第31話 舞台を降りてすぐに

 舞台を降りてすぐに、達也の頭を叩(はた)く愛。

「あんたは、せっかくの銀賞の受賞だったのに、スマホをいじっているわ、降りる時はバタバタして降りるわ、まったく、やる気がないんだから」

「そうなこと言っても、スマホにメールが入ったから」

「お前は、スマホ中毒か? メールが入ったらいつでもどこでもチェックして!!」

「ごめんなさい! でも、知らない外人からメールが入ったものだから」

「知らない外国人? 見せてみなさいよ」


 達也が愛に見せたメールには、「カエリハ、ミス.ローズノクルマニノセテモラッテ、カエルコト。モシ、ムシスルト、エンゲキブゼンインガキケンナメニアウゾ」と書かれていた。


「まったく、受賞の喜びに水を差すやつらね」

「これはきっと、SEXの連中だろう。あいつ等、拳銃とか持っていたからな」

「演劇部の連中を巻き込むのは不味いわね」

「だろう。こいつらの言う通り、ローズ先生の車に乗って帰るしかないぞ」

「ちょっと待って」

 愛は、自分のモバイルを開き、ローズやSEXのメンバーと思われる者たちのメールのやり取りを確認する。そして、GPSの位置確認情報も。

「やっぱり、メールにやり取りがあるわ。ただし、どこで決行するかは不明ね。それに、この会場だけで、メンバーと思われる者が四人いるわ」

「じゃあ、ローズ先生が、そのことについて言ってくるはずだな」

「そうね。ほら来た」


 すべての表彰が終わり、解散ということで、演劇部の顧問やローズ先生がやって来た。

「はい、みんな今日はご苦労様。全国で銀賞という事で、演劇部の目標は一応達成できました。でも、学校に帰るまでが、全国大会ですよ。みんな、手分けして道具をバスに積んで、今から三〇分後に出発するわよ」

「それから、光学研究会の高坂君と橘さんは、私の車に乗ってクダサイ。バスの中で、演劇部の方で、反省会があるソウデスカラ」


 顧問の話の後、ローズが達也と愛に指示を出す。

 それに対して、小声で話す達也と愛。

「来るときは、バスで来たのに」

「しょうがないよ。どうせ、私たちは部外者なんだから」

「しかし、呉越同舟って、こういうことを言うんだろうな」

「達也、難しい言葉を知ってるじゃない。ローズ先生に褒めてもらえば」

「ばか、そんなことを言ったら、ローズ先生が敵だって知ってることになるじゃないか」

「冗談よ。それじゃ、道具を片付けるのを手伝いましょうか」

「そうだな」


 演劇部の部員に紛れて、道具をバスに積み終わると、ローズの所にすぐに行く。

「じゃあ、あなたたち、車に乗ッテ」

「「はい」」


 ここまで来れば、逆らうこともできない。おとなしくローズに従うだけだ。

 達也は助手席に、愛は運転席の後部座席に乗り込む。

 異常が在れば、すぐに、ローズ先生を取り押さえる配置である。


「忘れ物は無いわね。カーナビもセットしたし、それじゃ天翔学園に向かってGO―!」

 思い通りに事が進んでいるためだろう。口調も軽くローズは言った。

 

 そして、その後についてバスも出発するが、バスは、信号に引っ掛かって、どんどん遅れていき、後方にその影も見えなくなった。

「達也、おかしい、ローズ先生の車、さっきから一度も信号に引っ掛からない」

「えっ、運がいいだけじゃないのか?」

「ばかね。やられたわ。信号を乗っ取られている。信号を思い通りに変えて、この車を孤立させるつもりよ」

「そんなことができるのか?」

「そうね。信号も今は、コンピューター制御なのよ。不可能じゃないわ」

「という事は、私たちを付けている公安の護衛もついてくることができのか?」

「多分ね。それにカーナビも乗っ取られていると思う。地理に詳しくないローズ先生をカーナビで誘導して目的地点に誘い込むつもりなのよ。どうりで、SEXの連中の連絡のやり取りが少ないと思った。これなら、細かい打合せは必要ないわ」

「なるほど、カーナビの示す通りに行けば、その終点は崖からダイブか?」

「まさか、ダイブはないと思うけど、きっと、似たようなものね」


 愛と達也は、スマホを見ているふりをしてお互いにラインのやり取りをする。このライン、愛が作った匿名性の高いマルウエアで、その発信元を特定することができないようになっている。

 こんなものが犯罪に使われたら、警察では、絶対に犯人を特定することは不可能だろう。まったく、愛のハッカーの腕はたいした者である。


 車は、街中をうねうねと走り、本来なら首都高の入口から高速に乗って光彩市に向かうはずなのに、アメリカ大使館の中に車が滑り込んでいく。

 そして、車が敷地内に滑り込むと同時に、堅固な要塞のようなゲートが閉じられる。

 これで、外からは中で何が起こっているかもわからない袋のネズミ状態だ。


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