第13話 男らしさを見せる真島君と心配する優木さん

 待ち合わせ場所に来ない優木さんを探しにいくと、彼女は軽薄そうな男子に告白されている最中だった。


「ごめんなさい。あなたの気持ちは嬉しいんだけど、今は誰とも付き合う気がなくて……」


 申し訳なさそうな表情を浮かべながらも、優木さんは慣れた様子で告白を断っていた。


 この調子なら、すぐに待ち合わせ場所に来れると思っていた。しかし、そうはいかないようだ。なぜなら、断られた男子が苛立った様子で粘っていたからだ。


「な、なんでだよ……! 俺、そんなに悪くないだろ! サッカー部で部長だし、告白してくる女子だって大勢いるんだぞ!」


(……サッカー部の部長?)


 何かが頭を引っかかった。そうだ、前の全校集会で表彰されていたような気がする。確か……3年の松田だっけっか?


 確かに、松田先輩の顔はイケメンだ。有名なアイドルと比べても遜色ない気はする。まぁ、それを自分で言うのはどうかと思うけど……。


「そんな俺がわざわざ付き合ってやるって言ってんだから──」

「ごめんなさい。本当に私は興味がないので──キャッ!」


 優木さんが少々強引に話を打ち切って、立ち去ろうとした時だった。

 サッカー部の彼は諦めきれないのか、優木さんの腕を掴んだのだ。


(あいつ……!)


 これ以上は放っておくわけにいかない。何より、優木さんに荒っぽいことをしたのが許せなかった。


「おい、放してやれよ!」

「真島君っ!?」


 僕は廊下の隅から飛び出ると、強い口調で松田先輩をとがめた。


 自分でもびっくりするくらいに、腹が立っていた。理由なんて考えなくても分かる。松田先輩が腕を掴んだ際に見せた、優木さんの一瞬おびえた表情。彼女にそんな表情をさせた松田先輩が、純粋に許せなかったからだ。


 そんな僕の怒気を孕んだ口調に優木さんは驚いているようだった。それもそうだろ。僕が人前で怒ることなんて滅多にないから。


「な……お前には関係ない─」

「いい加減にしろよお前」


 小さく、静かに、怒気を声に孕ませる。そのまま、松田先輩を睨みつけながら近づいていく。


「手、離してやれよ。怖がってるだろ」


 突然現れた僕に戸惑っていることが、手に取るように分かった。それでも、好きな子を前にしたプライドがそうさせたのか、僕のことを気に食わなさそうに睨んでいる。少しの間にらみ合っていたが、一瞬ひるんだ松田先輩はつかんでいた手を離した。やりすぎたという気持ちがあったのかもしれない。


「行こ、優木さん」

「えっ! ちょっと……」


 そのすきに僕は優木さんの手を少々強引に握って、その場から立ち去る。そのまま学校を出てしばらく歩いた後、優木さんが話しかけてきた。


「真島君……その……」

「?」


 優木さんは少々言い辛そうに頬を赤くしてる、どうしたんだろう。


「助けてくれたのは本当に嬉しかったんだけど……手が……」


 そう言って、優木さんの視線が僕たちの手元に落とされる。


「え……? ああ、ごめん!」


 慌てて手を離した。どうやら、学校にいるときから手をずっと握っていたようだった。気づかなかった。


「構わないわよ……真島君にも男らしいところがあるのね。ちょっとびっくりした」


 優木さんは僕が握っていた手を、反対の手で大事そうに胸の前で握っていた。それどころか、嬉しそうにほほ笑んでさえいる。


「本当に助けてくれてありがとう……あなたがいなかったら、どうなってたことか……」

「ま、まぁ、ケガもしてなさそうだし良かったよ……」

「照れなくていいじゃない……男らしくてカッコよかったんだから」


 そんな優木さんを見てると、胸がくすぐったくなってしまい、顔をそむける。


「告白されるときって、いつもあんな感じなの?」

「そんなわけないじゃない。あんなに強引に迫ってきたのは初めてだったわよ」

「そっか……」


 何はともあれ、間に合ってよかった。


「そんなことより、真島君こそ今後、大丈夫?」

「今後……?」


 最初、心配そうに話す優木さんが何を言っているのか分からなかったけど、すぐに腑に落ちた。

「ああ、そういうこと……」


 要は、松田先輩に僕が目を付けられる可能性があることを言っているんだろう。


「まぁ、大丈夫じゃない? 今後、絡んでくることもないでしょ」

「そんな簡単に済むといいんだけど……なんかねちっこそうだったし」


 楽観的に考える僕とは対照的に、心配そうな表情を浮かべている優木さん。先ほどのことを引きずっているのか、いつもより覇気がない。


「何かあったらすぐに言いなさいよ。元はと言えば私が原因なんだし……」

「別に優木さんが悪いわけじゃ──」


 言いかけたところで、優木さんの不満げな表情が目に入った。このままだと押し問答になりそうな気がするな。


「そうだね。その時は黒魔術の書にあるオススメの呪い方でも教えてもらうよ」


 少しイタズラめいた口調で僕は優木さんに声を掛ける。

 僕が今の空気を換えたかったのが伝わったのか、優木さんはドヤ顔で誇らしそうに返事してくれた。


「任せなさい! 私が試してみて一番効果があったやつを真島君にも教えてあげるわ!」

「え、効果あんの!?」


 地味に怖いんだけど!


「さぁ、どうかしらね? 試しに、私が真島君にかけてみてもいいのよ?」

「えーそれは勘弁してよ……」


 そんなやり取りをしたあと、どちらからともなく、笑いだしてしまった。


 うん、優木さんには笑ってる顔が似合っている。このまま、何事もなく終わってほしんだけど、現実はそう上手くいかないようだ。

 この時の僕は気づいていなかったのだ。立ち去る時、松田先輩が憎々し気に僕のことを睨んでいたことに──

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