三章 「講義」

 午後の一つ目の講義は、今日から始まるものだ。

 先生が体調を崩していたので、四月からは始まらなかったのだ。

 僕はこの日講義を受けることで、今日水曜日の四限目が一週間の中で一番楽しみなものになるのだった。

 春翔とは別の講義をとっていたので、僕一人で向かっていた。

 コスモスが咲いていて、秋に彩りを加えていた。

 大学の講義は基本的には、決められた席というのがなく自分たちで自由に空いてる席に座るスタイルだ。

 少し早めに着いたので、人はまだあまりいない。

 僕はいつも人があまりいない静かな席に座る。騒がしさが僕は怖かった。だから入り口のドアから離れていて前の方の席、そこはいつも僕が座る席だった。

 ペンとノートを用意して講義が始まるのを待っていると、後ろから声をかけられた。


「あれ、一ノ瀬くん?この講義とってたの?」


 君の大きくて丸い目に見つめられて、見つめ返すことしかできなかった。僕は現実ではない気がした。さっき少しだけ顔を合わせたから、僕がまた幻を見ているのかと思えた。それぐらい僕の中では現実離れしたことだった。

 もちろん普通に話したことは今までに何度もあったけど、何故だろうかこうして今話していることが不思議で仕方なかった。

 心がときめいた。何度あっても、慣れないしやはり君から話しかけてくれることは嬉しことだった。


「うん、とっていたよ。一条さんもとっていたんだね」


 心の動きを読み取られないかと心配だった。でもなんとか答えることができた。

 じゃあ一緒に講義受けようよと君は空いてる僕の隣の席に座った。

 あまりにも自然な動きだった。君から楽しさを感じられたのは僕の気のせいだろうか。こんな風に悩むのですら僕を楽しませてくれる。

隣で講義を一緒に受けられるなんて、二人だけの世界のようだ。

 講義の内容は「倫理」だった。正しさを問う授業なんてとても君にあった内容だと頭に浮かんだ。

 そして、君に倫理の授業を教えてもらいたい思った。

 でもそれじゃあとてもじゃないけど講義になんて集中できないなと自分で思いついたことにくすりと笑ってしまった。

 君は「どうしたの?」と不思議そうにこちらを見ていた。

 僕は少し意味深になんでもなーいと再び笑ったのだった。

 君は笑うとえくぼがでて、それが可愛い。僕だけが知っていて他の人が気づいていなければいいのにと思った。

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