 強い魔力がその植物から伝わってくる。

 僕は僕と共に縛られた鞄の中にいるレインが無事かどうか確かめた。レインは怯えながらも僕の顔を見て目配せしてくる。

 どうやらレインも無事だったようだ。

 ガーネットは蔦に捕まらなかったようで、猫の姿のまま一方向を威嚇をしている。


「そこの魔女、こちらを向きなさい」


 僕は声のする方をかろうじて動く首だけを動かして見た。

 屋根の上には地味な魔女とキャンゼルが立っていた。何故屋根の上にいるのだろうか。


 ――バカと煙はなんとやらって言うし……


 そういうことなのかとくだらないことを考えた。


 ――やはり裏切られたか


 キャンゼルは笑みを浮かべながら僕のことを見下ろしている。

 結局魔女なんて誰でも同じだと感じる。それはレインやガーネットが感じていることと同じなのだろう。


「……ノエル……!!」

「…………」


 僕の身体に絡まる蔦を魔術式で焼き払った。

 いきなりこんなことするなんて失礼だと僕は思った。まるで僕を個として認識していない。ただの記号としての『ノエル』だ。


 焼き払った植物のカスを払いながら、僕は二人の方に向き直る。


 不意打ちで殺すチャンスだったしれないのに。


 そもそも前提から大きく間違っている。


 


「死んでいてもいいと言われているのよ。大人しく連行されなさい。でないと命の保証はないわよ」


 地味なくせにやけにハキハキと喋るその魔女は、次々と魔術式を構築して植物を操っている。髪の毛を片側で結ってまとめている。眼鏡も片方だけだ。あれはたしか『モノクル』という名前だったような気がする。

 髪飾りも片側だけだ。

 何もかもが片側だけで、なんだか均等性がとれていない。

 植物に働きかけるのが得意な魔女なのだろうか。僕もその魔術なら使える。植物の栽培には便利だった。

 自分の魔力を植物に流し込み、無理な成長をさせる魔術だ。

 だから植物は実をつけない徒花あだばなになってしまうことが多い。


「シャーロットを探しているんだ。ついていけばシャーロットに会えるのか?」

「何をぬけぬけと……! あなたはゲルダ様に殺されるのよ!!」


 地面から、壁から、その辺り一帯から植物が僕の身体めがけて鋭く襲い掛かってくる。


 一瞬だ。

 いつでも勝負は一瞬でケリがつく。


 僕は雷の魔術式で、地味な魔女の左腕を貫いた。

 雷鳴がとどろいたと同時に、地味な魔女の左腕が吹き飛ぶ。

 ガーネットは僕が魔術式を構築し始めた一瞬で猫の姿から吸血鬼族の姿に戻っていた。

 ガーネットの黒いローブが衝撃で揺らめく。


 しかし、戦いは始まると同時に終わった。


「あああああああッ!!!」


 植物がうねうねと制御を失って暴走し始める。

 僕の近くでうずくまっていた人間の男と、ガーネットが植物の餌食にならないように植物を雷で一瞬で焼き払った。

 けたたましい爆音とバチバチと植物が燃えて消し炭になっていった。

 男を見たらただただ恐ろしくて脅えていた。先ほどまでの僕のことを少し受け入れていたような様子はもうすでになく、目を見開いて冷や汗が出ているのが確認できる。

 残りの少ない統率が乱れた植物たちは僕の身体にかすりもせずに、うねうねと魔女本人のようにうごめいては、やがて動かなくなった。

 魔女は左腕を吹き飛ばされて傷口が焦げた肩を抱きしめて叫び散していた。

 そこから赤い血液が少しばかり漏れている。


「立てますか、危ないから避難してください」


 と、男に向かって言ったが、彼は恐ろしくて動けないようだった。この状況では無理もない。

 場所を移すかどうか迷う。関係ない人をこれ以上巻き込んだら可哀想だと僕は考えていた。

 それを一部始終を見ていたキャンゼルは、口を半開きにしたまま腕がなくなった魔女を見ていた。

 恐れおののいた目で僕のことを見ている。

 先ほどまでの笑みは欠片も残っていない。

 一度僕と魔術で一戦交わしていながら、どちらにつくか正確な判断ができないなんてやはり頭はすこぶる悪いようだ。


「ノーラ……! あたしは……あたしは……」


 命乞いのようにそのまま膝をついて祈るような姿勢をとった。


 ――始末するか……いや、脅威はない……


 僕は彼女を放っておくことにした。

 ガーネットは固唾を飲んでそれをそれを見ていた。いつも僕に悪態をついている彼が、何も言わず僕の方をじっと見つめている。

 レインも強大な魔力を感じたのか身体を丸めて震えているようだ。


「ごめんなさい……あなたを……」

「別に信じてないからいい」


 キャンゼルを冷たくあしらい、僕は地味な魔女の方を向いた。

 もう警戒するほどのこともない。息も絶え絶えの様子だ。


「ねぇ、シャーロットを探しているんだけど。会わせてよ」


 傷口が焼けているから大して出血はしてない。

 話す気がないなら気を失ってくれたら手間が省けていいのにと僕は顔をしかめる。


「ナメないで……これでも最高位魔女会サバトの最上位魔女よ……」


 最高位魔女会サバトだなんて、仰々しい名前を名乗っているけれど、結局ゲルダの駒でしかない。


「サバトなんてまだやっているの? 遊びも大概にしたら?」

けがれた血の分際で……!」


 もう片方の腕で力を振り絞って魔術式を構築し、植物を再び急成長させて操り始める。

 今度は先ほどまでと植物の色が違う。紫色の怪しい色の植物だった。


 ――なんだっけな、見たことがある……


 多分毒の類の植物だったような気がする。

 そんなことを考えながら僕は炎の魔術式を展開し、炭も残らない程に焼き尽くした。

 なんの植物だったか結局思い出せなかった。

 その植物が焼けたときに出すであろう毒の煙すら、残らない程の爆炎だった。


 できれば殺したくはない。

 なんでもかんでも殺せば解決するなんていうのはあまりにも乱暴すぎる。そんなのは力がある者なら誰にだってできる。

 でも僕はそんなこと、望んでない。そんなことをしたら僕の忌み嫌う魔女と同じだ。


「ふざけないで! あなたなら私を簡単に殺せるはず! なんで殺さないの!? どこまでも私を馬鹿にして……!!」


 地味な魔女は涙を浮かべながら、ギリギリと歯を噛みしめて僕の方を睨みつける。それでも残った片手で植物を操り、次々と僕に襲い掛かる。

 ガーネットは素早い動きでそれを交わしていた。しかし、彼の身体に所々かすっているようで僕の身体にも同様に細かい傷ができた。


「おい、なんとかしろ!」


 吠えるガーネットを追いかけ回す植物を、片端から僕は焼き尽くした。

 間髪入れずに魔術の攻防が始まり、民家に魔術が被弾して人々が叫び声を上げながら逃げまどっている。

 流石さすが罪名持ちと呼ばれる魔女だ。

 腕が片方ないにも関わらず、何重にも魔術式を構築して打ち込んでくるために、雷の魔術式は彼女まで届かなかった。

 しかし、突如としてその猛攻がピタリと止まる。僕はその勢いで雷の魔術式でもう一つの腕を吹き飛ばそうとした。


「……おい、魔女が来るぞ」


 ガーネットが僕にそう言う声で、僕も攻撃の手を辞める。魔術式は構築しながらも、僕は意識を研ぎ澄ませた。

 耳を澄ますとどこからともなく走る音が聞こえてくる。


 ――新手の魔女……?


 僕はその足音を注意して聞いていると、曲がり角から一人、白い法衣を着た魔女が現れた。


「あ……」


 白い法衣に白い髪、そして白い肌の若い魔女だった。

 その魔女と僕は目が合う。


「えっ……?」


 白い魔女は、僕を見て明らかに動揺している顔をしていた。


「馬鹿! なんでこんなところに来た!?」


 その魔女に攻撃性は感じられない。

 その白い髪や肌や法衣には見覚えがあった。その顔も。いつも悲し気な顔をしているその表情も。


「シャーロット……」


 僕がそう名前を口にすると、その白髪の魔女は戸惑った表情を浮かべた。


「こいつだ」


 後ろにいたガーネットがそう告げた。

 シャーロットが現れた後、地味な魔女は攻撃をしてこない。

 この白髪はくはつの魔女を巻き込まない為だろう。

 いつ邪魔をしてくるかも解らないので、魔女を拘束しておくことにした。

 僕はあの地味な魔女と同じように、大地と植物に働きかけて後ろから植物の蔦で拘束をした。喋れないように口に植物を噛ませる。魔術式を構築できないように目隠しし、指の一本すら動かせないように植物を絡ませた。

 容赦なく魔術を行使する僕に対して、シャーロットは怯えたように見つめてくる。


「そんなに怯えないでほしい。僕のことを覚えてる? 危害を加える気はないんだ。ただあなたにお願いがあってきただけ……――――」


 僕が話をし始めると、騒ぎを聞きつけて他の魔女も集まってきた。


「なにこれ……エマ様!? それにあの赤い髪……ノエルよ!」


 僕を見るや否や魔術式を構築し始め、魔女たちは攻撃態勢になる。

 下位や中位の魔女はシャーロットがいるにも関わらず、今度はお構いなしに魔術を打ってきた。


 ――くそっ……もう少しなのに……!


「頼む、シャーロット、話を聞いて。僕は助けてほしい人がいるだけなんだ」


 僕の声をかき消すように、炎やら水やら氷やらその他色々な攻撃が僕に向かって飛んでくる。

 シャーロットを守るために僕は重力の魔術式を構築して、その攻撃全てを地面に押さえつけた。

 レインは鞄からひょっこりと頭を出して外の様子を見た。

 怯えていたレインだが、僕がすべての攻撃を防いでいるのを見てはしゃぎだす。


「あははは、ノエルすごい! かっこいい!」

「馬鹿トカゲが……おい、大丈夫なのか?」

「くそっ……駄目だ。この状況はまずいよ……」


 僕は視線だけシャーロットに向けた。彼女は怯えた表情で錫杖しゃくじょうをしっかりと握り締めている。


「シャーロット……僕らは退くけど……僕の言ったことを憶えておいてほしい。シャーロットが僕と戦う気がないならまだ避難できていない人間を避難させて! 巻き添えになっちゃうから……!」


 僕の言葉を聞いて、シャーロットは驚いたような顔をした。

 しかし、相変わらず彼女は何も言わない。


「もし嫌々ゲルダの支配を受けているなら、僕が助けてあげるから考えておいて……!」


 僕がシャーロットに話しているうちにも、他の魔女たちの猛攻が耐えることなく襲い掛かったが、ことごとく、それは僕に到達する前に地面に落ちた。

 いつまでもこんな状態ではいられない。更に上位魔女がきたら流石にまずい。一回僕らは退くしかない状況だった。


「一回退く!」


 こんなに魔力を使うのは久しぶりだから少し疲れてきた。

 何より疲れる理由が犠牲を出さないように力を抑えているからだ。辺り一面焼き払うのなら簡単だが、そんなことをしたら沢山の犠牲者が出てしまう。

 僕は、シャーロットに協力してほしいだけだ。殺しがしたいわけじゃない。


「ガーネット、僕とレインを抱えて走って! 後ろからくる魔術は僕が全部防ぐから!」

「……不本意だが。ありがたく思え」


 ガーネットは僕と、鞄ごとレインを抱き上げ、あの馬ほどではないが、ものすごい速さで走った。

 初めからこの移動方法で移動すればよかったと一瞬戦いの思考を遮られる。


「はやいはやーい! もっともっとー!」

「遊びではないんだぞ、馬鹿トカゲが!」


 魔女の攻撃は僕が後ろを見ながら応戦しつつ、しばらくガーネットに走ってもらうと魔女の速さでは追ってこられないようだった。

 僕らが乗ってきた馬のところまで来たが、馬が走れなければ僕らは逃げられない。しかし馬は随分回復していて、もう走れる程度になっていた。


「お前、大丈夫か。まだ走らないほうが……そうだ」


 僕は自分の持っていた外傷用の薬草を取り出し、馬の脚に貼った。

 沢山の魔力を久々に使って身体の中がビリビリする。


「はぁ……はぁ……」

「どうした?」


 ガーネットが僕の息切れに気づいてそう言ってくる。

 少し慣らさないと……これだけ魔力を一気に使うと疲労感が尋常ではない。

 最近は普通の人間に紛れて生活していたせいもあって、ほとんど魔術を使わないで生活していた。

 魔術の使い方を忘れていなくて良かったとすら思う。

 しかし、こんなに疲れるものだったかと僕は肩で息をする。


「大丈夫。早く逃げないとまずい」


 馬の回復を図っている間に、魔女がいつ来てもいいように僕は意識を集中させた。

 まだ魔女の気配はない。

 僕は馬に話しかける。


「もう走れるか? ごめん。僕の町についたら休ませてやれるから頑張って」


 トン……


 肩を軽く掴まれた。


「おいおい、そんなに急いでどこにいくんだよ? 俺のノエル」


 耳元で冷ややかな嘲笑交じりの声が聞こえてきた。

 振り返ると、キツイ目つきの男が立っているのに気づく。


 僕はゾッとした。


 ――何故気づかなかったんだ


 僕の意識が追い付くよりも早くその男は僕の身体に触っていた。

 まるでご主人様が僕にするように。

 あまりの不愉快さに僕は翼の封印をしている魔術を解き放ち、思い切りその男を弾き飛ばした。


「触るな!」

「ははは、そんなに怒るなよ」


 僕の翼が着ていた服を破り、大きな三翼が露わになった。白い翼が光を反射し眩く輝く。

 その場にいたガーネットやレイン、そして男の魔女も僕の翼に視線が釘付けになっていた。

 翼を解放すると、僕は身体が軽くなった。

 いつも封印の魔術式で身体に封印していた翼だ。羽ばたかせると、自分に翼があったことを思い出す。

 男の魔女はそれをみてニヤニヤと笑った。


「誰だ、貴様!」


 男は無言でガーネットに向かって手をかざした。


 ――マズイ!


 僕は反射壁をガーネットの前に形成したが、それでも少し間に合わずにガーネットの腕が少しえぐれるのが見えた。


「っ!」


 早い。

 どうやらこの男の魔女は雷使いのようだ。

 僕の腕もガーネットとの共鳴反応が起きて同時に持って行かれた。鋭い痛みが走り、少し皮膚が焼け焦げて嫌なにおいがする。


「……やっと会えた。ノエル。俺だよ」

「お前なんか知らない」


 僕は殺す気で魔術式を組んだ。手を抜けば僕らが殺される。

 僕が魔術式をかけると地面から次々と尖った鉱物が突き出し、その男に襲いかかった。


「俺だ、俺が解らないのか?」

「知らないって言ってるだろ! ガーネット、レインと馬に乗って!」


 腕を抑えているガーネットは、僕の方へ飛んで来ようとするレインを掴んで馬に乗った。


「はなせよ! インケン野郎!!」

「やかましい馬鹿トカゲ! おとなしくしろ!」


 僕が対峙している男は純粋な身体能力が高く、魔術を使わないで僕の攻撃を次々とかわしていた。潜在能力が元々高いのだろう。身体能力の高い魔女は珍しい。

 それが高位の魔女だと尚更厄介だ。


「おい、新手の魔女だ! 早く行くぞ!」

「ノエル早くきて!」


 ――あぁもう……こんなときに!


「ノエル、俺だ。あのときの――――」


 僕は地面に大きな壁になるように魔術式をかけた。

 僕らと魔女の間に大きな土の壁が出来上がる。隔たりができたところで僕は急いで馬に乗った。雷の魔女は素早く避けたが、その避けた先に土の檻を作った。


「なにっ……!?」


 雷の魔女なら、土で壁を作れば簡単には出てこられないはずだ。とはいえ、他の魔女はすぐに突破できるだろう。


「しっかり掴まって。僕が後ろの魔女はなんとかするから」


 髪の毛が邪魔になるので僕は髪の毛を束ねた。案の定、僕が作った土の壁はいとも簡単に崩れ、その隙間から魔術が飛んでくる。


「走って! 無理のない速さでいいから!」


 馬は普通の馬よりも少し早い速度で走り出した。

 あらゆる魔女の攻撃が僕らを襲ってくるが、僕はもう殺さない意識は捨てた。

 無事に帰らないといけない。

 僕には僕を待っていてくれる人がいる。

 街ごと消し飛んで希望が消えても、今死ぬことより最悪なことなんてない。

 僕は特大の魔術式を構築した。構築するのに時間が少しかかってしまった為、魔女の攻撃がもう目の前まで来ている。


「おい! 何をしている!?」


 ガーネットが僕を急かす。いつも澄ました顔をしているのに、流石に焦っているようだ。


「ガーネット、僕の身体掴んでいて!」

「!」


 ガーネットは僕の身体を腕で抱えて馬の手綱をしっかりと掴んだ。そして僕が構築したその魔術式からは高濃度の僕の魔力の塊が放出された。

 馬の身体が数十秒浮くほどの運動エネルギー。自分でも制御がきかずに、僕はそのまま高濃度エネルギーを辺り一帯に放つことになってしまった。

 すさまじい爆発音と熱気を感じ、目前に迫っていた魔術も一つ残らず消し飛んだ。

 この馬に乗っていなかったらその爆発に巻き込まれていてもおかしくはないほどに、辺り一面が吹き飛んだ。

 ガーネットが僕の身体をしっかりと抑えていてくれたおかげで、馬から落ちずに済んだ。


「すごいすごーい! ノエルすごいよ! てんさいてんさい!」


 レインが無邪気にバタバタとガーネットの腕の中ではしゃぎまわる。ガーネットは心底鬱陶しそうにしながらもレインを離したりしなかった。


「はぁ……はぁ……」


 流石さすがに身体に負担が大きすぎたのか、身体中がビリビリする。

 もうこれ以上魔術式を構築できる気がしない。

 ものすごく疲れた。

 あれだけの魔術を撃ってしまって、僕は酷く後悔した。


 ――シャーロットに希望を見出せたのに……


 ご主人様の顔が頭から離れない。酷い後悔だ。人間たちも何もかも一切を滅ぼす力。呪われた力。それをまざまざと自覚する。

 土煙でもう街の様子は見えなかった。

 もしかしたら全壊してしまったかもしれない。

 早まったことをしたかと考えるが、こちらも命の危険があった。あの猛攻を抑えるのも魔女をまくのも高位魔女が何人もいたら難しい。

 無事に帰ることが第一条件だ。

 シャーロットを無理やりにでも連れてきてしまえばよかっただろうか。しかし、無理強いをしてもご主人様を治してくれるとも限らない。


 ――魔女に希望なんて持ったことが間違いだったんだ……


 そう自分に言い聞かせる。


「……お前本当にすごい魔女なんだな」


 ガーネットの腕に抱えられて、もう身じろぎの一つすらまともにできない僕は「全然すごい魔女なんかじゃないよ」そう答える気力もなく僕は気絶した。

 僕の大きな翼はガーネットを包むように揺れていた。



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