第24話 膝枕なはるか

デートが終わった日の夜。

 家に帰った僕たちは、食事を済ませ、お風呂には入り後は寝るだけとなっていたのだ。


「ねぇ、どうかな?」


 はるかが僕に見せてくるのは、今日買ったパジャマだ。

 はるかの来ているパジャマは、淡いピンクと白のボーダー柄のフワフワモコモコパジャマで短パンタイプだ。



「うん、似合ってて可愛いよ」


 というか、可愛すぎてびっくりだ。というか、あれだ。多分、男の好みを狙った完璧なパジャマだよね。


「ありがとう」


 嬉しそうにはるかは笑うと、その場に座ってポンポンと膝を叩く。


「それじゃ、いらっしゃい」

「え?」

「聞こえなかった? ほら来なさいよ」


 自分の太ももを再度、ポンポンと叩くはるか。一応言っておくと、はるかの声も聞こえてるし何をしたがっているのかも分っている。だって、はるかの隣には綿棒があるし。


「どうしたの?」


 恥ずかしくないのだろうか? 


「どうしたのよ、顔赤いけど? ……あーそっかぁ……ふーん」


 僕の考えていることが分かったようでえらくニヤニヤしている。なんら少し嬉しそうだ。


「まぁ、そんなことより早く来なさいよ」

「……行かないとダメ?」

「ダメ」

「……恥ずかしくないの?」

「うん」

「……えーと」


 だめだ。いい言い訳が想いつかない。正直、膝枕なんて恥ずかしすぎる。


「今日、あなたがおそろいにキーケースくれたし私もお礼しないとね? それとも、隆弘は私にお礼をさせてくれないのかしら?」


 イタズラめいた口調で楽しそうに僕のことを見ている。

 そう言われると僕は渋々、はるかに近づくしかなかった。


「もう、最初からそうすればいいのに。それにこれは私が初めてできた彼氏にしてあげたかったことだしね」


 そう苦笑するはるか。そういえば、そんなこと言ってたっけ……まさか膝枕とは……

 ゆっくりと僕ははるかの太ももに後頭部を預けた。はるかの太ももの甘い感触とぬくもりが伝わってくる。

 胸がすっごくムズムズしてきた。想像以上に恥ずかしい……。


「これが隆弘の重みなんだ……太ももが出てる分、髪がくすぐったいかも……でも、心地いいな」


 どこを向いていいのか分からず、視線をキョロキョロとさせているとはるかと目が合った。はるかも照れくさいのか、赤面しながら苦笑していた。


(恥ずかしいなら言わないといいのに……)


 こっちだって、はるかの息遣いが感じられる距離にいてドキドキしっぱなしだ。体温も匂いも触れられる距離にいるって言うのに……。


「なんか隆弘の温かさが私に染み出てくるみたい……嬉しい」


 そう言いながら僕の頭を優しく撫でている。


(やばい、頭を撫でられるとすごく落ち着く……)


 さっきから、胸がドキドキしっぱなしで、ムズかゆくて仕方ない。僕が顔を上げようとすると


「ちょっと動かないでよ。まだ少ししか経ってないんだから。それにもう少し顔を見せなさいよ……」


 僕の頭を掴むはるかの優しい声が耳に響く。

 その時、少し冷たいはるかの指が僕の右耳にふれた。その感覚に脳みそがしびれてしまったかのように快感という電流が奔ってしまった。その影響で体が一瞬だがビクッとしてしまった。


「隆弘……?」


 僕の反応をおかしく思ったのか不思議そうな顔をしている。幸いにも気づかれていないみたいだ。


「じゅ、十分でしょ……」


 胸が爆発しそうなくらいに高鳴って仕方ないのだ。


「えい!」


 はるかの白魚のような指が甘く耳を引っ掻いてくる。


 ──ビクッ!


「隆弘、耳が弱いんだ……知らなかった……えいえい!」

「……ひゃっ!」

「ひゃって言った! かわいい……カッコいいところはいっぱい知ってたけど、可愛いところも知っちゃった」


 そう言いながらはるかの表情は嬉しそうにとろけ切っている。そして、僕と目が合ったはるかはほころぶような笑顔を浮かべると、


「こうやって隆弘の顔見てるのすきだなぁ……ほれほれー」


 はるかの指が頬を甘く引っ掻いてきた。


「くすぐったいって」

「フフッ……可愛い」


 優しそうに目を細めるはるかが大人びて見えた。

 キスまでしたというのに、こんなに膝枕が胸をドキドキさせるなんて知らなかった。もしかしたら僕は太ももフェチなのかもしれない。


「一番好きなのは隆弘の高い鼻かな……」


 頬から鼻に向かって指が伸びていく。はるかは鼻筋を確かめるようにゆっくりとなぞっていく。

 好きという言葉の甘さと心地よさに、頭がボーッとしそうになってきた。


「ぎ、ギブアプ……」


 もう勘弁してくれという意味も含めて名前を呼ぶ。


「まぁ、キリがなし耳かきもしないとね」


 そう言って再び僕の頭を優しく撫でる。

 はるかに言われ思い出したけどそうだった。もともとは耳かきをするつもりで……。


「ほら、耳を上に向けて」


 もぞもぞと動かすはるかの足に合わせて、僕も顔の向きを変える。お腹とは反対側の方向を見る。


「あら、意外ときれいじゃない」


 はるかは俺の耳を覗き込みながら、綿棒で優しく掃除してくれる。先ほどまでとは違う気持ちよさが広がる。


「気持ちいい?」

「……ノーコメント」

「答えを言ってるような物じゃない、もう。次は反対側ね」


 お腹側に顔を向けると、先ほど以上に密着する形になった。すると、フワッと甘いにおいが漂ってくる。先ほど収まりかけた胸のムズムズが再びぶり返してくる。


「ねぇ……」

「うん?」


 バレバレだとは思うができるだけ平静を装って返事する。


「今日は本当にありがとうね、プレゼント。」

「別にそんなにお礼を言わんくてもいいって」


「だって、初めてあなたからもらえたプレゼントなのよ? 大切にするし、『この先』ってことは。その……将来的なことも考えてってことでしょ?」

「……うん、そのつもり……」


 伝えたかったことが、きちんと伝わっていたようで安心した。


「だったら、やっぱりありがとうよ……」


 静かに優しくはるかの声が僕に耳に甘く届く。


「どういたしまして、これからもよろしくね」 


 耳かきが終わったようなので、膝から顔をあげる。


「ええ、こちらこそよろしく。私はもうあなたなしじゃないとだめなんだから……」


 そう話ながら、目を瞑って僕に顔を近づけるはるか。

 そして、本当の意味で今日のデートを締めくくるように僕たちの唇が重なった。

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