今日から始まる平凡な俺の異世界生活

野良 乃人

異世界に到着編

第1話 帰宅途中の出来事

 俺は24歳の会社員。

 名前は上野史人ウエノフミト


 地方の大学を卒業し、卒業後は運良く受かった会社に就職した上京してきて二年目の社会人だ。


 住まいは最寄りの駅から徒歩5分のワンルームのマンションに一人暮らし。

 食事は食費を節約する為に出来るだけ自炊を心がけているが、仕事で疲れた時は駅前のお手軽外食チェーン店で済ます事もある。まあ、その辺は状況に応じて柔軟にってところだな。


 仕事は中堅部品製造会社の生産管理部門。材料の発注や製造ラインの調整など、まとめて管理する部署だ。ただ、毎日同じことの繰り返しなので何か心が踊るような刺激が欲しいと常々思っている。


 平凡を絵に描いたような俺の日常。

 通勤時間に暇つぶしに読むネット小説のラノベの中の世界のように、剣と魔法の世界で暮らしてみたいと、叶わぬ願望についつい胸を躍らせてしまう。


 まあ、現実逃避と言われたらそこまでなんですがね…汗


「お疲れさまでした」


 今日も代わり映えのしない仕事を終え、上司や同僚に挨拶して勤務先の会社を後に帰宅の途に着く。


 週末の金曜日。世間では花の金曜日だが、俺は仕事が終わって勤務先から6駅ほど離れた自宅マンションにまっすぐ帰宅中。駅の改札を抜けて自宅までの道のりをてくてくと歩いていく。


 俺が住んでいる街は最近開発中の新興住宅地で、住民は比較的新しい人が多く学生さんや一人暮らしの会社員をよく見かけるのだ。


 まあ、俺もそのうちの一人なんだけどさ…汗


 途中、業務用商品も売ってる激安スーパーに寄り、ストックの為に調味料を買う。調味料は気がついた時にまとめ買いしてマンションの棚に入れておくタイプ。塩を三袋購入、他にも砂糖二袋と醤油、1キロの袋入り胡椒を購入する。


 一人暮らしにしては買いすぎじゃないかと思われるかもしれないが、量は多めでも他店に比べるとめちゃめちゃ激安なのでお得なんだよね。


 この激安スーパーは品揃えも多くて値段も安いのでいつでもお客さんがいっぱいだ。新興住宅地という恵まれた土地柄に、交通の便も良く大きな駐車場も備えているから近隣からもお客さんが大勢来ているようだ。


 肩に掛けて通勤に使ってる革のショルダーバッグから折りたたみのナイロンリュックを取り出して商品を詰め込み、背中に背負って自宅への道のりを歩きだす。


 意識高い系という訳ではないが、一応エコの時代だから周りに合わせてマイバッグ持参なのですよ。


 自転車も持っているのだが、駐輪場で誰かに盗まれるのが嫌なのと、自宅と駅の間はそれほど距離もないし徒歩でも苦に思わないのでいつも歩きだ。

 ここらへんはまだ開発中の新しい街なので、お洒落な店がある一方ですぐ隣に野菜畑が残っていたりしてそのアンバランスさが面白い。


 自宅へ向かって歩きながら、最近起きる出来事を考える。

 それはとても摩訶不思議な現象で、時々意識というか目の前の景色が見た事もない場所に突然切り替わる。それは普段俺が読むラノベにあるような世界で、森の中で生活していた俺は街に出て中世のような街並みの中で暮らし普段から剣を持ち歩いているのだ。


 その現象の中で俺は冒険者風の装備を身体に身に着け、魔物を相手に戦って金を稼いでいる。まるで白昼夢のような現象が起きるなんて一体どういう訳なんだろうか。まさか俺の中の願望が脳内で具現化しているのかね? 確かにそういう系のラノベを読んでいるから常々冒険者になってみたいと密かに憧れている。男なら剣と魔法の世界で冒険をするとかワクワクするし心躍るからね。


 俺は自動車免許は持っているが車を所有していないし、レンタカーを借りて車を運転するような機会もない。だからその白昼夢に襲われても今のところその点では危険はなく大丈夫だ。ただ、剣と魔法の世界に憧れてはいるが、そのような白昼夢が仕事中や自宅に居る時にも短い時間ではあるが不定期にやってくるとなると、流石に悠長に構えていられないのでそれが最近の俺の唯一の悩み事だった。


 そんな事を考えながら自宅マンションまでもう少しの所まで来た時、またその現象が起きそうな感覚がやってきた。いつもその現象が起きる前にはフラッシュが点滅するように目がチカチカして次第に視界が白っぽくなってくる。


 立ったままだと危ないので俺は10メートルくらい先に入り口がある公園に駆け込み、そこにあるベンチに腰を下ろしてこの現象をやり過ごそうとした。だが、今回は以前の時と違って感覚的に何かが違う気がする。


 ベンチに座り下を向いてじっと座っていると、俺の足元が光で埋め尽くされ自分の身体が足元から透き通っていくのが見えた。明らかに今度のは根本的に何かが違うのだ。そう考えているうちにも身体がどんどん消えていく。


「なんだこれ!」


 常識では説明出来ないような事が俺の身に起こっている。このままどうなってしまうのだろうか。そして目の前が真っ白な空間に満たされながら次第に俺の意識もなくなってしまったのだった。


 ◇◇◇


 この現象がきっかけで、後に異世界で神様の加護を貰い修行をして強くなり、辿り着いた街では運命の出会いもあるなんて……この時の俺には当然のごとく知るよしもなかった。

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