魔法使いは願いを唱える

武田修一

魔法使いと機械人形

「……きれいだ」


 一目見て、欲しくなったのは初めてだった。

 自分と同じような銀糸の髪。そして、青い瞳、オートクチュールのメイド服。大事にされてきたんだろうというのは、見てわかった。けれど、その大事にされてきたであろう”それ”は、台車に乱暴に積まれており、今まさに廃棄しょぶんされようとしている。

 長い手足が台車に収まりきらずに、外へ出ていて、目はぼんやりと開かれていて、青い瞳が虚空を見つめている。台車が揺れるたびに、銀糸の髪がぱらぱらと揺れて、手足もぶらぶらと揺れた。

 この状態は、きっと、機械人形オートマタ特有のスリープ状態だ。ただ、私は魔法使いなので、あまり詳しいことはわからない。それでも。


 ――――なめらかな曲線が、やわらかな銀糸が、私の目を縫い付けて、やめない。


 台車を引いている男は、作業服を汗でぐっしょりと濡らしながら、運んでいる。そういえば、この先にはスクラップ工場があったな。廃棄しょぶんするために、鉄くずにするために、運んでいるのだろう。

 前の持ち主から奪われたのか、持ち主がいなくなってしまったからなのか。まあ、廃棄理由しょぶんりゆうなんてものはどうでもいい。とにかく、目に映る”機械人形オートマタ”が欲しくてたまらないのだ。スクラップになんて、鉄くずになんて、させてたまるものか!

 気づけば、体が動き出していた。


「ねえ」


 ”機械人形オートマタ”を連れて行こうとしている男が、私の声を聞いて驚く。どこからともなく現れた私はさぞ異様なことだろう。怪しさを増長させるように、笑顔を浮かべて話しかける。


「”それ”、今から廃棄しょぶんするの?」

「は?…………そうだが。アンタには関係ないだろう」


 もちろん関係は無い。男の言うとおりだった。

 手を伸ばせば、届く距離にいる”機械人形オートマタ”が、欲しいだけ。


「ちょうだい」

「は?」


 答えを聞く前に、持っていた杖をひとふり。きらきらと星が散らばって、風と共に”機械人形オートマタ”は男の手を離れて舞い上がる。男は、空になった台車をほっぽり投げて、もう一度自分の元へと戻そうともがくので。私はそれを笑いながら、杖をふる。そうすると、男は意識を失って、地へと這いつくばった。


「これできみは私のものだ」


 にっこりと笑って、”機械人形オートマタ”を抱きかかえた。


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