第29話 それから、公安たちはその四次元ホールから

 それから、公安たちはその四次元ホールから脱出することもできず、かといって、救出することもできず、スマホのバッテリーが無くなるまで、二四時間以上、四次元ホールが秋葉原から消えることは無かったのだ。

 この四次元ホールに囚われた公安の三人は、その間、目を瞑っていることで廃人になることを逃(まぬが)れていた。


 そういう訳で、達也たちは、公安のその後の行動を上手く牽制したみたいだ。公安からの接触はなかった。

 ローズ先生には秋葉原に出現した四次元ホールについて、見解を聴かれただけだが、FGCがスマホを通して発生させることができることは、当然、内緒にしている。

「解りません。きっと色々な条件が重なって、光子グラビティが自然発生したんじゃないですか」

 そうやってしらばっくれる達也に対して、外国まで調査を広げると、過去にそのような現象が在ったというような記録が無いわけでもなく、ローズもそれ以上は聞くことができない。

 そういう訳で、達也たち演劇部は、公安に邪魔されることなく、全国大会を迎えることができたのだ。


 全国大会の新たに変えた演出だが、シンデレラが最後、王子様に再会する場面、ガラスの靴を履き、白い鳥が舞い降りてくる場面、白い鳥はFGCで、キラキラと輝きながら、舞い降りてくる。そしてボロボロの衣装を引き千切ると、シンデレラの周りをまわりながら、キラキラと輝く光が、シンデレラに移ってゆく。

 それは、まるで光輝く羽根をシンデレラが纏うように見えて、その衣装が徐々に姿を現していく。若干、恋のレオタード姿が長くなったようだが、それは、まさに達也が望む魔法少女の変身シーンであった。

 そして、光輝く鳥は、徐々に光り輝く羽根を失い、やがて真っ黒なカラスになっていく。その邪悪な姿が、次の姉たちの目玉をえぐり取るシーンをより残虐に見せるのだ。


 達也と愛は、舞台のそでから演出の出来を見ている。

「達也、なかなか良くなったわね」

「だろ、背景についてはプロジェクトマッピングで、切り替えが早くできて、間幕の間延びが無くなったし、最後もより変身シーンらしくなった」

「それに、目ん玉を抉るシーン、白い鳥より、黒いカラスのほうが不気味さが出て、より雰囲気がでている」

「だろ、FGCの設定は、少し難しかったけど、立体ホログラムのプログラムを参考にしたんだ。それに、白く輝く鳥の反射光をシンデレラに移していけば、白く輝く鳥は、反射光が一切なくなって、真っ黒な漆黒になる。暗闇が鳥の形に切り抜かれたように、不気味に見ている人にはみえるだろうな」

「FGCって、大掛かりなことをしなくても、すごい光の演出ができるわね」

「俺はこんなことに使うつもりなんて、無かったんだけど……」

「うん、だろうね。あんたの性格は良く知ってる……。神様も無駄な才能を達也に与えたものだわ」

 愛は達也をせっかく褒めたのに、相変わらず達也の関心はあっちの方を向いている。

「あんた、ここは東京都なんだから、いつもの調子で、パンチラ狙っていたら、東京都迷惑防止条例で逮捕されるからね」

 そう言い捨て、愛は演技を終えた演劇部部員たちの方に歩いて行く。

「まったく、何を怒っているんだ?」

 達也も頭を傾げながら、愛の後に続くのだ。



 達也と愛は、天翔学園演劇部に合流した。

「達也君、どうだった。私たちの舞台?」

「そうだな、素人が見た感想も知りたいな」

 恋と演劇部部長も達也と愛を見かけると話し掛けてくる。


「すごく、良かったよ。予選会の時より数段上だった」

「恋さんの演技も良かったわよ。本当に魔法少女みたいだったもん」

 達也と愛はそう問いに返した。さらに、愛は結果について恋に問い返すのだ。

 それに答える恋。

「恋さん、後は金賞を採れるかどうかよね? 私たちは、演出はやれるだけはやったから、気持ちはやり切った感があるんだけど……結果が伴えば、なお嬉しいから」

「そうよね、後は結果だけね」


「あと二時間後には、結果が分かるわ」

「私たちは、後の学校の演技も観賞して、演技の勉強をするわ。あなた達はどうするの?」

「そうだな、愛、俺たちは会場の中でもぶらぶらするか?」

「そうね。達也が女優の卵たちの写真を取り出すとまずいから、私は達也について回るね」

「そうね。達也君や愛さんは演技をするわけじゃないから、退屈でしょうね。一応、結果発表までには、この控室に戻って来てよ。今度は、あなたたちも授賞式に出でてよ」

「部長さん、表彰される気まんまんじゃん」

「当たり前でしょ。やるからには、目指すのはトップよ」

「わかったよ。俺たちも授賞式には戻って来るよ。きっと金賞だと信じているから」


 そう言うと、演劇部は客席に、達也と愛は、ぶらぶらとロビーの方に向かって行くのだった。


「達也、出たところのハンバーガー屋さんで時間をつぶさない?」

「そうだな、後二時間も劇をみていられないしな」

「それに、この前みたいに、ローズ先生たちが何か仕掛けてくるのなら、これからじゃないかしら」

「じゃあ、ハンバーガー屋で対策を練ろうか?」


 そういうと、二人はハンバーガー屋に入り、セットを注文すると、まばらに空いている座席の中から、入口から死角になっている座席に腰掛けるのだ。


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