第7話 初恋相手の正体と乙女な優木さん

 優木さんと中二病グッズで盛り上がった後。

 アクシデントもあったが、なんとか優木さんをなだめることに成功した。僕の秘蔵ドーナツ3つで手を打ってくれるあたり、安いものだろう……多分。

 散開したグッズを片付け、部屋に座れるだけのスペースができた頃、優木さんは僕に初恋相手の話をしてくれた。


「真島君、昨日言ったこと覚えている?」

「昨日っていうと……好きな人がって話?」

「ええ、その話よ。まずはこれを見てちょうだい」


 優木さんが僕に差し出してきたのは、花に手足を生やしたゆるキャラのような人形だった。


(あれ、この人形ってマッピーだよな……?)


 両親が営んでいたフラワーショップで、発売していた人形だ。もしかしたら優木さんも、お店に来たことがあるのかもしれない。

 僕が世間の狭さを実感してるとき、優木さんはとんでもない爆弾を投下してきた。


「この人形はマッピーって言って、私をいじめから助けてくれた男の子がくれたものなの」

「そうなん…………うん?」


 何かすごく身に覚えがあるような……いや、気のせいだよね……。


「10年くらい前かしら? 正確には覚えてないんだけど、お店の前で私のテディベアが二人組の男の子に奪われたのよ。そして、泣いて困ってる私を見た男の子が取り返してくれたの。その時、この人形も一緒にくれて……ってどうしたの? そんなに汗かいて」

「い……いや……大丈夫……つ……続けて……」

「? ほとんど話しちゃったけど、その時に約束したのよね。将来、お嫁さんになってあげるって。まぁ、その子の名前も、今どこにいるのかもわからないんだけどね」


 そう言って優木さんは苦笑している。流石の僕でもわかる、今でもその男の子のことが好きなんだろう。

 ただ、今の僕からすればそれどころじゃなかった。


(それは僕だぁぁぁああああああ!)


 なぜなら、優木さんの言う男の子が、ここにいるからだ。


 ど、どうしよう……言った方がいいのかな……。

 まさかの事態に混乱する僕だけど、正直に話そうと覚悟を決めた時だった。


「それが私の初恋で今も続いてるのよ。きっと、あの子は見ず知らずの私を助けてくれるような人だから人の輪の中心にいる人物に違いないわ。もしかしたらすっごいイケメンで芸能関係の人かもしれないわね」


(言えるかぁぁぁああああ!)


 優木さん!? 好きな人だからノロけているんだろうけど、恥ずかしいからやめて!

 そこまでハードル上げられたならこっちもしゃべれないんだけど!?

 それに、その男の子の正体ってただの陰キャボッチだからね!


「正直なこと言えば、会える確率なんてほぼゼロに近いと思うし、あの子だって他の子と付き合っているかもしれない。もしかしたら忘れているのかもしれない。だとしても、私はこの気持ちに対して諦めるということができないのよ……」

「そうなんだ……」


 そう健気に話す優木さんの表情は複雑そうな顔していた。


「もしもだけどさ、その男の子と再会できたらどうするの?」

「そうね……」


 優木さんはそう前置きして、少し悩んだ後に


「もし再会できたなら、告白して好きになってもらえるように努力するわ。それで、お嫁さんにしてくださいってね」


 そう嬉しそうに、花が咲くような笑顔で応えてくれた。

  

「……って、何、私も恥ずかしいこと、貴方に正直に話しているんだろ……」

「せ……せやな……」


 さすがに恥ずかしすぎて、今は優木さんの顔をまっすぐ見ることができない。

 どうしよう……絶対に僕も今赤くなっている……。


「と、とにかく! そういうことだから私達の間で恋愛は禁止だから!」


 首まで赤くさせた優木さんはそう言って、僕を部屋から追い出した。

 照れくさかったんだろうけど、僕だって恥ずかしい……

 はぁ……次からどうやって接したらいいのかな……。


          ※


『っていう状況、直葉(すぐは)はどう思う?』

『ラブコメ乙。それは結婚フラグだよお兄ちゃん。他の女にフラフラしてないで、はやく攻略ルートに入らなきゃ』


 電話相手は僕の妹──直葉(すぐは)だ。

 残念ながら、現状を話せれる相手が妹しかいなかった僕は、今の状況を妹に相談していた。


『攻略ルート? 何を言ってるんだ?』

『何って、お兄ちゃんがしてる恋愛ゲームの話でしょ?』

『いや、信じられないかもしれないが現実の話なんだよ……』


 むしろ、ゲームの話ならどれだけよかったか。


『はぁー……とうとう現実と空想の違いが分からなくなっちゃったかぁ……』


 電話越しでもわかるくらいに、直葉はわざとらしく、大きいため息をついていた。


『いいお兄ちゃん? 友達がいなくて寂しいのは分かるけど、現実はちゃんとみなきゃ。大体、日曜のお昼から電話をかける相手が妹しかいないっていうのはどうなの?』

 

 イタズラめいた口調で、直葉は話す。


『…………』


 前半部分はともかく、後半部分は正論だ。悔しいが何も言い返せない。


『まったく、お兄ちゃんの将来が心配になるなぁー。私だって、いつまでもお兄ちゃんの傍にいるわけじゃないんだからね。分かってる?』

『イ、イェッサー……』


 どうして妹に相談したはずが、説教されてるのだろうか。


『うん、よろしい。もう少ししたらこっちも落ち着くから、そうなったら一回、お兄ちゃんの顔を見に帰るから待っててね』

『へいへい』

『あ、あと! 帰ったらゲームで何でも付き合ってあげるから、私が帰ってくるまでに現実はちゃんと見ておくこと!』


 そうして、妹との電話は終わった。

 具体的な解決策は見つからなかったが、いつも通りでいようと思えるくらいには落ち着いた。

 それに、まぁ……なるようにしかならないか。バレたらそのときにまた考えよう、うん。

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